Antigravityからエディタが消えた — Google I/O 2026で発表された「2.0」は、もはやIDEではない
Google I/O 2026で発表されたAntigravity 2.0を見て、最初に気づいたのは「エディタがない」ということだった。
1.0はVS Codeをフォークした、いわゆるAI IDEだった。Editor ViewとManager Viewの二面構成で、CursorやWindsurfと同じカテゴリに入る製品だった。ところが2.0では、そのEditor Viewが完全に消えている。コードを書く画面がない。代わりに表示されるのは、エージェントの起動・監視・管理に特化したダッシュボードだ。
Googleの説明は明確で、「Antigravityはもうコーディングツールではなく、エージェント・オーケストレーション・プラットフォームである」と。つまり自分でコードを書きたければ、VS CodeなりCursorなりを別途開けということだ。
正直、これは大胆な判断だと思う。
5つのレイヤーで構成される新アーキテクチャ
2.0は以下の5層で成り立っている。
デスクトップアプリがメインの操作面。macOS・Linux・Windowsに対応し、複数のエージェントを並列で走らせてタスクごとに管理する。サブエージェントの自動分割、バックグラウンドタスクのスケジューリング、音声コマンドにも対応した。
Antigravity CLIはGo言語で新規に書かれたコマンドラインツール。ターミナルからエージェントを起動して指示を出すClaude Code的な使い方ができる。IDEを立ち上げたくない場面や、CI/CDパイプラインに組み込む場合に使う。
Antigravity SDKは開発者がカスタムエージェントを構築するためのライブラリ。Google AI StudioやAndroid Studio、Firebaseとネイティブに連携する。
Managed Agents APIはGemini APIの一部として提供される。1回のAPIコールでエージェントを呼び出し、コード実行・ファイル管理・Web閲覧をLinuxサンドボックス内で安全に実行する。
Enterprise Agent Platformは企業向けデプロイメント。Google Cloudとの統合、アクセス管理、監査ログを提供する。
料金はどうなったのか
ここが分かりにくい。Antigravity単体の料金というものは存在せず、GoogleのAIサブスクリプションに組み込まれている。
Google AI Proプラン(月額20ドル、約3,000円) で、Antigravityのデスクトップ・CLI・SDKすべてにアクセスできる。Gemini 3.5 Flashがベースモデルとして使える。
Google AI Ultraプラン(月額100ドル、約15,000円) は新設された中間ティア。Proの5倍の使用量上限と、Gemini Sparkへのアクセスが付く。さらに期間限定で100ドル分のボーナスクレジットが付与されている。
Google AI Ultra上位プラン(月額200ドル、約30,000円) は従来の250ドルから値下げされ、20倍の使用量上限を提供する。
無料枠でもAntigravityの基本機能は使えるが、利用量に明確な制限がある。1.0で話題になった「無料でClaude Opusが使える」という特典は、2.0ではGemini 3.5 Flashに集約された形だ。
使ってみて感じた設計思想の転換
1.0のAntigravityは「コードも書けるし、エージェントも管理できる」という全部載せの製品だった。2.0は明確に後者に振り切った。
デスクトップアプリを開くと、まず目に入るのはManager View——ここは1.0から引き継がれた。プロジェクトを選び、自然言語で「このリポジトリのテストカバレッジを80%に上げて」と指示すると、Antigravityがタスクを自動分割し、複数のサブエージェントを並列に起動する。Inboxには各エージェントの進捗・承認待ち・完了通知が時系列で表示される。
ここまではいい。問題は、エージェントが「ちょっとここの変数名を直して」レベルの修正を提案してきたとき。1.0ならEditor Viewに切り替えて直接コードを触れたが、2.0ではそれができない。別のエディタを開いて該当ファイルを探す必要がある。
UIは圧倒的に洗練された。1.0のゴチャゴチャ感は消え、エージェントの状態が一目で分かる。だが、ちょっとした修正すら外部エディタに頼る必要があるのは、日常的に使うには摩擦が大きい。
Cursor・Claude Codeとの位置関係が変わった
1.0の頃は「CursorとAntigravityどちらを使うか」という比較がよく見られた。2.0ではもはやそういう話ではない。
Cursorは「コードを書く場所」 であり続ける。エージェント機能が強化されているとはいえ、根本はエディタだ。Composer 2.5という自社モデルまで作って、コーディング体験を磨いている。
Claude Codeは「ターミナルからエージェントに任せる」 ツール。コードを書くのはClaude側で、開発者は指示と確認に集中する。
Antigravity 2.0は「エージェント群の司令塔」 という新しいポジションに移った。自分ではコードを書かないし、単一のエージェントとの対話でもない。複数のエージェントをオーケストレーションする——いわば管制塔だ。
だから、Antigravity 2.0とCursorは「競合」ではなく「併用」する製品になった。実際、GoogleもCursorやVS Codeとの併用を公式に推奨している。
Managed Agents APIが本命かもしれない
開発者向けに一番影響が大きいのは、実はManaged Agents APIだと思う。
Gemini APIにエージェント実行のエンドポイントが追加され、1回のAPIコールで「コードを書いて、テストを実行して、結果を返す」という一連の処理を安全なサンドボックス内で完結させられる。自前でエージェントランタイムを構築する必要がなくなる。
これが意味するのは、SaaSやWebアプリの中に「AIエージェントが代わりに作業する」機能を組み込むハードルが大幅に下がるということだ。たとえばプロジェクト管理ツールに「このチケットの実装をエージェントに任せる」ボタンを付けるとか、CIパイプラインに「テスト失敗時にエージェントが自動修正する」ステップを入れるとか。
Anthropic Claude Agent SDKやOpenAI Codexとの競合領域になるが、Google Cloudのインフラと直結している点は企業向けに優位だろう。
エディタを捨てた代償
エディタ廃止の判断は、開発者コミュニティでは賛否が分かれている。「エージェントに集中するのは正しい」という声がある一方、「ちょっとした作業のためだけに2つのアプリを開くのはつらい」という声も多い。
また、Gemini 3.5 FlashはGemini 3.1 Proをほとんどのベンチマークで上回るとされているが、コーディングタスクにおいてClaude Opus 4.7やComposer 2.5と比較すると、まだ差がある印象だ。特に大規模リファクタリングや複雑なバグ修正では、モデルの実力差が体感レベルで出る。
1.0で使えた外部モデル(Claude Opus 4.6など)へのアクセスがどうなるかも不透明で、現時点ではGemini系モデルに集約される方向に見える。
エージェントの「管制塔」という新しいカテゴリ
Antigravity 2.0の判断が正しいかどうかは、正直まだ分からない。だが、「コードを書くツール」と「エージェントを管理するツール」を分離するという発想そのものは、半年後には当たり前になっているかもしれない。
CursorやClaude Codeが1対1のエージェント対話に最適化されているのに対し、Antigravity 2.0はN個のエージェントの並列実行と統合管理に振り切った。これはまだどのツールも本格的に解いていない問題だ。
月額20ドルのProプランで全機能が使える点も、試すハードルは低い。ただし、エージェント管理だけでなくコードも書きたいなら、Antigravity 2.0にプラスしてもう一つのツールが必要になる。その点は理解したうえで触ってみてほしい。
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