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Suno、UMGとSonyとの交渉が止まっている — 「作った曲を外に出せるか」を巡る静かな綱引き

Sunoが静かに厄介な場所に立っている。

2025年11月にWarner Music Group(WMG)と結んだ「業界初のAI音楽ライセンス契約」は、Sunoにとって大きな突破口だった。長年くすぶっていた著作権訴訟を和解し、WMGのカタログを使ってモデルを再学習する道が開かれた。一時は「これで音楽業界との対立は終わる」という楽観的な空気すらあった。

それが、ここにきて止まっている。

何が起きているのか

Financial GazetteMusic In Africaなど複数メディアによると、Sunoは同じく大手3大レーベルのうち Universal Music Group (UMG) と Sony Music Entertainment との交渉に行き詰まっている。

争点はシンプルだ。

「ユーザーがSunoで作ったAI生成楽曲を、Sunoの外で自由に共有・配布できるか」

UMGとSonyは「アプリ内に閉じ込めろ」と主張している。Sunoで聴く・編集するのはいい、でもSpotifyやTikTokやYouTubeに流すのはNG、という線引きだ。一方Sunoは、「ユーザーがクリエイティブに作ったものを、自分の名義で世に出せる」ことを譲れない。このプロダクトの根幹がそこにあるからだ。

どちらの言い分も理解できる。レーベル側は「学習データの寄与を抑え切れないのに外部流通まで許せばレーベル資産が薄まる」という恐れがあり、Suno側は「作って終わりのツール」になってしまえば有料ユーザーの継続理由が半減する。この2つが真正面からぶつかっている。

Warnerとの合意は何が違ったのか

参考までに、11月のWarner合意で決まった骨子を見ておくとわかりやすい。

  • Sunoは未ライセンスデータで学習した古いモデルを引退させ、Warnerのカタログを含むライセンス済みデータで新モデルを構築する
  • 2026年中に段階的に変更を実施: 無料ユーザーは曲を再生・共有はできるがダウンロード不可に。有料ユーザーはダウンロード数に上限付きで制限
  • Warner所属アーティストは名前・声・作品の使用について個別にオプトインできる。参加した場合は新しい収益源が開く
  • Songkick(ライブ音楽プラットフォーム)もSunoが買収

つまりWarnerはSunoに対して「訓練データの提供」「アーティストのオプトイン制」「有料ユーザー中心の配布モデル」という3つの線でバランスを取った。Sunoはその代わりに無料ユーザーのダウンロードを禁止するというハードな代償を払った。

UMGとSonyは、さらにもう一段踏み込んで「配布制限の拡張」を求めているようだ。Warnerの時は有料ユーザーに広い商用権を認めたが、UMG/Sonyはそこを許したくない。もし両社が同じ条件で合意してしまえば、Warner合意の方が実質緩く見えるという不均衡が生まれる。ここが外野から見えにくい力学の一つだ。

日本のユーザーには何が見えるか

日本からSunoを使っている人にとって、この話は他人事ではない。

Sunoの有料プラン利用者には既に「Warner合意に基づく所有権条項の変更」が段階的に反映されつつある。これに加えてUMG/Sonyとの合意が決着しない限り、「自分が作った曲をYouTubeにアップしていいのか」という基本的な疑問が宙吊りになり続ける

現時点での実務的な目安はこうだ。

  • 無料プランで作った曲: 商用利用は不可、プラットフォームの外に出す権利は原則ない
  • 有料プランで作った曲: Sunoの規約では商用利用が認められているが、そこに参照した作品・学習データの権利関係まで全てがクリアになっているとは保証されない
  • UMG/Sonyアーティストを連想させるスタイル(例えば特定の有名アーティストを想起させる声質やリズム)を狙ったプロンプトを使う場合: 現時点では特にリスクが高い

Sunoは「ユーザーが有料で作った曲は広く使える」というメッセージを発信している。一方でレーベル側との交渉が長引くほど、ユーザーの立場は**「契約書の未定義領域」で動かされ続ける**。これが一番のストレスだ。

業界から見た意味 — 「学習」と「配布」の切り分け

もう一段高いところから見ると、この交渉はAI音楽のビジネスモデルそのものに関する綱引きだ。

レコード業界はこれまで、AIによる学習(input)と、AIが生成した曲の配布(output)の両方を同列に警戒していた。しかしWarner合意によって、「学習はライセンス料で解決、配布は別軸で管理」という分離が初めて現実的に描かれた。この分離がデファクトになれば、AI音楽スタートアップは「学習データ契約」と「配布権契約」を別個に交渉することになる。

UMGとSonyが今やっているのは、この分離線の傾きを自分たち側に倒す交渉だ。配布権をどこまで絞れるか、そのバーを高く設定できれば、今後他のAI音楽サービス(Udio、Riffusion、Stable Audio等)との交渉でも優位に立てる。つまりこれはSunoだけの話ではない。大手レーベルが次のAI音楽時代の標準条件を先に作ろうとしている交渉なのだ。

これからどうなるか

Sunoは現在、サンフランシスコに新オフィスを開設し、エンジニアとML部隊を70%増員する計画を進めている。つまりビジネス的には攻めのフェーズにあり、交渉が長引いてもサービスを止める気はない。

それでも、UMG/Sonyとの合意なしでは「安心して曲を世に出せるAI音楽サービス」には届かない。Warnerだけ押さえても、世界の音楽著作権の3分の2を占める残り2社と折り合えないままでは、プロのアーティストが本格的にSunoを本業に組み込むのは難しい。

個人的には、この交渉はあと数ヶ月かかるだろうと見ている。Warner合意が11月、WMG関連の条項変更が2026年中ばに反映予定と発表されていることを考えると、UMG/Sonyの合意も早くて夏、長引けば年末だろう。その間、Sunoユーザーは「自分の曲の配布権は宙吊り」という状態で音楽制作を続けることになる。

ひとつ言えるのは、この綱引きの結果がAI音楽の未来を決めるということだ。もしUMG/Sonyが強硬な配布制限で押し切れば、AI音楽は「Sunoのアプリ内で聴いて楽しむ娯楽」に落ち着く。Sunoが譲らなければ、AI音楽は「ユーザーが自由に配布できる新しいフォーマット」として業界を変えていく。どっちに転ぶかは、まだ誰にもわからない。

Suno v5.5は技術的には見事なアップデートだったが、技術と法務のギャップが一番広がっているのが今のSunoだとも言える。ツールとして使うなら、この不確実性を理解した上で触ったほうがいい。

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