TikTokの親会社、利益が7割消えた — それでもAIに2.3兆円を注ぐByteDanceの計算
売上は伸びた。海外事業は前年比50%近く成長し、TikTok Shopの取扱高は70%増えた。
それなのに、利益が7割以上消えた。
2026年4月20日、ByteDanceの2025年決算の概要が複数の中国メディアから伝えられた。2024年に約330億ドル(約5兆円)あった純利益が、2025年には70%以上の減少。原因は明快で、AI関連の投資を一気に拡大したためだ。
「売上は成長しているのに利益が消える」という構造は、今のAI業界を象徴している。OpenAIもAnthropicもxAIも、巨額の調達と投資を繰り返しながら黒字化の見通しは曖昧なままだ。ただしByteDanceが他と違うのは、もともと巨大な黒字企業だったということ。利益を「出せない」のではなく、「出さない」ことを選んでいる。
2.3兆円のAI支出、何に使ったのか
ByteDanceの2025年のAI関連投資は約200億ドル(約3兆円)規模とされる。さらに2026年には1,600億元(約2.3兆円)の設備投資を計画しており、半分以上がAI用の半導体調達に充てられる見込みだ。
具体的に何に使われているのか。
AIチップの大量調達。 NvidiaのH200を2万基以上購入する交渉が報じられており、1基あたり約2万ドルとすると、これだけで4億ドル規模になる。中国国内での調達制限を回避するため、海外データセンターのリースにも数十億ドルを投じている。
独自AIインフラの構築。 ByteDanceは「大禹(Dayu)」と呼ばれるAI専用の液冷サーバーキャビネットを自社開発しており、1台あたり64〜128基のGPUを搭載する。さらに「MegaScale」と呼ばれる大規模学習クラスタは、数千基のGPUで兆パラメータ規模のMixture-of-Expertsモデルを安定的にトレーニングできるという。
基盤モデルの開発。 Doubao(豆包)のバックエンドとなるSeedシリーズのモデル開発や、動画生成AI「Seedance」、画像生成AI「Seedream」の研究開発に継続投資している。
Doubaoの規模感
この投資の最大の受益者が、ByteDanceのAIチャットボット「Doubao」だ。
月間アクティブユーザーは1.59億人(2025年10月時点)で、中国のAIアシスタント市場で圧倒的な首位。DeepSeekやBaiduのERNIE Bot、AlibabaのTongyi Qianwenを大きく引き離している。日次トークン処理量は2025年12月に50兆トークンに到達し、Googleが報告した43兆トークンすら上回る規模だ。
このユーザー基盤を支えているのが「無料」戦略で、ByteDanceはDoubaoの基本機能を無償提供しながらTikTok(抖音)やCapCutなど既存プラットフォームへのAI統合でマネタイズする構造を取っている。利益率を犠牲にしてでもユーザー基盤を獲る、というのはByteDanceがTikTokで証明済みの戦術だ。
AIコーディングにも参戦している
ByteDanceのAI投資は、チャットボットにとどまらない。
AIコーディングIDE「Trae」をリリースし、CursorやWindsurfがしのぎを削る市場に参入。マルチエージェントフレームワーク「Seed 1.8」をオープンソースで公開し、エージェント基盤でも存在感を示している。
正直に言えば、ByteDanceの戦略はある種の力業だ。巨大なキャッシュフローをAIインフラに変換し、ユーザー規模で競合を圧倒し、プロダクト群で市場を面で押さえる。技術的なブレークスルーで勝とうとしているDeepSeekとは対照的なアプローチといえる。
「利益を出さない」という選択の意味
ByteDanceの決算が示しているのは、AI競争のフェーズが変わったということだ。
2024年まではモデルの性能がすべてだった。GPT-4が出ればそれに追いつくことが目標になり、ベンチマークの数字が企業価値を左右した。だが2025年後半から、競争の焦点が「モデルの賢さ」から「インフラとディストリビューション」に移りつつある。
ByteDanceはここに全力で張っている。利益が7割減っても株主への説明が不要(非上場だから)という構造的な自由度を活かし、短期的な利益を捨ててAIインフラを積み上げている。
もちろんリスクもある。年間200億ドル規模のAI投資を続けながら、TikTokの米国事業が政治リスクにさらされている。もしTikTokのキャッシュフローが途絶えれば、AI投資の原資そのものが危うくなる。
ただ、逆に言えば「利益を7割失ってもまだ約100億ドルの純利益が残っている」という事実が、ByteDanceの体力を物語っている。OpenAIが年間数十億ドルの赤字を出しながら資金調達に頼っているのとは、構造が根本的に違う。
筆者の見方
ByteDanceの決算を見て率直に思うのは、「これは意図的な赤字転落ではなく、意図的な利益圧縮だ」ということ。
売上は成長している。事業の基盤は健全だ。その上で、余剰利益をAIに全振りしている。AI競争が「体力勝負」のフェーズに入った今、ByteDanceはその体力で最も有利なプレイヤーの一つだ。
問題は、この投資がいつリターンに変わるかだ。DoubaoのMAU1.59億人は凄まじいが、まだ収益貢献は限定的とされる。2026年の設備投資2.3兆円が利益を生むまでには、少なくとも1〜2年はかかるだろう。
それまでTikTokのキャッシュフローが持つかどうか。ByteDanceの「AI全賭け」の成否は、結局のところTikTokの命運と切り離せない。
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