Codexに"TODOリスト"が付く日 — 並列で走るScratchpadが静かに準備されていた
「複数のタスクを AI に投げて寝る」という使い方は、Cursor や Claude Code が先に現実にしてしまった。
OpenAI の Codex は、これに少し遅れている。クラウドエージェントは持っている。API も強い。モデル(GPT-5.4)も優秀だ。だが、「複数タスクを同時に回す UI」 という点では、Cursor 3 のタイル表示や Claude Code の subagent に比べて分かりやすい画面を持っていなかった。
その穴を埋める機能が、静かに準備されていた。名前は Scratchpad。
TestingCatalog の発見
きっかけは TestingCatalog の X 投稿だった。4月10〜11日にかけて、Codex アプリの内部で「Scratchpad」というラベルの実験機能が見つかった、という報告が流れた。
UI として確認されているのは、おおよそ次のような姿だ。
- TODO リスト形式のビュー。やりたいこと(タスク)を箇条書きで並べる
- 各タスクを起点にして、Codex チャットを複数同時に立ち上げる
- タスクは並列実行される。1つ目が終わるのを待たなくていい
- 走っているタスクは TODO リスト上でステータスが更新されていく
要するに、「1つの Codex チャットに会話を続ける」形から、「タスク単位でチャットをぶつ切りにして、複数同時に走らせる」形への移行だ。自然言語アシスタントというより、タスクトラッカー + エージェント群に近い。
なぜこれが重要なのか
単体の機能追加で終わる話ではない、というのが筆者の見方だ。
まず文脈。OpenAI は 2026年春にかけて、Codex Superapp 構想 を進めている。ChatGPT・Atlas ブラウザ・Codex を1つのデスクトップアプリに統合する、という方向性だ。Superapp の中核には「エージェントがツールを使いこなす」という思想があるが、ユーザーがエージェントに何を頼むかを管理する UI が、実はずっと欠けていた。
Scratchpad はその欠損を埋める役割を担いそうだ。
- ユーザーは朝に TODO を並べる
- それぞれのタスクに Codex をアサインする
- Codex は個別に調査・コーディング・デバッグを並行で進める
- ユーザーは進捗を眺めながら、必要に応じて介入する
この流れが成立すれば、ユーザー側は「自分が何を Codex に任せたか」を一目で把握できる。裏で10個のエージェントが走っていても混乱しない。これは、Cursor 3 が「tiled panes」でやっていること、Claude Code が「subagent mention」でやっていることに対する、OpenAI なりの回答に見える。
競合との並べ方
並列エージェント UI は、2026年の AI コーディング戦線の新しい勝負所になっている。現状のラインナップを整理しておく。
| ツール | 並列エージェントの UI |
|---|---|
| Cursor 3 | Agent Tabs + Tiled Panes。複数エージェントを同画面で並べられる |
| Claude Code | Subagent mention(@agent-name)で複数サブエージェントを同時起動 |
| Windsurf | クラウドエージェントの Arena Mode。サイドバイサイドで比較実行 |
| Devin | タスクキュー UI(最初からこれ前提の設計) |
| Codex Scratchpad | TODO リストから並列起動(未公開) |
注目したいのは、Scratchpad が「TODO リスト」という馴染みのあるメタファーを選んだ点だ。Cursor の Tabs や Claude の subagent は、ある程度「AI コーディングの文脈を分かっている人」向けの UI だ。一方で TODO リストは、プロダクトマネージャーでも、非エンジニアでも即座に理解できる。
これは、Codex Superapp がエンジニア以外も取りに行くための設計だと読んでいる。ChatGPT のユーザーベース(週間アクティブユーザー 8億人超と言われている)に、「やりたいこと」をぶん投げれば AI が勝手にやってくれる UI を渡す、という絵を描いているはずだ。
正直、気になる点
この段階で楽観的になりすぎると、後でしっぺ返しを食らう可能性がある。留保も書いておく。
1. まだ実験機能。TestingCatalog の発見は、Codex アプリのデバッグビルド内で見つかったものだ。OpenAI が正式に出すか、出すとしていつか、までは確約されていない。Scratchpad という名前すら仮称の可能性がある。
2. 並列実行のコスト。Codex を10個同時に走らせたら、API コストは当然 10 倍にはならないが、線形に近く上がる。ChatGPT Pro(月 $200)の Codex tier で Scratchpad をフル活用すると、クレジット枯渇が速そうだ。OpenAI が「Pro の中で10タスク同時まで」みたいな制限を付けてくるか、あるいは Scratchpad 専用プランを用意するか、どちらかになる気はする。
3. タスク依存関係。TODO リストは本来、「A が終わってから B」のような依存関係がある。Scratchpad がこれをどこまで扱うのかは、現時点では分かっていない。完全並列しかサポートしないなら、使いどころが「互いに独立した調査タスク」に限られてしまう。この場合、Devin の方が上位互換ということになる。
4. Claude のタスクリスト UI。実はこのパターン、Claude Code が UltraPlan で先に出している。Plan → Task list → 実行というワークフローは、Scratchpad より半年先を走っていたことになる。OpenAI の Scratchpad が Claude Code UltraPlan より優れている根拠は、今のところない。
実現したら何が変わるか
Scratchpad がちゃんと正式リリースされて、ChatGPT のサイドバーから使えるようになった場合、起こりうることを 3 つ書いておく。
非エンジニアが「AI にタスクを投げる」文化に触れる。これが一番大きい。現状、並列エージェント UI はエンジニア向けのツールに閉じている。ChatGPT という一般層向けのサービスの中に並列エージェントが顔を出せば、「AI に仕事をまとめて任せる」という考え方が一気に普及する可能性がある。
TODO アプリ市場の揺らぎ。Asana、Linear、Todoist、Notion のタスクビュー。これらは「タスクを書く・管理する」ことを中心に設計されている。ChatGPT に TODO リストが載ったとき、その TODO が自動で実行されるという違いだけで、ユーザーは別のものとして認識する。置き換えというより、「実行される TODO リスト」という新しいカテゴリが立ち上がる可能性がある。
朝の作業スタイルの変化。エンジニアが朝、コーヒーを淹れながら Scratchpad に TODO を書き出す。10分後、大半のタスクが Codex の結果として返ってきていて、本人はレビューとマージだけを行う。この働き方が現実になるかどうかは、Scratchpad の実装品質と信頼性次第だ。Cursor Background Agents で似たことは既にできるが、UI がバラバラで「朝のルーティン」には組み込みにくい。Scratchpad が TODO リストという日常的な UI でこれを出してくるなら、定着の可能性は高い。
まとめ
Scratchpad は、まだ実物が触れない機能だ。出るかどうかも100%ではない。ただ、OpenAI がこれを実験していること自体が、方向性のシグナルとしてはかなり強い。
Cursor と Claude Code に対して Codex が勝負するなら、モデル性能ではなく UI の見せ方で差をつけるしかない、というのが現状の認識だろう。Scratchpad はその勝負に投げ込まれる最初の駒に見える。
正式発表が出るまでにはもう少し時間がかかりそうだが、ChatGPT アプリのアップデート通知は当面こまめにチェックしておくといい。朝起きたら、ChatGPT のサイドバーに突然「Scratchpad」というボタンが追加されている、そんな日がそろそろ来るかもしれない。
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