Geminiで曲が作れるようになった — Lyria 3 Proは「音楽生成の本命」になれるのか
Suno、Udio、ElevenLabs Music。AI音楽生成の分野はすでに混み合っている。そこにGoogleが「Geminiの中で曲を作れます」と入ってきた。
Lyria 3 Proは、Google DeepMindが開発した音楽生成モデルだ。3月25日にリリースされ、4月のGemini Dropsアップデートで本格的にGeminiアプリへ統合された。テキストプロンプトから最大3分のフル楽曲を生成できる。
ただの音楽生成ではない。イントロ、バース、コーラス、ブリッジといった曲の構成を個別に指定できる。「もの悲しいピアノイントロで始めて、アップテンポなコーラスに展開し、アコースティックギターのブリッジで落ち着かせて」と伝えれば、その構成通りの曲が出てくる。AI音楽生成ツールの中で、曲のセクション単位の指示に対応したのはLyria 3 Proが初めてだ。
Suno v5.5と何が違うのか
正直なところ、現時点で最も完成度の高いAI音楽生成ツールはSuno v5.5だと思う。ボーカルの表現力、メロディの独創性、そして最大8分の長尺生成は、他のツールが追いついていない領域だ。
Lyria 3 Proの強みは別のところにある。
まず音質。15年以上のオーディオエンジニアリング経験を持つユーザーがテストした結果、Lyria 3 Proのインストゥルメンタルは「Sunoよりも遥かにフルで、空間的な深みがある」と評価されている。ダイナミックレンジと音色のリアリズムにおいて、Lyria 3 Proは技術的に最も先を行っている。
次に著作権。Sunoは2025年にメジャーレーベルから訴訟を受け、和解に至った経緯がある。Googleは「YouTubeおよびGoogleが使用する権利を持つ素材」で学習したと明言しており、商用利用における法的リスクはLyria 3 Proのほうが低い。企業のマーケティング動画やプロダクト紹介でBGMを生成する場合、この差は大きい。
一方、ボーカル生成ではSunoが圧倒的に上だ。Lyria 3 Proのボーカルはまだ不自然さが残る。歌モノを作りたいならSuno一択。インストゥルメンタルの品質を重視するならLyria 3 Pro。用途で使い分けるのが現実的な結論になる。
Geminiエコシステムの中にいる意味
Lyria 3 Proの最大の差別化は、Geminiアプリから直接使えることだ。
曲を生成したら、そのままNano Bananaでカバーアートを作り、Google Vidsで動画に組み込める。ProducerAIとの連携ではマルチトラック編集も可能だ。別サービスにログインし直す必要がない。この一気通貫の体験は、Sunoには真似できない。
開発者向けにはVertex AIとGemini APIでも提供されており、アプリにAI音楽生成を組み込む場合のAPI料金は1曲あたり$0.08(約12円)。Sunoの月額サブスクリプションと違い、使った分だけ払うモデルだ。月に数曲しか必要ないポッドキャスターやYouTuberにとっては、APIの従量課金のほうが経済的だろう。
料金プラン
Lyria 3 ProはGeminiの有料プランに含まれる。
Gemini AI Plus(月額$19.99、約3,000円)で1日10曲まで生成可能。Gemini Pro(月額$29.99、約4,500円)なら1日20曲。Gemini Ultra(月額$99.99、約15,000円)では1日50曲まで。すでにGeminiの有料プランを使っている人にとっては追加費用ゼロで音楽生成が手に入る計算になる。
Sunoの有料プラン(月額$10〜)と比べると1曲あたりのコストは割高だ。だがGeminiのチャット・画像生成・動画生成まで含めた総合プランとして見れば、音楽生成はオマケとして悪くない。
気になる制約
生成された全楽曲にSynthIDの透かしが自動で付与される。AI生成コンテンツであることを示す技術的なマーキングで、ユーザーが外すことはできない。商用利用の妨げにはならないが、「自作曲」として偽る使い方は想定されていない。
最大3分という長さの制限も、BGM用途なら十分だがフル楽曲としては短い。Suno v5.5の8分と比べると見劣りする。
もう一つ、プロンプトが曖昧だと出力もぼんやりする。BPMを数値で指定し、楽器を具体的に名指しするだけで品質が大きく変わる。「いい感じのポップス」ではなく「BPM 120、アコギとエレピ中心、メジャーキー」と書くのがコツだ。
音楽生成AIが「日常のツール」になる分岐点
Lyria 3 Proの登場で面白いのは、音楽生成が「専用ツールにわざわざアクセスする行為」から「チャットの流れでついでに作る行為」に変わり始めたことだ。
Geminiでプレゼン資料の構成を考え、そのままBGMを生成し、Google Vidsで動画にまとめる。NotebookLMのポッドキャスト機能と組み合わせて、AI生成の音声コンテンツにオリジナルBGMを添える。こうした「ついでの音楽生成」は、Sunoには提供しにくい体験だ。
音楽制作そのものを目的とするクリエイターにはSunoやUdioが合う。だが「コンテンツ制作の一工程として音楽が必要な人」にとっては、Geminiの中に音楽生成があること自体が価値になる。Lyria 3 Proは音楽生成AIの王座を狙うツールではなく、Googleのエコシステムをさらに離れがたくするピースだ。
関連記事
Suno、UMGとSonyとの交渉が止まっている — 「作った曲を外に出せるか」を巡る静かな綱引き
SunoがUniversal Music GroupとSony Musicとのライセンス交渉で停滞中。争点は「ユーザーが作った曲を外部に共有できるか」。Warner合意との違いと日本ユーザーへの影響を整理する。
Geminiを持つGoogleが、なぜClaudeに6兆円を賭けるのか
GoogleがAnthropicに最大400億ドル(約6兆円)を投資。Geminiと競合するClaudeの開発元に巨額を注ぐ理由と、Claude利用者への影響を整理する。
Google I/O 2026で何が出るか — Gemini 4、AIメガネ、「エージェントOS」の予兆
5月19-20日開催のGoogle I/O 2026で予想される発表を整理。Gemini 4、Gemini Nano 4、Veo 4、50g以下のAIメガネ、Android 17のAIエージェント統合など注目点を先読みする。