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Perplexityの「シークレットモード」は偽物だったのか — 135ページの訴状が暴いた内幕

Perplexityを「シークレットモードで」使っていた人は、息を呑む話かもしれない。

2026年4月1日、ユタ州在住の男性がPerplexity AIをカリフォルニア州北部地区連邦地裁に提訴した。訴状は135ページに及ぶ集団訴訟で、中身は一言でいうと「Perplexityはあなたの会話内容を、Meta と Google に垂れ流していた」というもの。しかもそれが、シークレットモード(Incognito Mode)を有効にしていても行われていたと主張している。

訴状がこの機能を表現した単語は、はっきりしている。sham(まやかし、見せかけ)。

訴状は何を主張しているのか

BloombergMediaPost が報じている内容を整理すると、訴状の主な主張は以下の通り。

  • Perplexity のコード内に、Meta Pixel、Google Ads、Google DoubleClick、Meta Conversions API の4種類の計測タグが埋め込まれていた
  • これらのタグは、ユーザーがPerplexityにログインすると同時に、自動的に検出不可能な形で動作を開始する
  • 送信されていたデータは「ユーザーのプロンプト内容、Perplexityの回答内容、メールアドレス、IPアドレス、デバイス情報」
  • これらの情報は Meta と Google の広告ターゲティング基盤に直接流れていた
  • 有料プラン(Pro / Max)には埋め込まれていなかった。対象は無料ユーザーのみ

最も強い言葉が並んでいるのは、Incognito Mode に関する部分だ。訴状は「ユーザーがプライベートに閲覧していると信じている状態でも、トラッカーは同じように動作していた」とし、この機能を "sham(まやかし)" と断定している。

ここで注目すべきは、訴状が請求している情報の流れが「Perplexityを経由する前に」なのか「経由した後に」なのかという点だ。訴状の主張は後者に近い。つまり、ユーザーが質問を送信 → Perplexityのフロントエンドで受け取り → Perplexityが処理する前に Meta Pixel が検知してMetaに送信 → その後Perplexityが処理してLLMに渡す、という流れ。これが事実なら、Perplexity側が「私たちは個人情報を共有していません」と言っても整合性が取れる(彼らのバックエンドは送っていないから)。

なぜ無料ユーザーだけが対象なのか

有料プランにはトラッカーが入っていなかったという点は、裁判の結果を左右する重要な論点になる。

シンプルに解釈すれば、「有料ユーザーはプライバシーを金で買える。無料ユーザーは広告計測のデータソースとして使われる」という構造が浮かび上がる。これ自体は別に目新しくなく、Google も Meta もそうやってビジネスを回してきた。問題は、Perplexity が「AI検索」として売り出している以上、無料プランユーザーは「広告プロダクトのユーザー」という自覚がなかった点だ。

訴状に記載されたクラス定義は以下の通り。

  • 全国クラス: 2022年12月7日〜2026年2月4日 の間に、Perplexity を無料プランで使い、データがMetaまたはGoogleに送信されていたユーザー全員(Pro / Max 加入者は除外)
  • カリフォルニアサブクラス: 同じ期間の中で、カリフォルニア州居住者

対象期間は約3年2ヶ月。Perplexityは月間アクティブユーザー1億人を超えているので、対象は数千万人単位になる可能性がある。

筆者もその対象に入っている。2023年頃から無料プランで使い始めて、Pro に切り替えたのは去年の後半だ。訴状の期間の大半、筆者のクエリはおそらく Meta と Google にも流れていたことになる。正直、気持ち悪い。

Perplexity の反論

Bloomberg の報道によると、Perplexity の広報は以下のようにコメントしている。

「私たちはこの内容に一致する訴状をまだ公式に受領していない。したがって、その存在や主張の内容について確認することができない。私たちは、ユーザーデータを Meta や Google と共有していない。」

この反論にはいくつかポイントがある。まず、「訴状を受領していない」というのは4月1日時点では事実だろう。集団訴訟は提訴後、被告への送達(サービス)が別プロセスで行われる。なので「知らない」の一点張りは法的には正当な段階だ。

しかし「ユーザーデータを共有していない」という主張は、先ほど触れた「Perplexityが処理する前にトラッカーが動いていた」という訴状の主張と、技術的には両立する。Perplexity のバックエンドは送っていなくても、フロントエンドにタグを埋めた時点でデータは流れる。広義の「共有」と狭義の「共有」のすれ違いが起きている可能性がある。

この種の事件は、コードのバージョン履歴やネットワークリクエストの記録が残っているため、裁判になると事実関係は比較的はっきりする。訴訟が進めば、訴状の主張か、Perplexity の反論のどちらが正しいかは、1〜2年のうちに明らかになるだろう。

