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AIとの会話が「講義」から「雑談」に変わる — Oculus創業者が作った音声アプリSesame

スマホのAIに話しかけると、たいてい返ってくるのは「よどみない優等生の音声」だ。文法的には完璧で、感情はほどほど。便利ではあるけれど、あれは会話というより読み上げに近い。話しているうちに、こちらがだんだん疲れてくる。

Sesameの音声AIを試した人たちが口を揃えるのは、「あれは違った」という感想だ。息継ぎがあり、言い淀みがあり、こちらが話しかけると自然に割り込んでくる。相槌の間合いが妙に人間くさい。デモが公開されるやいなや、海外で「これは一線を越えた」とざわついたのはそのためだ。

誰が作っているのか

Sesameは、Oculusの共同創業者ブレンダン・イリーブ氏(元CEO)と、AR企業Ubiquity6の元CTOアンキット・クマー氏が率いる会話型AIスタートアップだ。すでに$250M(約375億円)を調達しており、資金力もバックグラウンドも軽くない。

VRの世界を作ってきた人たちが、次に選んだのが「人間らしい声で話すAI」だった、という点は示唆的だと思う。彼らの最終目標はスマートグラス(2027年予定)で、今回の音声アプリはあくまでその布石という位置づけだ。つまり「画面を見ずに、声だけでAIと自然にやり取りする」体験を、まず手元のiPhoneで完成させにきている。

4体のエージェントと、無料で試せる範囲

2026年5月末、SesameはiPhone向けアプリを39カ国でリリースした。搭載されているのはMaya、Miles、Simone、Charlieという4体のAIエージェント。それぞれ声だけでなく、性格・ものの見方・記憶までが独立している。同じ質問をしても返し方が違う、というわけだ。

料金面は今のところ気前がいい。現時点で有料プランは公開されておらず、すべて無料で使える。

  • Webデモ(app.sesame.com)はアカウント不要で、Maya・Milesと5分間ずつ会話できる
  • 無料アカウントを作れば、セッションは30分まで延びる
  • iOSアプリはApp Storeで公開中(Android版は本記事時点では未提供)

会話中にリアルタイムでWeb検索をかけ、メモや要約を取り、シークレットモードに切り替える——こうした操作が、すべて「話しながら」ひとつの音声セッションの中で完結する。ここがSesameのUIの肝で、いちいち画面を触って機能を切り替える感覚がほとんどない。

ChatGPTの音声モードと何が違うのか

「それ、ChatGPTの音声モードでよくない?」という疑問は当然出てくる。実際、応答の賢さそのものはChatGPTやGeminiのほうが上の場面も多いだろう。

Sesameが割り切って尖らせているのは、賢さではなく「会話の質感」だ。多くの音声AIが講義のように一方的に喋るのに対し、Sesameは沈黙や割り込み、感情の起伏を含んだ双方向のやり取りを狙っている。PCWorldのレビュアーが「試した中で最高の音声AIアプリ」と評しつつ、同時に「だからこそ怖い」と書いたのも、この生々しさゆえだ。

もうひとつの違いはエージェントに人格と記憶がある点。汎用アシスタントというより、「話し相手」に寄せている。用件を片付けるためのツールではなく、通勤中や寝る前に雑談する相手、と考えるとイメージが近い。

この自然さが何を変えるか

声が本当に自然になると、AIの使い所は「命令する」から「一緒に考える」へ広がる。

たとえば語学学習。教科書的な発音ではなく、言い淀みや相槌を含んだ相手と30分雑談できるなら、それだけで実践的なスピーキング練習になる。相手は疲れないし、恥もかかない。既存のオンライン英会話の一部は、これだけで置き換わる可能性がある。

あるいは、移動中の「考えの壁打ち」。頭の中のもやもやを声に出して話し、AIが自然に相槌を打ちながら整理を手伝ってくれるなら、メモアプリに打ち込むより速く思考がまとまる。会話中にそのまま要約を残せるSesameの設計は、この用途と相性がいい。

そしてスマートグラスまで見据えると、絵はもっと大きくなる。画面を一切見ずに、歩きながら声だけでAIと打ち合わせをして、必要な情報だけ耳で受け取る——そういう使い方が日常になったとき、いちばん効いてくるのは「声が人間くさいかどうか」だ。ロボット声のアシスタントと一日中話し続けるのは、正直しんどい。Sesameが今この部分に賭けているのは、方向として理にかなっていると思う。

正直な評価

素直にすごいと思うのは、やはり音声の質感だ。「うっかりバレー(不気味の谷)」を越えたと言われるだけあって、話していて違和感で興ざめする瞬間が少ない。無料でここまで試せるのもありがたい。

一方で、手放しには勧めにくい点もある。

まず、応答の中身の賢さは最上位モデルにまだ譲る場面がある。込み入った調べ物や正確さが要る作業は、素直にChatGPTやGeminiに投げたほうが早いだろう。Sesameはあくまで「会話体験」に振り切ったアプリだと割り切ったほうがいい。

日本語での自然さも未知数だ。海外で絶賛されているのは主に英語での会話で、日本語で同じ生々しさが出るかは実際に触って確かめる必要がある。Android版が未提供なのも、iPhone以外のユーザーには痛い。

そして、あまりに自然だからこその危うさもある。人格と記憶を持つ音声AIと毎日雑談する体験は、便利さと引き換えに依存を生みやすい。レビュアーが「怖い」と書いたのは、まさにこの点だ。ここは各自が距離感を意識して使うべきところだと思う。

とはいえ、無料で試せる以上、一度Mayaと5分話してみる価値は十分ある。AIとの会話が「読み上げ」から「雑談」に変わる感覚は、文章で読むより実際に喋ってみたほうが早い。気になる人はSesame公式サイトから触ってみてほしい。

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