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Figure AI — $20,000のヒューマノイドロボットが「家に来る」まで、あと何歩か

ロボットが家にやってくる。

この手の話は何十年も繰り返されてきた。ASIMOもPepperも、結局は「デモ」の域を出なかった。しかし2026年のFigure AIを見ていると、今度ばかりは冗談で済まない気配がある。

Figure AIは2022年創業のヒューマノイドロボットメーカーだ。評価額$39B(約5.8兆円)。シリーズCで$1B超を調達し、NVIDIA、Intel Capital、Salesforce、Qualcomm Venturesといった名前が投資家リストに並ぶ。2024年2月の$2.6Bから約15倍に膨らんだ評価額は、単なる期待値ではなく、BMWの工場で実際にロボットが車を作っている事実に裏打ちされている。

BMWの工場で何が起きたか

Figure 02(Figure 03の前世代)は、BMWのサウスカロライナ工場で1日10時間シフトをこなしている。30,000台以上のBMW X3の製造ラインに投入され、90,000個以上のパーツを扱った。

数字で語るべきだろう。

組立タスクの効率が400%向上した。人間のサイクルタイムの4分の1で複雑なパーツ挿入を完了する。しかもそれだけではない。不良率が人間の0.3%から0.05%に改善された。精度においても人間を上回っている。

これは「ロボットが工場で動いている」というレベルの話ではない。すでに人間の代替として機能している。しかも、特定のボルト締めだけをやるような専用機ではなく、ヒューマノイド型の汎用ロボットが、だ。

Figure 03:家庭に向けて再設計された

Figure 03は産業用のFigure 02とは明確に方向性を変えた。家庭用を見据えた設計になっている。

スペックを見ると、44自由度(各手に16自由度)、移動速度1.2m/s(時速4.3km)、可搬重量20kg、バッテリー持続約16時間。指先のセンサーはわずか3グラムの力を検知でき、卵を割らずに持つような繊細な操作が可能だ。

搭載されている6台のカメラと「Helix」AIシステムが、このロボットの脳にあたる。Helixは「ピクセルからアクション」を直接学習する仕組みで、人間の動作を見て新しいタスクを覚える。タオルをたたむ、食洗機に食器を入れる、テーブルを片付ける、洗濯物を入れる――デモ映像では、これらが実際にスムーズに動いている。

正直に言うと、デモ映像は過去にも何度も騙されてきた。ただ、Figure AIの場合はBMWの工場で1,250時間以上の実稼働ログがある。「デモだけ上手い」とは言いにくい。

$20,000は安いのか高いのか

CEOのBrett Adcockが発表した目標価格は$20,000(約300万円)。Figure 02からの部品コスト90%削減によるものだ。

300万円をどう考えるか。テスラのOptimus(旧Tesla Bot)は$20,000〜$30,000と言われているから、価格帯としては横並びだ。高級車1台分。24時間文句を言わず働くロボットの値段としては、正直かなり攻めている。

ただし、2026年内に家庭に届くかというと、そこはまだ怪しい。Adcockは「2026年中に一部家庭への選択的デプロイを開始する」と言っているが、量産体制はまだ年間12,000台で、4年かけて100,000台に引き上げる計画だ。つまり初年度に手に入る人はごく限られる。

ソフトバンクが日本での独占権を握った

日本市場で注目すべきは、ソフトバンクとの独占販売契約だ。Figure 02の日本仕様を共同開発し、日本語対応と日本の安全基準への適合を進めている。

孫正義がロボティクスに賭けてきた歴史を考えると(Pepper、Boston Dynamics買収と売却)、三度目の正直なのか、また同じ轍を踏むのかは分からない。ただ、Figure AIのBMWでの実績は、過去のロボット企業とは質が違う。

日本は高齢化社会の先頭を走っており、介護・家事支援ロボットの需要は潜在的に巨大だ。Figure 03が日本語の音声コマンドに対応し、日本家屋の狭い間取りで動けるようになれば、「ロボットが家事をする」という光景が他のどの国よりも早く日常になる可能性がある。

AIモデルとしての本質

Figure AIを「ロボット企業」と見ると本質を見誤る。これは「身体を持ったAIエージェント」だ。

HelixのVLA(Vision-Language-Action)モデルは、カメラ映像と音声指示を入力として受け取り、関節のトルク出力に直接変換する。「青いブロックを取って」と言えば、人間がプログラムしたルーチンではなく、AIがリアルタイムに判断して腕を動かす。

これは、ChatGPTやClaudeがテキストの世界でやっていることを、物理世界に拡張したものだ。LLMの進化がソフトウェアエージェントを生んだように、VLAモデルの進化がフィジカルエージェントを生む。NVIDIAがFigure AIに投資している理由もここにある。

2026年はヒューマノイドロボット投資に$20B以上が流入すると予測されている。Figure AIはその最前線にいる。$20,000のロボットが家に届く日は、まだ「明日」ではない。だが「5年後の夢」でもなくなった。


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