Glean ── 社内の全SaaSを「AIが横断する1本の検索窓」にした会社は、いまどこまで来ているのか
社内のSlackで決まったことが、なぜかNotionのドキュメントに残っていて、さらに細かい仕様はJIRAのチケットに散っている。これを後から追いかけるのは、もはやSaaS時代の定番の苦行だ。
この「バラバラに散ったナレッジをどう束ねるか」という問いに、正面から取り組み続けている会社がある。Gleanだ。2026年に入って、Gleanは静かに、だが確実に「エンタープライズAIの土台レイヤー」の一角を取りにきている。
今のGleanがやっていること、ひとことで言うと
Gleanの基本機能は「社内のあらゆるSaaSを横断検索する」こと。Slack、Google Workspace、Microsoft 365、Salesforce、Notion、Confluence、JIRA、GitHub、Zendesk──100以上のアプリに繋ぎ、ユーザーの権限に応じて、見えてはいけない情報を隠しつつ、自然言語で横断検索ができる。
ここまでだけなら、2024年頃からいくつもの類似プロダクトが出ていた。Gleanが頭ひとつ抜けたのは、検索の上にAIエージェントの層を重ねてきた点である。
現在の主力はおおむね次の3つだ。
- Glean Assistant(Third-generation)── 全社データを横串で見るAIアシスタント。Deep Research、拡張推論モード、画像理解などが標準装備。
- Agentic Engine 2 ── 予定実行、バージョン管理、ユーザー入力への応答など、業務フローに組み込むためのエージェントランタイム。
- Glean Canvas(近日公開)── AIと協働でドキュメントや提案書をステップバイステップで仕上げる、対話型のライティング面。
筆者の印象としては、このラインナップは「検索→会話→ドキュメント作成」という社員の1日の流れをそのままなぞっている。Notion AIやGitHub Copilotのエンタープライズ版が特定のSaaS起点の体験なのに対し、Gleanは体験の起点がSaaSではなく、社員自身のタスクになっている。地味だがこれが一番の差別化だと思う。
なぜ2026年に存在感が急に増したのか
Gleanは2022年創業、数字だけ並べると「すでに大きい」状態だ。
- ARRが約9ヶ月で1億ドル→2億ドルに倍増
- シリーズF 1.5億ドル調達後の評価額 72億ドル
- Bloomberg「2026年に注目すべきAIスタートアップ」選出
- モデル中立戦略(15以上のLLMを自社プラットフォームから切り替え可能)で、GitHub Copilotのエンタープライズ版と競合
Futurum Groupのレポートが指摘しているのは、Gleanの強みが単なる検索エンジンではなく「Enterprise Graph」という知識グラフの作り込みにある、という点。これがCopilotとの決定的な違いで、Microsoft純正のCopilotはMicrosoft 365に深く繋がっている一方で、他社SaaSにまで知識の糸を張るのは設計上不得意だ。
Gleanは「Microsoftのものも、Googleのものも、Salesforceのものも、等距離で束ねる」というニッチを狙っており、このポジションが2026年のエンタープライズAI購買担当者に刺さっている。
日本ではどう売られているか
地味に重要なのが、日本市場での動きである。
2026年3月から、クラウドエースがGleanの日本向け販売を開始した。東京エレクトロンデバイスもパートナーとしてエンプラ向けに取り扱っている。つまり、「海外プロダクトを個人で契約」ではなく、日本語サポート込みで導入できる経路がすでに整っている。
これがなぜ重要か。Glean自体はSaaS集約型AIという性質上、導入時にコネクタ設計、権限モデル、監査ログ連携などの「泥臭い初期作業」が大量に発生する。英語でしか支援を受けられないとなると、導入候補から外れる日本企業がかなり出るはずだった。日本のSIer経由で買える、というだけで、社内稟議の難易度は下がる。
ただしここは注意点も書いておきたい。販売チャネルが複数あることは強みだが、契約形態や料金がSIer経由と直契約で変わってくるケースは実際ある。Gleanの公式サイトには価格表がなく、業界レポートによると概ね以下のレンジで見積もられる:
- Enterprise Search License: 約$45〜50/ユーザー/月
- Work AI(Advanced AI Add-on): 約$15/ユーザー/月
- 年間最低契約額: 約$50,000〜$60,000(100席以上が前提)
円換算すると、100席で年間800〜1000万円を超えるレンジになる。中堅以下の会社には、現時点では正直重い価格帯だ。
良いところと、微妙なところ
触れた範囲で率直に書く。
良いところ:
- 本当に「全社の情報を1本の窓から」引ける体験は、一度慣れると後戻りできない。特にエンジニアでない社員にとって、SlackとNotionとJIRAを跨いでの検索は普段やらない行動だが、GleanのUI上では自然に行われる。
- 権限モデルが細かく、「本来見えてはいけない情報」を検索結果から確実に弾いてくれる。このあたりの品質がCopilotより評価されている。
- モデル中立なので、社内でOpenAIからClaudeに切り替えたい、といった将来の都合に柔軟。
- Agentic Engine 2の予定実行は、たとえば「毎週月曜にこの5件のSalesforce商談を要約してSlackに流す」といった日々の運用に直結する。
微妙なところ:
- 価格が高い。SMBには向かない。
- 導入初期のコネクタ設計・権限整理に人月がかかる。情シスの体力がない会社はSIer経由で進めないと詰みがち。
- 「Gleanに全部任せる」構成にすると、特定のSaaSから離れた瞬間にナレッジグラフの鮮度が落ちる。結局SaaS側の運用規律が先に必要。
- Glean Canvas はまだComing Soon。ライティング領域でNotion AIやGrammarlyと戦えるかは未知数。
Gleanが普及したとき、何が変わるか
ひとつは、情報システム部の役割が「検索インフラの設計者」に寄っていくことだ。
これまで情シスはSaaS導入の交渉役・運用保守役という色が強かったが、Gleanのような横断AI層が普及すると、「どのSaaSを、どういう権限で、どこまでナレッジグラフに露出させるか」を決めるメタ業務が重要になる。これは単なる運用ではなく、業務設計そのもので、情シスの評価軸が「止まらないこと」から「情報がどれだけ流通しているか」にシフトする可能性がある。
もうひとつは、社内マニュアル・ドキュメントの価値の再定義である。現状、社内wikiやNotionページは「読まれない」ことが問題だった。が、Gleanのように裏側でAIが全部読み込んで答えてくれる環境が前提になると、ドキュメントは「AIに検索可能な形で置いておく資料」になる。読まれなくても価値が出る。これは書き手の心理的なハードルを下げるし、結果としてナレッジ流通の総量が増える。
このあたりの波及効果が、2026年後半から来年にかけて、エンプラAIの次のフェーズを作っていくのだろう。
まとめると
Gleanは、派手な新機能で殴り合う系のプロダクトではない。「社内検索+AIアシスタント+エージェント+ドキュメント作成」という地味な4点セットを、エンタープライズで回るレベルまで作り込み続けている会社、という評価が実態に近い。
料金レンジからして明日から個人で試せるツールではないものの、社内SaaSの乱立に疲れている情シス・CTOは、一度公式デモを受けておく価値がある。日本ではクラウドエース経由で日本語対応の販売ルートが整ったので、検討のしやすさは1段上がった。
この領域は、MicrosoftのCopilotとGleanの2強時代に入りつつある。どちらを選ぶかではなく「どちらがうちの業務に刺さるか」で決める時代が、今年中には来そうだ。
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