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一番賢いモデルを使わずに、一番賢い答えを出す — Sakana AIの新Fugu MaxとUltra v2

$5で入って$30で出る「Fugu Ultra v2」が、3〜5倍高いフロンティアモデルをベンチマークで上回った——という話が、2026年9月10日に流れてきた。

出どころは日本のSakana AI。6月に出したマルチモデルオーケストレーター「Fugu」を、今回「Fugu Max」と「Fugu Ultra v2」の2系統に分けてきた。同じ思想の延長線上にあるが、狙っている方向が正反対で面白い。

そもそもFuguは「使い分けを自動化する」AI

前提を軽くおさらいしておく。

Fuguは、単体の大規模言語モデルではない。裏に複数のモデル(オープンなものや特化型のもの)を抱えていて、タスクごとにどれを使うか自分で判断し、必要なら自分自身をもう一度呼び出して段階的に答えを組み立てる。Sakana自身の説明では、これは「タスクをモデルのプールにルーティングする訓練を受けた言語モデル」であり、そのルーティング自体を学習している点が肝になっている。

ユーザーから見ると、契約するAPIは1つ。裏で「これはコード寄りだからこのモデル」「ここは検証させたいから別のモデルに書かせてレビューさせる」といった采配を勝手にやってくれる。「どのAIが最強か」を人間が悩む代わりに、オーケストレーターに丸投げする、という発想だ。

今回のアップデートは、この丸投げ先を「安さ方向」と「賢さ方向」の2つに割ったものだと理解すると早い。

Max=コストを削る、Ultra v2=天井を上げる

Fugu Max — 安いのにトップスコア

Fugu Maxは料金を100万トークンあたり入力$2 / 出力$6に設定してきた。Sakanaによれば、これはSonnet 5やGPT-5.6 Terra、Kimi K3といった主要モデルより40〜60%安い水準になる。

安かろう悪かろうではないのがポイントで、Terminal Bench 2.1やGPQAD、AA-LCR、AutomationBenchなど複数のベンチマークで総合トップを取ったとされる。要は「コストパフォーマンスの下限を押し下げる」役回りだ。

Fugu Ultra v2 — 天井に振り切る

一方のUltra v2は入力$5 / 出力$30。キャッシュ読み込みは$0.50/M、Web検索は$10/1000回。コンテキストが272,000トークンを超えると、それぞれ$10 / $45 / $1.00に上がる二段階料金になっている。コンテキストウィンドウは100万トークン、出力は最大128,000トークン。

こちらは値段より性能を優先した構成で、数字が派手だ。図表読解のChartographyで48.3(Opus 5の27.3、Fable 5の29.5を大きく上回る)、コーディング寄りのDeepSWEで74.3を記録し、トークン単価が3〜5倍高いモデルを抜いたという。

MaxとUltra v2は「同じコアのオーケストレーション基盤」を、片方はコスト効率、もう片方はピーク性能、という別々のミッションにチューニングした兄弟、という位置づけになる。

なぜこれが効くのか、という話

個人的に一番腑に落ちたのは、Ultra v2が「必ずしもフロンティアモデルに依存しないで、ピーク性能を上げた」と説明されている点だ。

普通に考えれば、最高精度を出したければ一番賢い(=一番高い)モデルを叩けばいい。でもFuguのアプローチは、そこそこ賢いモデルを賢く組み合わせ、書かせて→検証させて→直させる、というループで最終的な答えの質を上げる。海外では今回の値付けを「Orchestration Arbitrage(オーケストレーションの裁定取引)」と呼ぶ向きもあった。高いモデルを1回叩くより、安いモデルを段取りよく何度も回したほうが、安く・ときに良い答えが出る、という裁定が成立し始めている、という含みだ。

裏を返すと、料金表に出てくる「入力・出力トークン」には、Fuguが内部で自分を呼び出したり別モデルに投げたりする分(オーケストレーショントークン)も含まれる。つまり見かけの単価は安くても、1リクエストあたりのトークン消費は素のモデルより増えうる。ここは実際に自分のワークロードで回してみないと、本当に安いのかは断言できない。カタログスペックの単価だけで飛びつくと、月末の請求で「あれ?」となる可能性は普通にある。

何が実現しそうか

この2本立てが効いてくるのは、「1つのプロダクトの中で、軽いリクエストと重いリクエストが混在する」ケースだと思う。

たとえばエージェント型のアプリなら、ほとんどの問い合わせはMaxで十分こなしつつ、「full-stackのリファクタを一気にやる」「長時間の自律リサーチを回す」といった重いタスクだけUltra v2に切り替える、という設計が現実的になる。モデル選定のロジックを自前で持たなくても、価格帯の違う2つのオーケストレーターを用途で使い分けるだけで、コストと品質のバランスをかなり細かく調整できる。

もう一歩踏み込むと、「社内の標準をFuguに寄せてしまう」選択もありうる。GPT・Claude・Geminiのどれが今月一番強いか、を追いかけ続けるのは正直しんどい。オーケストレーター側が裏でモデルを差し替えてくれるなら、アプリ側のコードは触らずに"常に良い感じのモデル"を使い続けられる——それが本当に安定して回るなら、という条件付きだが、運用の面倒くささが減るインパクトは小さくない。

正直な評価

素直にすごいと思うのは、「最強モデル競争そのものから降りて、組み合わせ方で勝つ」という筋を日本のSakana AIが通し続けているところだ。フロンティアモデルを自前で持たない立場から、価格と性能の両面で殴りにいけているのは戦略として一貫している。

微妙に引っかかるのは、やはり実運用のコスト予測のしづらさと、オーケストレーションが挟まることによるレイテンシだ。段取りよく何度も回す=1発回答より時間がかかりうる、という構造は避けられない。リアルタイム性が要る用途には向かないだろうし、「安い」の実感は結局トークン消費量次第になる。

とはいえ、方向性としては追いかける価値がある。少なくとも「どのAPIを契約するか」を悩んでいる開発者にとって、選択肢の候補に入れておいて損はない。料金や最新の対応状況はSakana AIの公式発表で確認してほしい。

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