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中国AI「六小虎」の1社が評価額1.5兆円で上場準備に入った — StepFunという名前を覚えておく理由

DeepSeekが注目を集めたことで、中国のAIスタートアップに対する日本からの関心は一気に高まった。だが、中国には「六小虎(リューシャオフー)」と呼ばれる6社のAIスタートアップがあり、DeepSeekはその枠にすら入っていない。

StepFun

その六小虎の一角、StepFun(階跃星辰)が5月上旬に約25億ドル(約3,750億円)のプレIPO資金調達を完了した。評価額は100億ドル(約1.5兆円)。年内の香港上場を目指して、急ピッチで準備を進めている。

六小虎とは何か

中国AI業界で「六小虎」と総称されるのは、StepFun、智譜AI(Zhipu AI)、月之暗面(Moonshot AI / Kimi)、MiniMax、百川智能(Baichuan Intelligence)、零一万物(01.AI)の6社。いずれも2023年前後に創業し、独自の基盤モデルを開発している。

このうち智譜AIとMiniMaxは、2026年1月にすでに香港市場に上場を果たした。StepFunが上場すれば3社目になる。

DeepSeekが六小虎に含まれないのは、同社がヘッジファンド「幻方量化」の研究部門から独立した組織であり、独立したスタートアップとは性格が異なるためだ。

StepFunの技術的な立ち位置

StepFunは元MicrosoftのVP、姜大昕(ジャン・ダーシン)が2023年4月に創業した。2026年1月には、曠視科技(Megvii / Face++)の共同創業者である印奇(イン・チー)が会長に就任し、経営・技術両面で指導にあたっている。

主力モデルはStep-2シリーズ。1兆パラメータ超のMixture of Experts(MoE)アーキテクチャで、中国語のベンチマークではトップクラスの性能を出している。Step-2-16kは、LMArenaで中国国産モデルとして唯一グローバルトップ10入りを果たした実績がある。

2026年2月にはStep-3.5-Flashをオープンソース(Apache 2.0)で公開。196Bパラメータのうちアクティブは11Bという効率的な設計で、DeepSeekと同様にMoEの「小さく動かす」路線を踏襲している。

コンシューマー向けには「悦問(Yuewen)」というマルチモーダルAIアシスタントアプリを展開。テキスト・画像・動画生成・音声対話に対応し、iOS/Android/Webで利用できる。さらに車載AI分野にも注力しており、2026年末までに搭載車両100万台を目標としている。

25億ドル調達の背景

今回のラウンドには、AlibabaとTencentが既存投資家として参加し、中東のソブリン・ウェルス・ファンドも新たに加わった。産業系の投資家も多く、スマートフォンODMのHuaqin(華勤)、ZTE(中興通訊)、イメージセンサーのOmniVisionなどが出資している。

産業系投資家が多い点は注目に値する。純粋なVCマネーだけでなく、実際にAIを自社製品に組み込みたい製造業側からの資金が入っている。これはStepFunの車載AI戦略と符合する。

とはいえ、2025年の売上は約500百万元(約100億円)、2026年の予測でも約12億元(約250億円)。評価額1.5兆円に対して売上250億円は、正直なところかなり割高だ。ただし中国のAI企業は「まず上場して資金を確保し、そこから収益化を加速する」というパターンが多い。

日本から見たときの意味

StepFunの名前を今のうちに知っておく価値がある理由は3つある。

1つ目は、車載AI。StepFunのモデルが搭載された中国車が日本に入ってくる可能性は、数年前と比べて格段に高くなっている。BYDの日本進出が加速するなか、車内のAIアシスタントとしてStepFunの技術が間接的に日本ユーザーに届く日は近いかもしれない。

2つ目は、オープンソースモデル。Step-3.5-FlashはApache 2.0ライセンスで公開されている。日本語対応の度合いは未検証だが、DeepSeekと同じMoE系の効率的なモデルとして、日本の開発者が試す選択肢に入ってくる。

3つ目は、中国AI企業のIPOラッシュが示すトレンドだ。六小虎のうちすでに2社が上場し、StepFunが3社目になれば、残りも続く可能性が高い。中国AIセクターが「スタートアップの時代」から「上場企業の時代」に移行しつつある。投資対象として中国AIに関心がある層にとっては、見逃せない動きだ。

懸念点

評価額に対する売上の低さはすでに触れた通り。加えて、オフショア構造の解消(いわゆるVIEスキームの解体)を中国証券監督管理委員会の指示で進めている点は、規制リスクの存在を示している。中国政府の方針次第で上場スケジュールが変わる可能性はゼロではない。

また、六小虎の中での技術的な差別化が年々難しくなっている。Step-2の性能は確かに高いが、DeepSeek V4やERNIE 5.1との差は縮まっている。車載AIや産業向けなど、応用領域でどこまでポジションを確立できるかが、上場後の評価を左右するだろう。

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