Microsoft 365 Copilotが「24時間勝手に働く」モードへ——OpenClaw対抗の正体と、6月Buildで明かされる輪郭

7,000万人の有料ユーザーが使うAIアシスタントが、ユーザーがログインしていない時間にも仕事を進めるようになる。これは比喩ではない。
Microsoftが2026年4月13〜14日にかけて複数の海外メディアに認めたのは、Microsoft 365 Copilotに「常時稼働型(always-on)」のエージェント機能を組み込むプロトタイプを試している、という話だ。最初にThe Informationが掴み、TechCrunch、Dataconomy、The Meridiem、TheAIInsiderなどが追随した。
ここで言うagentは、いわゆる「OpenClawスタイル」——つまり、ユーザーがプロンプトを打たなくても、バックグラウンドで監視し、判断し、行動するタイプのAIエージェントだ。Anthropic製のOpenClawがOSSとして広まり、リスクを承知で導入した企業もあれば、リスクが見えすぎて様子見してきた企業もある。Microsoftはその「導入したいけれどガバナンスが怖い」企業を狙い撃ちに来た。
「待ってから動く」から「先に動く」へ
これまでのCopilotには明確な制約があった。チャット欄を開いて、質問して、答えが返ってくる。これでは便利なオートコンプリートに近い。
新しいプロトタイプは、その前提を逆さにしている。MicrosoftがThe Informationに語ったところによると、新しいエージェントは「常に動いているバージョンの365 Copilot」で、何時にでも行動を取れる。Outlookとカレンダーのデータを監視し、その日にやるべきタスクを提案し、長時間にわたるマルチステップのワークフローを実行する。マーケティング、セールス、経理など、職種ごとに権限を絞ったロールベースのスコープで動かす設計らしい。
たとえば月曜の朝、人間が出社する前にCopilotが先週の未返信メールを集計して優先度をつけ、Excelの月次レポートを下書きし、関係者にカレンダー招待を送っておく——こういう動きを、人間の指示なしで成立させるのが目標だ。
これは2025年までのCopilotとはまったく違うソフトウェアになる可能性がある。チャットボットというよりも「同僚」に近い。Microsoftがどう着地させるかはまだ不透明だが、構想としては正直、興奮する方向ではある。
Copilot CoworkとTasksの延長線にある
このニュースを「いきなり出てきた話」と受け取ると、Microsoftの動きを読み違える。実は地ならしは数か月前から進んでいた。
ひとつめは2026年2月にローンチした「Copilot Tasks」。メール整理や出張手配など、複数アプリをまたぐ作業を裏で完了させる、クラウドベースのサービスだ。
そして3月9日に発表されたCopilot Cowork。これがいま、Frontierプログラム経由で展開されている。Coworkはチャットの一往復に閉じず、数分〜数時間かけて複数アプリを横断して実行するための「マルチステップ実行基盤」だ。Word、Excel、PowerPoint、PDF、メール、スケジューリング、カレンダー管理、ミーティング、デイリーブリーフィング、エンタープライズサーチ、コミュニケーション、ディープリサーチ、Adaptive Cards——13個の組み込みスキルを持つ。
順序を整理するとこうなる。
- Tasks(2月) — 個別タスクの裏側実行
- Cowork(3月) — 複数アプリを跨ぐマルチステップ実行
- Always-On Agent(テスト中) — トリガーすら不要の常時稼働
つまり今回のリークは「Coworkを24時間動かしっぱなしにしたい」というMicrosoftの本音の表明だ。Coworkはまだ「ユーザーが頼んだら走る」モデルだったが、ここから「頼まなくても走る」フェーズに進もうとしている。
OpenClawとの分かれ道
ここで重要なのが「Microsoftはなぜ自前で似たものを作るのか」という問いだ。
OpenClawはAnthropicが提唱した、ローカル優先・オープンモデルで動く自律エージェントの仕組みだ。誰でもダウンロードして、自分のマシンで24時間動かせる。柔軟性は高い。一方で、企業に持ち込もうとすると問題が立ち上がる。データが社外に出る可能性、権限の境界が曖昧、監査ログが取れない、コンプライアンス要件にマッピングできない——CIOにとってはどれも「Yes」と即答できない論点ばかりだ。
Microsoftの戦略は分かりやすい。OpenClawの「常時動く」というアイデアだけを借りて、エンタープライズ向けのコントロールを全部被せる。
具体的にはMicrosoft Foundryでモデル管理とデプロイをルーティングし、Microsoft Graph APIで企業データへのアクセスを制御し、Copilot Studioで企業ごとのカスタマイズを通す。さらに4月3日に出したMicrosoft Agent Governance Toolkitが、サブミリ秒のポリシーエンジン、暗号学的なエージェントID、ランタイム隔離、EU AI Act/HIPAA/SOC2へのマッピング、9,500件以上のテストを提供する。
つまり「OpenClawの自由さは捨てるが、その代わりCIOが寝られる夜を返す」というトレードだ。OSS派から見れば窮屈だろうが、年間契約数百万ドル払っている大企業から見れば、これでようやく検討テーブルに乗る。
7,000万シートに何が起きるか
Microsoft 365 Copilotは2026年Q1時点で7,000万有料シートに到達している。これはOSS界隈で議論されているOpenClawの母数とは桁が違う。同じ「常時稼働エージェント」というコンセプトでも、配るチャネルがすでにある側と、ゼロから配り始める側では、市場へのインパクトの速さが根本的に違う。
