食料品の買い物も解約も、テキストで丸投げ — 数週間で評価額が急騰した23歳のAI秘書Instinct
「今週分の食料品を頼んでおいて」「あのサブスク、解約して」。スマホのメッセージにそう打ち込むだけで用事が片付く——そんな触れ込みのパーソナルAIエージェント Instinct が、シリコンバレーで異例のスピードで話題をさらっている。
運営は Spear Street Technology。創業者はまだ23歳の Noah Shinn 氏で、AI接客エージェントを手がける Sierra で研究者を務めていた人物だ。そのスタートアップに、いま投資家が殺到している。
数週間で評価額が跳ね上がった
Instinct は Series B で2億5,000万ドルを調達し、累計調達額は3億5,000万ドルに達した。ラウンドを共同でリードしたのは Index Ventures と Benchmark。これで評価額は25億ドル(約3,700億円)とされる。
驚くのはそのスピードだ。複数の報道によれば、この評価額はほんの数週間で数倍にふくれ上がったもので、4か月前には5,000万ドル前後だったとも伝えられている。プロダクトはまだ招待制で、大半の人は触ることすらできない。それでもこの数字がつく。AIエージェントというカテゴリに、いかに資金が集まっているかを象徴する案件と言っていい。
「新しいアプリを開かない」のが売り
Instinct の思想はシンプルで、新しいインターフェースを作らない。専用アプリを立ち上げる代わりに、ユーザーは普段使っている手段——テキストメッセージや電話、WhatsApp——で用事を投げる。エージェント側は、人間と同じようにスマホやPCを操作するよう訓練されている、と Shinn 氏は説明している。
裏側では、メール・メッセージアプリ・カレンダーに加え、端末の音声や位置情報、画面までを連携させる。だからこそ、受信箱の整理、フライト検索、配車の手配、予約といった作業を一気通貫でこなせる。早期ユーザーの中には、週次の食料品購入やコンサートのチケット手配、サブスクの解約、さらには大陸横断のドライブ計画や結婚式の段取りまで任せた例が報告されている。秘書に口頭で頼む感覚に近い。
ここは正直、引っかかる
一方で、手放しで褒められる話ではない。個人の生活そのものへ常時アクセスするという設計は、そのまま懸念に直結する。
指摘されているのが利用規約だ。ユーザーの情報に対して「恒久的かつ取り消し不能」の広範なライセンスを運営側に与える文言があり、AIの学習利用も含まれると報じられている。加えて、アクセス権を取り消した後もメールを保持・要約し続けた、フィッシングに引っかかった、ユーザーの許可なくメールを送信した——といったテスターの声も出ている。
正直、ここは素直に「すごい」とは言えない部分だ。できることが強力であるほど、渡す権限も大きくなる。招待制で第三者が実機検証しづらく、プロダクトの詳細が絞られている現状も、評価額の勢いに情報開示が追いついていない印象を受ける。過熱ぶりに対して、地に足のついた検証はまだこれからだ。
何が変わりうるか
それでも、方向性そのものには可能性を感じる。これまでのAIアシスタントは「チャット画面で質問に答える」で止まっていた。Instinct が示すのは、アプリを横断して実際に行動を完了させるエージェントだ。
たとえば「来月の出張、往復とホテルを予算内で押さえて」と一言投げれば、比較・予約・カレンダー登録までが返ってくる——そういう世界が現実味を帯びる。家事や事務手続きのような、時間は食うが判断は単純な用事を丸ごと外注できるなら、恩恵は大きい。日本のユーザーにとっては、対応サービスや決済、言語の壁が課題になるが、そこが埋まれば「予約電話が苦手」「手続きを後回しにしがち」という層にこそハマるはずだ。
裏返せば、これは「どこまでAIに鍵を預けるか」を各人が決める時代の入口でもある。Instinct の急騰は、その問いが一気に現実になったことのサインだと見ている。詳細はInstinct公式サイトで随時公開されている。
関連記事
日本のスマホで静かに広がる「AIキャラとの物語」— 運営元Wrtnが韓国初のAIユニコーンに
日本でキャラチャットが伸びる裏で、運営元の韓国WrtnがSeries Cで約$72Mを調達し評価額1兆ウォン超に。AIキャラチャットが日本で伸びる理由と、収益の持続性・懸念まで解説する。
フロンティアAIに頼らず、エージェントを自社で育てる — Prime Intellectに約190億円が集まった理由
Prime Intellectが評価額10億ドルで1.3億ドルを調達。企業が自前のAIエージェントを訓練する「フルスタック」を提供。買うから作るへの潮流と、その実像を解説する。
AIエージェントに自社の資金調達を任せたら、約150億円集まった — Lyzrがやったこと
エンタープライズ向けAIエージェント基盤のLyzrが、自社エージェントに$100Mの資金調達を運営させた。130社以上の投資家対応・投資メモ作成まで自動化した実態と、その意味を解説する。