FlowTune Media

AIで作った曲が、本物のレコードになる — Sunoが大手BMGと組んで狙う次の一手

つい1年前まで、Sunoはレコード会社に訴えられている側だった。無断で楽曲を学習に使ったとして、大手各社から集団訴訟を突きつけられていた会社である。

その同じ会社が、いま大手レーベルと次々に契約を結び、あまつさえAIで作った曲を「レコード」にして売ろうとしている。8月に立て続けに出てきた2つのニュースを並べると、AI音楽をめぐる潮目が明確に変わったのがわかる。

BMGとの契約 — 2つ目の「和解」

8月12日、SunoはドイツのBMGとグローバル戦略提携を発表した。BMGは音楽出版とレコーディングの両方を手がける世界4位規模の音楽会社だ。今回の契約は、出版権・原盤権の両方を世界規模でカバーする。

ポイントは3つある。まず、過去にSunoがBMG楽曲を学習に使っていたデータについても、この契約が及ぶこと。つまり訴訟リスクの清算という側面がある。次に、アーティストや作曲家は自分の曲がAIの入力・出力に使われることを**オプトイン(自ら選んで許諾)**する仕組みになっている。そして、Sunoは音声のウォーターマーク(電子透かし)とフィンガープリント技術の採用を約束した。

BMGは、7月にワーナー・ミュージックが settlement に踏み切ったのに続く2社目のメジャー提携相手となる。訴える側だったレーベルが、次々と「一緒に稼ぐ側」に回っている構図だ。

なぜレーベルは方針を変えたのか。単純な話で、止められないなら取り込んで課金したほうが儲かる、という判断だろう。Sunoはこの提携を土台に、音楽業界と共同開発する初のモデルを準備していると明言している。学習データが「合法的にライセンスされた楽曲」で固められたモデルは、企業や広告制作の現場でも安心して使える。ここにこそ、Sunoが訴訟を金で片付けてでも欲しかったものがある。

AI曲を「レコード」にする — Suno Vinyl

もう一つの動きが、正直、最初に見たときは笑ってしまった。Suno Vinyl——自分がSunoで生成した曲を、本物の12インチ・レコードにプレスして自宅に届けるサービスである。8月6日にウェイトリストが開いた。

  • 価格は1枚45ドル(約6,600円)+送料
  • 12インチの黒盤、素材は環境配慮を謳うPETG
  • 片面あたりの合計で最大46分ぶんを収録可能
  • ジャケット・レーベル・スリーブのアートワークは自作でもSunoで生成したものでもよい

デジタルで無限に複製できるAI音楽を、あえて物理メディアに固定する。ちぐはぐに見えて、狙いははっきりしている。AIで作った曲に「モノとしての所有感」と「ギフト適性」を与えることだ。自分の子どもの誕生日に、その子のための曲を作ってレコードにして贈る——そういうユースケースなら、45ドルは決して高くない。

そして見落とせないのが、これがSunoにとって追加課金の導線になっている点だ。サブスクで曲を作らせ、気に入った曲を物理グッズとして売る。音楽生成AIが「ソフトの月額課金」だけでなく「モノの物販」に手を伸ばし始めた、という意味で象徴的な一手だと思う。

正直な評価

BMG契約は、Sunoにとって明確なプラスだ。ライセンス済みデータのモデルが実現すれば、これまでグレーゾーンを嫌って手を出せなかった企業ユーザーが一気に入ってくる余地がある。日本の広告・ゲーム業界のように権利処理にうるさい現場ほど、この「クリーンなモデル」の価値は大きい。

一方で、手放しでは褒められない。オプトイン方式とはいえ、アーティスト側から見れば「訴訟で勝ち取った成果」ではなく「金額を提示されて飲まされた妥協」と映る部分は残る。ウォーターマークにしても、実際にどこまで悪用検知に効くのかは運用が始まってみないとわからない。

Vinylのほうは、話題性としては満点だが、45ドルという価格と「AIで数十秒で作った曲を数千円で盤にする」という体験が、どれだけの人に刺さるかは未知数だ。個人的には、面白いけれど本命はやはりBMG契約のほうだと見ている。物販は話のネタ、レーベル提携は事業の土台。この2つが同じ週に出てきたことに、いまのSunoの立ち位置がよく表れている。

Sunoに関心があるなら、まずは公式サイトで無料枠を触りつつ、年内に出るはずの「業界公認モデル」がどんな音を出すのかを待つのが良さそうだ。訴えられていた会社が、業界のパートナーになる。その転換点を、いま私たちは見ている。

関連記事