仮に「Always-On Copilot」が来年のどこかでGAになり、E5やCopilot契約のオプションとして降ってきたとする。その時に起きそうなことを、いくつか想像してみたい。
1. 朝会の議題が変わる。 「今日何をやるか」を人間が考える時間が、「Copilotが提案したものを承認する時間」に変わる。リーダーの仕事が、計画立案からレビューにスライドする可能性がある。実際、Coworkの13スキルにはすでにDaily Briefingが含まれている。これを24時間モードで動かせば、出社前にその日のスケジュールが埋まっていることになる。
2. メール返信の70%がCopilot起点になる。 これは強気の予測だが、メール監視 + ロールスコープ + 自動アクションが揃えば、機械的な返信は人間の手を通る前にCopilotが下書きを完了させる。最後の承認だけ人間がやる、という分担になりそうだ。問題は、その「承認」が形骸化したときに何が起きるかだ。
3. Copilot Studioでの「自分エージェント」構築が爆発する可能性。 これはやや条件付きの予測だ。Microsoftが企業ごとのカスタムエージェントを「業務オーナーが自分で作る」方向に振り切れば、IT部門を介さずに業務担当者が自分専用のCopilotを立ち上げる流れが現実になる。逆に、カスタマイズを情シス必須のフローに閉じれば、現状とそれほど変わらない。Build 2026の開発者向け発表が分水嶺になる。
4. 「人間が見ていないAIが何をしたか」を監査するための新しい職種が生まれる。 これは半分冗談、半分本気だ。常時稼働するAIが取った膨大なアクション履歴を、ガバナンス・コンプライアンス・セキュリティの観点で見直す仕事は、明らかに人手が必要になる。Agent Governance Toolkitはそのための土台として用意されているわけで、Microsoftは「監査ツールも一緒に売る」つもりがある。
6月のBuildで何が出るか
詳細はMicrosoft Build 2026(6月)で出ると複数のレポートが伝えている。今回テストしているCopilotの新エージェント、もしくは既存ツールのアップデートとしてお披露目される可能性が高い。
筆者の見立てとしては、Build時点ではフルGAというよりも「Frontierプログラム経由で限定企業に提供開始」というアナウンスが妥当だと思っている。Coworkが3月に同じパターンで出てきたばかりだからだ。エンタープライズ向けエージェントは「やりすぎたら一発で信頼を失う」領域なので、Microsoftは慎重に段階を踏むはずだ。
微妙な点も書いておく
ここまで前向きに書いてきたが、不安要素もある。
ひとつめは、「Copilot」というブランドの混乱だ。GitHub Copilot、Microsoft 365 Copilot、Copilot Cowork、Copilot Tasks、Copilot Studio、そして今回のAlways-On Agent。社内呼称も含めれば10種類以上のCopilotがある。エンドユーザーには区別がつかなくなりつつある。Microsoftはどこかで命名整理をしないと、自社の説明だけで時間を使う羽目になる。
ふたつめは、「権限を間違えて吹き飛ぶ事故」のリスクだ。常時稼働するエージェントに必要な権限は、「ユーザーがその場で操作するCopilot」よりも明らかに広い。マーケティング担当者のCopilotがCRMにアクセスし、出張担当者のCopilotがクレジットカードAPIに触れる世界になる。ロールスコープを切るのは当然として、最初の数か月間は誤操作の事例が必ず出てくる。
3つめは、「OpenClawとの本格的な競合」を真正面から避けられる時間はそう長くないこと。AnthropicがOpenClawをエンタープライズ向けに磨いてくる動きは確実にある。Microsoft版とAnthropic版が同じ顧客の机上で比較される日は、おそらく2026年後半に来る。
まとめ
Microsoft 365 Copilotが「常時稼働型エージェント」の方向へ動き出した。これはCopilot CoworkとTasksの延長線にある自然な進化であり、同時にOpenClaw的な世界観を、エンタープライズが受け入れられる形にラップし直す試みでもある。
「待ってから動くAI」と「先に動くAI」の間には、業務設計の意味で深い溝がある。Microsoftがその溝を埋めにいくなら、今後数か月、CIOとIT部門の判断材料は急速に増える。6月のBuildでアーキテクチャの全体像がどこまで明かされるかが、最初の評価軸になる。
参考:
関連記事
Microsoft 365 E7が$99で来る — E5とCopilotだけでは「足りなくなった」とは何だったのか
Microsoft 365 E7(Frontier Suite)が5月1日発売、月額$99。E5 + Copilot + Agent 365 + Entra Suiteを統合した新SKUの中身とAgent 365の意味を解説。
AIが自分でハッキングを見つけて防ぐ — 元Googleセキュリティ企業トップが190億円集めた新会社
Mandiant創業者Kevin Mandiaが新たに立ち上げたArmadinを解説。自律型AIエージェントで攻撃AIと戦う構想、CIAのIn-Q-Telまで参加した$189.9M調達、既存セキュリティ企業との差別化ポイントを整理。
AIエージェントの暴走をどう防ぐか — Microsoftが「監視ツール」を無料で公開した
Microsoftが2026年4月2日に公開したAgent Governance Toolkitを解説。OWASP Agentic Top 10を全網羅し、0.1ms以下でポリシーを強制する実行時ガバナンス層。EU AI Act対応も視野に。