Devinが「速さ」で差をつけにきた — SWE-1.7とCerebras連携で毎秒1,000トークン
1タスクあたり$1.97(約300円)。
Cognitionが7月8日にリリースしたSWE-1.7は、このコスト感を前面に押し出してきた。FrontierCodeベンチマークで42.3%を記録し、GPT-5.5の43.0%にほぼ並ぶスコアを、フロンティアモデルの数分の1のコストで叩き出している。
前バージョンのSWE-1.6は「使い心地」に振ったモデルだった。ループの削減、並列ツール呼び出し、過剰な推論の抑制。「賢いが遅い」を「ちょうどいい速さで賢い」に変える方向性だ。
SWE-1.7は打って変わって「生の知性」に舵を切った。
「RLの上にRL」という異例のアプローチ
SWE-1.7の技術的に面白いのは、Moonshot AIのKimi K2.7 Codeをベースに、さらに大規模な強化学習(RL)を重ねている点だ。K2.7 Code自体がすでにRL済みのモデルだから、RLの上にRLを載せた二層構造になる。
「RL後のモデルにさらにRLをかけても性能は頭打ちになる」というのが通説だったが、Cognitionはそこに大きな余地があることを示した。3大陸4拠点の分散パイプラインで学習を回し、6時間に及ぶロールアウトでは「自己圧縮」——モデルが自分の作業状態を要約して持ち歩く——という手法でコンテキスト長の問題を回避している。
ベンチマークの読み方
FrontierCode 42.3%という数字だけ見ると「すごそう」だが、冷静に見るべき点もある。
| ベンチマーク | SWE-1.7 | GPT-5.5 | Claude Opus 4.8 |
|---|---|---|---|
| FrontierCode 1.1 Main | 42.3% | 43.0% | 46.5% |
| Terminal-Bench 2.1 | 81.5% | 84.2% | 86.9% |
| SWE-Bench Multilingual | 77.8% | 76.8% | 84.4% |
FrontierCodeはCognitionの自社ベンチマークだ。「実際のメンテナがこのPRをマージするか」を評価するという設計思想は面白いが、自社モデルに有利なチューニングが入る可能性は否定できない。他のベンチマークではOpus 4.8に明確に差をつけられている。
ただし、SWE-1.7の売りは「最高性能」ではなく「この性能をこの価格で」という点だ。1タスク$1.97は、Opus 4.8やGPT-5.5を直接使うより大幅に安い。
Cerebras連携 — 秒間1,000トークンの意味
SWE-1.7はCerebrasのハードウェアで推論を回しており、1,000トークン/秒の出力速度を実現している。GPU推論の5〜10倍にあたる速度だ。
エージェント型のコーディングツールにとって、推論速度は地味だが決定的な要素になる。コードを読む→計画を立てる→編集する→テストを走らせる→修正する、というループを何十回と繰り返すとき、1回あたり数秒の差が合計で数十分の差になる。SWE-1.6の「高速ティア」が950 TPS だったから、速度面ではインクリメンタルな改善だが、コスト効率と組み合わせると競争力がある。
Claude Sonnet 5も選べるようになった
もう一つの動きとして、Devin Desktop(旧Windsurf)とDevin CLIでClaude Sonnet 5が使えるようになった。8月末まで従来のSonnet 4.6より約30%少ないクォータ消費で使えるプロモーション価格が設定されている。
Devinは自社モデル(SWE-1.x系)だけでなく、Claude、GPT、Geminiといった外部モデルも選択できるマルチモデル戦略を取っている。タスクの種類に応じてモデルを切り替えられる「Adaptive」モードもある。自社モデルの性能だけで勝負するのではなく、プラットフォームとしての柔軟性で差別化する方向だ。
料金体系
| プラン | 月額 | 備考 |
|---|---|---|
| Free | 無料 | ACU制限あり(評価用) |
| Pro | 約3,000円($20) | ACU $2.25/単位で従量課金 |
| Teams | 約12,000円〜($80基本+$40/席) | 3人チームで約$200/月 |
| Max | 約30,000円($200) | パワーユーザー向け |
| Enterprise | 要問い合わせ | VPC、SSO、専任サポート |
1 ACUは約15分の自律作業に相当する。ただし実際の消費量はタスクの複雑さによって大きく変動する。
素直に感心する点と、まだ足りない点
感心する点。 コスト効率は確かにいい。GPT-5.5並みの性能を数分の1のコストで提供するというのは、「AIコーディングを日常的に使いたいが月額が気になる」層に刺さる。RLの二重適用で通説を覆した技術的アプローチも、エンジニアとして面白い。
足りない点。 SWE-1.7はDevin経由でしか使えない。APIアクセスがないため、自前のパイプラインに組み込みたい開発者には選択肢にならない。FrontierCodeが自社ベンチマークである以上、第三者による独立評価が揃うまではスコアを割り引いて見る必要がある。
そして最大の課題は、AIコーディングツール市場がすでに過密状態だということだ。Claude Codeが開発者の満足度46%で首位、Cursorが日常編集ツールとして定着し、GitHub Copilotが$10/月で企業に浸透している。Devinが差別化できるのは「完全自律」——VMを立ち上げ、依存関係をインストールし、テストを回し、PRを出すまでを人間の介入なしにやり切る点——だが、その価値を毎月のACU消費で正当化し続けられるかは使い手次第になる。
関連記事
Windsurf、名前ごと消えた — 後継「Devin Desktop」で何が変わるのか
WindsurfがDevin Desktopに改名。SWE-1.6やACP対応など変更点と既存ユーザーへの影響を整理。
コードの89%をAIが書く会社が、評価額3.8兆円になった — Devin開発元Cognitionの1年間
AIコーディングエージェントDevinの開発元Cognitionが$1B(約1,500億円)を調達し評価額$26Bに。ARR 13倍成長と「社内コード89%がAI製」の意味を分析する。
CognitionがDevin向けにSWE-1.6をリリース——性能だけでなく「使い心地」を本気で鍛えたモデル
CognitionのSWE-1.6モデルを解説。ベンチマーク性能よりも「モデルUX」の改善に注力した設計思想と、ループ削減・並列ツール呼び出しなどの具体的改善点