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Kling AIが単独上場へ — 評価額3兆円、動画生成AIで初のIPOになるか

動画生成AIが、ついに「上場する会社」になろうとしている。

5月12日、中国のショート動画プラットフォームKuaishou(快手)がAI動画生成サービス「Kling AI」を分社化し、独立した資金調達とIPOを検討していることが報じられた。目標評価額は200億ドル(約3兆円)。TencentがプレIPOラウンドへの参加を協議中で、2027年の香港上場を目指すという。

報道を受けてKuaishou株は一時10%急騰した。

ARR3億ドル — 数字が語る成長速度

Kling AIの売上は驚異的なペースで伸びている。

ローンチから10ヶ月でARR(年間経常収益)1億ドルを突破。2025年12月時点で2.4億ドル、そして2026年3月時点では3億ドルを超えた。Kuaishouは2026年通年で売上が倍増する見通しだと発表しており、年末には6億ドル規模に達する可能性がある。

この数字がどれほどの速度かというと、SaaS企業がARR1億ドルに到達するまでの平均は約7年。Kling AIは10ヶ月でそこに到達し、さらにそこから5ヶ月で3倍にした。AI動画生成の市場そのものが急拡大している証拠でもある。

利用者は全世界で6,000万人以上のクリエイター、30,000社以上の企業顧客を抱える。API経由では国内外10,000社以上の法人・開発者が利用中だ。

なぜ今、分社化なのか

Kuaishouの本業はショート動画のSNSプラットフォーム。中国ではTikTok(Douyin)に次ぐ2番手で、時価総額は約250億ドル前後で推移してきた。

ここにKling AIを200億ドルと値付けすると、AI部門だけで親会社の8割に相当する。AI事業の成長速度と本業のSNS事業の評価が噛み合わなくなり、分社化して独立した評価を受けるほうが合理的、という判断だ。

もう一つの背景は、中国のAI企業IPOラッシュ。DeepSeekが50億ドル規模の調達を進め、StepFunも100億ドル評価で香港IPOを計画中。中国政府もAI産業の育成を掲げており、資本市場がAI企業に好意的な今が窓を開くタイミングという計算もあるだろう。

Seedanceとの競争 — 動画生成AIは「2強」の時代

Kling AIの最大のライバルは、ByteDanceのSeedanceだ。

Seedance 2.0は複数のベンチマークでKling 3.0を上回るスコアを叩き出し、両者は2026年に入って交互にトップを入れ替えている。OpenAIのSoraが事実上撤退し、Google Veoが無料開放で市場を広げる中、商用AI動画生成は中国勢の2強状態になりつつある。

IPOが実現すれば、Kling AIは動画生成AI企業として世界初の上場企業になる。それはSeedance(ByteDance傘下)に対して、独立企業としてのブランドとスピードで差をつける武器になりうる。

ただし、Morningstarのアナリストは「200億ドルの評価額は楽観的すぎる」と指摘している。ARR3億ドルの企業に200億ドルの値付けは売上の66倍以上。AI企業のプレミアムを考慮しても、IPO時にこの評価が維持されるかは不透明だ。

日本のクリエイターへの影響

Kling AIは日本語インターフェースも提供しており、日本のクリエイターにも多くのユーザーがいる。IPOによって資金力が増せば、日本市場向けのローカライズや料金面での競争力がさらに強化される可能性がある。

一方で、分社化によってKuaishouの巨大なデータ基盤との連携がどう変わるかは注視すべき点だ。親会社のSNSプラットフォームから得られるデータや配信チャネルが、独立後もこれまで通り使えるかどうかで、製品の進化速度に影響が出うる。

動画生成AIが「技術」から「企業」になる瞬間が、近づいている。

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