FlowTune Media

日本のスマホで静かに広がる「AIキャラとの物語」— 運営元Wrtnが韓国初のAIユニコーンに

「AIのキャラクターと会話して、物語を一緒に進める」——そういうアプリを、日本のスマホユーザーが静かに使い込んでいる。その運営元が、韓国でAIサービス企業として初めて「ユニコーン」の仲間入りをした、という話である。

会社の名前はWrtn(뤼튼)。読みは「Written」に近く、母音を抜いた綴りだ。日本での知名度はまだ低いが、同社が日本で展開するキャラクターチャット「Charaput(キャラプット)」を触ったことがある人なら、実は縁のある会社ということになる。

何が起きたのか

Wrtnは2026年8月、Series Cの資金調達を発表した。調達額は報道により幅があり、約$72M〜$76M(おおむね100億円前後)。これにより企業価値は1兆ウォンを超えたとされ、韓国のAIサービス企業として初のユニコーンになった、と各紙が報じている。

ここは少し補足がいる。韓国では「評価額1兆ウォン超」を国内基準のユニコーンと呼ぶ慣習があり、1兆ウォンはドル換算だと約7億ドル台。世界標準の「10億ドル」ちょうどには届いていない可能性がある。だから「AIモデルを作る会社」ではなく「AIサービスを提供する会社」としての韓国初、という限定が付く点は押さえておきたい。

Wrtnはもともと「書く」ツールだった

面白いのは、この会社の出発点だ。Wrtnは2021年にソウルで創業し、当初は韓国語に最適化したAIライティング・生産性アシスタントとして伸びた。文章作成、検索、チャットをまとめた「AIスーパーアプリ」で、韓国内で数百万規模の月間利用者を集めたと言われる。名前の「Wrtn=書く」も、その出自の名残だ。

そこから、稼ぎ頭が完全に入れ替わった。今の主力は、AIキャラクターとの対話型エンタメ「Crack」。これを韓国では「Crack」、日本では「Charaput」、北米では「OOC」というブランドで出している。北米版OOCは「The Playable Anime(遊べるアニメ)」を掲げ、キャラクターの人物像や世界観、連続する物語を、ユーザーの選択で進めていく作りになっている。

数字が示す「海外シフト」

伸び方が急だ。2026年春に北米でOOCを立ち上げてから3か月ほどで、月商が100億ウォン(およそ$7.6M)規模に達したとされる。会社全体でも、2025年の売上が約$36Mだったのに対し、2026年通年は$152M超を見込む。1年で4倍という計算になる。

そして象徴的なのが、海外売上が国内売上を上回った点だ。牽引役の一つが日本市場。つまりこの会社は、韓国発でありながら、日本を含む海外のキャラチャット需要で伸びている。日本のユーザーが「知らないうちに」韓国ユニコーンの成長を支えていた、という構図になる。

なぜ日本でキャラチャットが伸びるのか

正直、ここは驚くべきことではないと思っている。日本にはもともと、乙女ゲーム、ボイスドラマ、二次創作、キャラクターに感情移入する文化の厚い土壌がある。「推し」と会話できる、しかも自分の入力で物語が分岐する——この体験は、既存のAIアシスタントが提供してこなかった空白地帯にきれいにはまる。

生成AIの会話能力が実用水準に届いたことで、「決められた台本を読むキャラ」から「その場で応答するキャラ」へと質が変わった。ChatGPTに用があるわけではない層、つまり作業効率化に興味のない層をAIに引き込んだ、という意味で、キャラチャットは生成AIの裾野を確実に広げている。海外ではCharacter.aiが先行したが、アニメ的な感性と日本語対応で刺しにきたのがWrtnだ、と位置づけられる。

筆者の視点 — 素直にすごい点と、正直な懸念

まず素直にすごいのは、ライティングツールから娯楽アプリへと収益の柱を丸ごと組み替え、しかも海外で当てたこと。ピボットの決断力と実行の速さは本物だと思う。

一方で、懸念も率直に書いておく。第一に収益の持続性だ。キャラチャットの課金は、一部の熱心なユーザーが支える構造になりやすい。ローンチ直後の急成長がそのまま続くとは限らず、飽きと乗り換えの速さはこの種のアプリの宿命でもある。月商$7.6Mという数字は勢いの証拠だが、来年も同じ角度で伸びるかは別の話だろう。

第二に競争。Character.aiをはじめ、この領域は資本もモデルも潤沢なプレイヤーがひしめく。差別化がキャラクターの魅力と世界観に依存するほど、コンテンツを供給し続ける体力勝負になる。

第三に、そして最も重い論点がコンテンツの健全性だ。感情移入を促す対話型サービスは、未成年の利用、依存、不適切な会話の生成といったリスクと常に隣り合わせになる。海外ではキャラチャットを巡る安全性の議論が実際に起きており、規制やプラットフォーム側の対応が今後の成長を左右する可能性がある。ここを軽視したまま伸ばせるフェーズは、そう長くないはずだ。

Wrtnという名前は日本ではまだ通りが悪い。だが、あなたのスマホに入っている「AIキャラと話すアプリ」の裏側にこの会社がいるかもしれない、と知っておくと、次に触れたときの見え方が少し変わるはずだ。会社やライティングツールの情報はWrtn公式サイトから確認できる。

関連記事