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$10Bだったはずが$50Bになった — DeepSeek初の資金調達が膨張し続けた理由

4月中旬、DeepSeekが初めて外部資金を受け入れるというニュースを伝えた。そのとき評価額は$10B、調達額は$300Mだった。

あれから1ヶ月足らず。数字が完全に変わった。

評価額は$50B(約7.5兆円)。調達額は500億元、ドルに換算して$7.35B(約1.1兆円)。中国AI企業の単一ラウンドとしては史上最大だ。わずか数週間で評価額が5倍に跳ねたことになる。

なぜ$10Bが$50Bになったのか

当初の交渉は比較的静かに進んでいた。$10B評価での$300M調達。創業者の梁文鋒(リアン・ウェンフォン)がヘッジファンドHigh-Flyerの資金で回してきた会社に、初めて外部の資本が入るという話だった。

ところが国が動いた。中国国家AI産業投資ファンド(2025年初頭に設立された$8.8Bの国家ファンド)が交渉に加わり、評価額の議論が一変した。さらに第三期国家集積回路産業投資基金(通称「大基金III」)のAI関連子会社、そしてテンセントも参加。

国策ファンドが入る以上、「中国のAI自立」というナラティブに見合う評価額が必要になる。$10Bでは安すぎた。$30Bを経由して、最終的に$50Bまで膨らんだ。

V4のタイミングが完璧だった

評価額の膨張と並行して、DeepSeekは4月末にV4をリリースしている。1兆パラメータのMoEモデルで、100万トークンのコンテキストウィンドウを持ち、APIの価格は主要フロンティアモデルの中で最安水準。

投資家が評価額を引き上げるには「技術的に確かな理由」が必要だ。V4はそれを提供した。ベンチマークでGPT-5.4やClaude Opus 4.6と張り合い、しかもコストが圧倒的に低い。V4プレビューの公開からわずか数日で評価額の議論が加速したのは、偶然ではないだろう。

資金の使い道 — 人材流出を止める

調達資金の用途として報じられているのは、計算インフラの拡充と従業員報酬の強化だ。

後者が興味深い。DeepSeekの研究者はここ数ヶ月、他社からの引き抜きに晒されている。R1やV3で名前を売った研究者たちは、中国AI業界のどの会社にとっても喉から手が出るほど欲しい人材だ。外部資金を入れてストックオプションを用意することは、引き留めの最も効果的な手段になる。

言い換えれば、DeepSeekが外部資金を受け入れた最大の理由は技術開発費ではなく、人材の流出防止だった可能性がある。

AI企業の評価額レース

DeepSeekの$50B評価を、同業他社と並べてみる。

OpenAIが約$300B。Anthropicが$61.5B。xAIが$80B。ByteDance傘下のDoubaoチームは未分離だが、ByteDance全体では$300Bを超えている。

$50Bは中国AI企業としては突出しているが、米国勢と比べるとOpenAIの6分の1。ただし、DeepSeekがV4クラスのモデルをOpenAIの数分の一のコストで訓練していることを考えると、「評価額あたりの技術力」ではDeepSeekが最も効率的なAI企業かもしれない。

この非対称性は投資家にとって魅力的だ。限られた計算資源で最大の成果を出すという実績は、半導体輸出規制下の中国において、リスクヘッジそのものになる。

ユーザーにとって何が変わるのか

正直なところ、$50Bの評価額がついたこと自体は、DeepSeekのAPIを使う開発者やchat.deepseek.comのユーザーにとって直接的な影響はない。

変わるのは中期的な話だ。1兆円規模の資金があれば、推論インフラの大幅な増強が可能になる。V4の75%割引が5月末までの期間限定になっているのは、おそらく需要を測っているためだろう。資金調達後に安定的な低価格が維持されれば、OpenAIやAnthropicのAPI価格にも間接的な下方圧力がかかる。

もうひとつ。DeepSeekがオープンウェイトモデルのリリースを続けるかどうか。国家ファンドが入ったことで、オープン路線の継続に政治的な制約がかかる可能性はゼロではない。R1やV3をオープンにしてきた方針が維持されるかどうかは、AI開発者コミュニティにとって最も気になる論点だ。


DeepSeekのV4 API価格やモデルの詳細は公式ドキュメントで確認できる。前回の資金調達報道については当サイトの記事も参照されたい。

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