半年で5,700億円を集めた中国AIチャットボット — Kimiの開発元が評価額3兆円に
半年で39億ドル。日本円にして約5,700億円。
中国のAIスタートアップMoonshot AIが5月7日、約20億ドルの大型調達を完了した。評価額は200億ドル(約3兆円)を超え、中国のLLMスタートアップとして最大の累計調達額を記録した。

「中国のAI=DeepSeek」というイメージが日本では定着しつつあるが、実態は少し違う。消費者向けAIチャットボットの世界では、Kimiが最も攻勢をかけている。
誰が金を出しているのか
リード投資家は美団(Meituan)の投資部門Long-Z Fund。中国最大のフードデリバリー企業が、AIチャットボットに賭けた形だ。China MobileやCPEも参加している。
注目すべきは投資のペースだ。Moonshot AIは2025年末に評価額100億ドルで資金調達を完了したばかり。そこからわずか5ヶ月で評価額が倍になった。以前の記事でも触れたが、中国AI市場の資金流入スピードは異常と言っていい。
Kimiが売れている理由
数字が雄弁だ。4月のARR(年間経常収益)は2億ドル超。2025年通年の売上が1.15億ドルだったことを考えると、年初から倍以上のペースで伸びている。月間アクティブユーザーは5,000万人以上、課金ユーザーは毎月170%以上のペースで増加している。
何がユーザーに刺さっているのか。Kimiの強みは長文処理だ。創業当初から超長コンテキスト(当初200万トークン)をウリにしてきた。論文、契約書、技術ドキュメントを丸ごと読ませて要約・分析させる使い方が、中国のビジネスユーザーや学生の間で定着している。
海外展開も加速している。海外APIの売上は2025年11月比で4倍。中国発のAIサービスとしては、DeepSeekに次ぐ存在感を見せている。
K2.6 — オープンソースで最前線に
技術面でも手を緩めていない。4月にリリースされたKimi K2.6は、1兆パラメータのMoE(Mixture of Experts)アーキテクチャを採用したビジョン言語モデルだ。
ベンチマーク上では、オープンウェイトモデルとしてQwen 3.6 MaxやDeepSeek V4と同等の性能を叩き出している。コーディング性能ではTier A評価を獲得し、しかもAPI利用コストが1回あたり$0.30と、Claude OpusやGPT-5.4の3〜4分の1で済む。
正直、このコスト効率は開発者として無視できないレベルにある。精度が同等でコストが4分の1なら、プロダクション用途での選択肢に十分入る。
DeepSeekとの違い
DeepSeekがオープンソースの研究志向を前面に出しているのに対し、Moonshot AIはコンシューマーアプリの収益化で先行している。ARR 2億ドルという数字は、中国のLLMスタートアップの中では突出している。
資金調達の構図も異なる。DeepSeekはファンド「幻方量化(High-Flyer)」の自己資金で回しており、外部調達は最小限。Moonshot AIは外部資本を積極的に受け入れ、評価額の上昇で存在感を示す戦略を取っている。
どちらが正しいかはわからない。ただ、両社とも黒字化の道筋を示し始めたことで、「中国AIスタートアップは赤字で膨らんでいるだけ」という見方は修正が必要になってきた。
気になるのはIPO
South China Morning Postの報道によると、Moonshot AIは中国のIPO規制強化への対応も視野に入れている。評価額200億ドルのスタートアップがどこで上場するかは、中国AIセクター全体の方向性を示すことになる。
中国AI市場の全体像については以前の記事で詳しく書いた。DeepSeek、Kimi、Qwen、そしてByteDanceのDoubao。4つのプレイヤーがそれぞれ異なる戦略で走っている市場は、2026年後半にさらに面白くなりそうだ。
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