日本では既に別の訴訟が進んでいる

Perplexity の法的リスクは、今回が最初ではない。日本ではすでに昨年から複数の訴訟が進行中だ。

2025年8月、読売新聞が東京地裁に著作権侵害で提訴。訴状によれば、Perplexity は 2025年2月から6月までに読売のウェブサイト上で 119,467 件の記事にアクセスし、著作権法の「複製権」「公衆送信権」を侵害していた。続いて日本経済新聞と朝日新聞も同様の訴訟を起こし、それぞれ22億円(約1,500万ドル)の損害賠償を求めている。

これらの日本の訴訟と、今回のアメリカの集団訴訟は論点が違う。日本は コンテンツ側の権利侵害(記事を勝手にスクレイピングして使った)、アメリカは ユーザー側の権利侵害(会話内容を勝手に広告会社に流した)。しかし共通するのは、Perplexity が「利便性のためにグレーゾーンを踏み越えていた」という全体像だ。

訴訟は別々に進むが、投資家と一般ユーザーの印象にはこれが一つのストーリーとして響く。筆者が Perplexity を今日推薦するかと聞かれたら、正直、迷う。製品としての質は依然として高いが、会社としてのガバナンスに対する疑問符は無視できないレベルになってきた。

ユーザーが今取れる対策

訴訟の結果を待つ必要はない。今すぐ取れる対策がいくつかある。

1. Pro または Max プランへの加入を検討する

訴状の記述が正しいなら、有料プランにはトラッカーが埋め込まれていない。月20ドル(約3,000円)を払うことでデータ送信からは外れる。ただし、これは「金で買うプライバシー」という構造そのものが問題なので、納得できない人には別の選択肢が要る。

2. ブラウザ側でトラッカーをブロックする

Brave ブラウザや Firefox のトラッキング防止機能、uBlock Origin などで Meta Pixel、Google Analytics、DoubleClick をブロックする方法。完全ではないが、少なくともブラウザから Meta や Google のドメインに向かうリクエストはほとんど止められる。VPN と組み合わせて IP 偽装まで加えれば、送信されるデータの特定性は大きく下がる。

3. 代替の AI 検索サービスに乗り換える

選択肢は以前より増えた。

  • ChatGPT Search — OpenAI自身の検索統合。検索部分はBing APIに依存しているが、広告トラッカーの埋め込みは今のところ報告されていない
  • Claude + Brave Search — Anthropic が Brave Search と統合した検索を Claude に提供している。Brave 自体がプライバシー重視で知られているので、相対的にクリーン
  • Kagi — 有料の検索エンジン。月10ドル程度で、広告も計測もない。AI検索機能も搭載

どれにしても「完全に安全」は存在しない。目的は「リスクを許容可能な水準に下げること」と割り切るのが現実的だ。

この事件が AI 検索業界全体に問うもの

今回の訴訟は、Perplexity 一社の問題に見えて、実は AI検索プロダクトのビジネスモデルそのものに向けた問いを含んでいる。

従来の検索エンジン(Google)は、広告モデルで回ってきた。ユーザーは無料で使い、広告主が金を払う。この構造が成立していたのは、「検索クエリは単語レベルで、プライベートな内容とまでは言えない」という暗黙の了解があったからだ。

しかし AI検索はクエリの性質が根本から違う。ユーザーが入力するのは、単語ではなく、自然文の質問だ。「同僚との人間関係について相談したい」「子供の発達障害について調べたい」「離婚を考えている」といった、極めて個人的な内容が平気で入ってくる。これを広告ターゲティングに使うことの倫理的ハードルは、従来の検索とは比較にならないほど高い。

Perplexity がこのハードルをどう越えようとしたのか(あるいは越えなかったのか)は、裁判で明らかになるだろう。重要なのは、今後のAI検索ビジネスが「無料モデル+広告計測」という従来モデルをそのまま持ち込めるかという業界全体の問いだ。今回の訴訟は、その問いに対する最初の法的テストケースになる可能性が高い。

現時点での筆者の見解

この訴訟には、事実認定が終わっていない段階だからこそ慎重になるべき点がいくつもある。「無料ユーザーのクエリがMetaとGoogleに流れていた」という主張は、もし事実なら重大だが、訴状の主張がそのまま通るとは限らない。135ページの書類を精読できる機会があれば別だが、現時点では「強い主張のある訴訟が提起された」という事実だけで判断を下すのはフェアではない。

ただ、日本の3社訴訟を含めて、Perplexity を取り巻く法的リスクが積み上がっているのは事実だ。筆者個人の行動としては、少なくとも当面は Pro プランを継続し、業務用途では別の選択肢も併用する方向で考えている。プロダクトとして Perplexity が優秀なことと、会社として安心できるかどうかは別問題、というのが今の率直な感覚だ。

集団訴訟はたいてい1〜3年かかるので、結論が出るのは2027年か2028年になるだろう。そのとき Perplexity というサービス自体がまだ存在しているのか、あるいは「昔あったAI検索サービス」の一つになっているのか。その頃にもう一度、この訴訟を振り返る記事を書くことになるかもしれない。

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