SlackとiMessageに住む「AI同僚」— 自前のPCでコードを書いて雑務を回すScarlett
「AI同僚」を名乗るプロダクトが、ここ数ヶ月で一気に増えた。Slackに常駐して雑務を片づけます、というやつだ。正直、最初の頃は「結局は賢いチャットボットでしょ」と少し斜に構えて見ていた。
だが7月10日にProduct Huntへ登場した Scarlett を触ってみると、この分野の売り文句が少しずつ実体を伴い始めているのを感じる。SlackとiMessageの両方に住み、クラウド上の「自分専用のPC」でコードを書いて実行し、タスクを最後までやり切る——というのがScarlettの主張だ。
チャットボットと何が違うのか
Scarlettの説明でいちばん引っかかったのは、「彼女はクラウドに自分のコンピュータを持っている」という一節だった。
普通のAIアシスタントは、質問に答えたり文章を書いたりはするが、実際に何かを「実行」する段になると人間に手渡してくる。Scarlettはそこが違う。与えられたタスクに対して、自分の環境でコードを書き、それを走らせて結果を出す。データを複数のツールから引っ張ってきて、レポートを組み立て、CRMを更新し、メールを送るところまで一気通貫でやる、という設計だ。
連携先は3,000以上。Salesforce、HubSpot、Linear、Notion、Jira、Stripe、GitHub、Google Driveと、業務で使う定番はひと通り押さえている。定型ワークフローの自動化、競合リサーチ、小さなアプリのビルドとデプロイまでこなすという。
機能の幅だけ見れば「なんでも屋」だ。ここは素直に、守備範囲が広い。
iMessageに住むという選択
Scarlettがほかの「Slack常駐AI」と一線を画すのは、iMessageにも対応している点だ。
これは地味に効く差別化だと思う。Slackはあくまで仕事のツールで、開くのは業務時間中が中心だ。一方iMessageは、多くの人が四六時中見ている。移動中や退勤後にふと「あの件、進めておいて」と一言送れば、AI同僚が裏で動いてくれる——という使い方が現実味を帯びる。
チャットUIに常駐するエージェントの価値は、結局「どれだけ自然に頼めるか」に尽きる。専用アプリを開いてプロンプトを打ち込むのは、それ自体が小さな摩擦だ。普段使いのメッセンジャーの中に相手がいるなら、その摩擦が消える。iMessage対応は、その一点を突いてきた設計に見える。
先行するViktorとの違い
この構図を見て、Viktor を思い出した人もいるはずだ。5月にシリーズAで$75M(約110億円)を調達し、公開10週でARR $15Mに達したSlack常駐AIコワーカーだ。3,000以上のツール連携という数字も、Scarlettとぴたり重なる。
正直なところ、機能セットだけを並べると両者はよく似ている。どちらも「チャットに住む同僚」で、統合数も近い。差がつくとすれば、ViktorがSlack/Microsoft Teamsという「職場のチャット」に軸足を置くのに対し、ScarlettはiMessageという私的な連絡経路まで踏み込んでいるところだろう。
もっとも、Scarlettはまだ登場したばかりで、Viktorのような実績(導入企業数やARR)は公表されていない。コンセプトの新しさと、実際に業務を任せられる信頼性は別の話だ。ここは今後の評価を待ちたい。
料金と、今の立ち位置
料金は「無料で開始」がベースで、Founding Members向けに$120(約1万9,000円)分のクレジットと創業者への直通ラインが用意されている。早期ユーザーを囲い込む、スタートアップらしい設計だ。ただし本格運用時の従量課金の詳細は、現時点では明確に公開されていない。ここは導入前に確認しておきたいポイントになる。
何が実現できるようになるか
Scarlettのようなツールが成熟すると、いくつか面白い変化が起きうる。
まず、「小さな社内ツールを作るコスト」がほぼゼロに近づく。今まではエンジニアに頼むか、自分でノーコードツールを組む必要があった軽いレポート自動化や集計スクリプトを、Slackに一言頼むだけで用意できるなら、非エンジニアの生産性の天井が上がる。
次に、属人化していた定型業務の引き継ぎが楽になる可能性がある。「この手順で毎週レポートを作る」という暗黙知をAI同僚に覚えさせておけば、担当者が変わっても手順が消えない。これは中小チームほど恩恵が大きい。
そしてもう一歩踏み込むなら、iMessage対応が示すのは「業務アプリを開かずに仕事が進む」世界だ。もしScarlettが十分に信頼できるレベルまで来れば、PCの前に座らずにチームの雑務が回る——そんな働き方が現実になるかもしれない。ここは実行の正確さ次第で、期待値は高いが未知数、というのが率直なところだ。
現時点での評価
コンセプトは魅力的で、iMessageという切り口も鋭い。ただ、この領域はViktorをはじめ競合がひしめいており、Scarlettが抜け出せるかは「実際にどれだけ任せた仕事を正確にこなすか」にかかっている。自前のコンピュータでコードを実行する以上、暴走やミスのリスク管理も気になるところだ。
とはいえ、AI同僚というジャンルが「便利そう」から「実際に業務が回る」へと移りつつある流れの中で、Scarlettはその最前線にいる一つだ。まずは無料枠で、任せて安心できる範囲を見極めるところから始めるのが良さそうだ。公式サイトは tryscarlett.ai にある。
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