10週間でARR22億円に達したSlack常駐AIの正体 — Viktorという「もう一人のチームメンバー」
公開10週間でARR(年間経常収益)$15M — 約22億円。2,000以上の組織が導入。Slackの共同創業者2人がエンジェル投資。
このスタートアップの名前はViktor。元Metaのエンジニア2人がワルシャワとミュンヘンで立ち上げた、Slack(とMicrosoft Teams)の中に住むAIコワーカーだ。5月19日にAccel主導で$75M(約110億円)のシリーズAを発表し、一気に注目を集めた。
チャットボットではない。「同僚」として振る舞う
ViktorをSlackに追加すると、チャンネルの中にもう一人のメンバーが現れる。ここまでは他のSlack AIボットと同じだが、Viktorが違うのは「タスクを最後まで完了する」点だ。
質問に答えるだけのチャットボットではない。Viktorはクラウド上に専用のコンピュータを持っており、コードを書いて実行し、PDF・スプレッドシート・ダッシュボード・Webアプリといった成果物を直接Slackに届ける。データ分析を依頼すれば、裏でPythonを回して可視化されたレポートが返ってくる。
3,000以上のツールとOAuth連携できるのも特徴で、Google Drive、Notion、Airtable、Shopify、Meta Ads、Stripeといったサービスに接続し、ツール間のデータを横断して処理する。「Stripeの今月の売上をまとめて、Google Sheetsに書き出して」といった指示が、Slackのメッセージ1つで完結する。
1ヶ月以上記憶が続く
個人的に一番引っかかったのがこの点。
Viktorは「weeks-long runs(数週間にわたる実行)」をサポートしており、1ヶ月以上のコンテキストを保持できると公式に謳っている。つまり、月初に「毎週金曜にKPIレポートを作って」と伝えれば、翌週以降も前回の文脈を覚えたまま継続的にタスクを実行する。
多くのAIツールはセッション単位でコンテキストがリセットされるため、この持続的な記憶は実用上かなり大きい。チームの業務パターンを学習し、頼んでいないことまで提案してくるようになるらしい。便利ではあるが、組織内の情報をどこまで学習するのかという点はセキュリティ面で気になるところだ。
料金
- Starter: 無料。$100分のクレジット付き(1ワークスペースあたり、使い切り)
- Team: 月$50(約7,500円)。20,000クレジット/月、定期実行やスケジュール自動化が可能
- Enterprise: カスタム。SLA、DPA、専任オンボーディング付き
無料枠があるため試しやすい。ただし$100分のクレジットがどの程度の作業量に相当するかは、タスクの種類によって大きく変わるだろう。
Slackの創業者が投資する意味
Viktorの投資家リストで目を引くのは、Stewart ButterfieldとCal Henderson — Slackの共同創業者2人だ。Slackのプラットフォームを最も深く理解している人物たちが、Slackの上に乗るAIエージェントに賭けた。
これは「Slack自体のAI機能では足りない」と彼らが認識していることの裏返しでもある。Slack AIはメッセージの要約や検索には優れているが、外部ツールと連携して実際のタスクを完了する能力はまだ限定的だ。Viktorはその隙間を埋めている。
正直、気になる点
日本語対応の状況が不透明だ。公式サイトは英語のみで、日本語でのSlackメッセージにどこまで対応するかは明記されていない。グローバルに2,000以上の組織が使っているとはいえ、日本市場への本格展開はまだ先かもしれない。
また、3,000以上のツール連携を謳っているが、日本で普及しているfreee、マネーフォワード、kintoneなどの国産SaaSとの接続は不明だ。Google WorkspaceやSlackを中心にしたワークフローなら問題ないが、国産ツールに依存している組織では活用範囲が狭まる可能性がある。
「ツールの中にAIがいる」時代
ChatGPTやClaudeは「AIのところに行って質問する」モデルだ。Viktorは逆で、AIが自分たちの仕事場に来る。Slackという、すでに一日中開いている場所にAIが住むことで、「AIを使おう」という意識すら不要になる。ただメッセージを送るだけ。
10週間でARR $15Mという数字は、このアプローチが少なくとも英語圏では強烈に刺さっていることを示している。日本での本格展開が実現すれば、「まずSlackに聞く」が「まずViktorに頼む」に変わるチームが出てくるかもしれない。
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