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コールセンターの電話を全部AIが取る時代に最も近い会社 — Retell AIが月5,000万コールまで伸びた理由

カスタマーサポートに電話をかけて、人間のオペレーターに繋がる前にAIと普通に会話が成立する体験、最近増えていないだろうか。北米発の企業だと、気づいたら最初の応対がAIというのがもう珍しくない。その多くの裏側で動いている会社がいくつかあり、Retell AIはその代表格の1つだ。

2024年Y Combinatorの夏バッチ出身、ローンチから約2年で年間売上ランレート$50M、月間処理コール数5,000万件。スタートアップ界隈ではじわじわ聞こえていた名前だが、最近Wing VCの2026年Enterprise Tech 30にも選ばれた。そろそろ日本のプロダクトマネージャーやカスタマーサポート責任者が無視できない位置に来ている、と感じたので今回まとめておく。

Retell AIが解こうとしている問題

まず誰のための製品なのかを整理すると、企業のコールセンターを想定している。toC向けの電話応対ボットではなく、「数百人のオペレーターが電話を取っている部署」を対象にしている。

この市場の既存の選択肢は3つに分類できた。

  1. 人間のオペレーターを雇う — 品質は高いが、人件費と採用難、時差カバーの問題がある
  2. IVR(自動音声応答)を組む — ボタン操作主体で、ユーザーから嫌われる率が高い
  3. 従来の音声ボット — 古いTTSと古い音声認識の組み合わせで、「応答になっていない応答」が頻発する

Retell AIはこの3つ目をLLMネイティブに書き直した製品だ。呼び出すLLMを自分で選べる(GPT、Claude、自社モデルいずれもOK)、TTS/STTも複数プロバイダから選べる、応答時間は600ミリ秒以下、31言語に対応、という構成。狙いは明確で、「AIだけど人間と話しているように感じる」応対を量産可能にすること。

個人的にRetell AIの競合を眺めていて面白いのは、ElevenLabsのような音声特化スタートアップと根本的に守備範囲がずれていること。ElevenLabsは「良い声を作る」が主戦場。Retell AIは「コールセンターのワークフロー全体を組む」が主戦場。同じ「音声AI」カテゴリでも、顧客の痛みとしている場所が違う。

プラットフォームの中身

1月末のメジャーアップデートで、Retell AIは音声だけの会社からオムニチャネル企業に変わった。現在のプラットフォームは次のチャネルをカバーする。

チャネル 位置づけ
Voice(電話) 祖業。600ms応答、31言語
Chat(Webチャット) 同一エージェント定義を使い回せる
Email 自動分類 + 自動返信 + エスカレーション判定
SMS マーケティングキャンペーンやリマインダー

重要なのは1つのエージェント定義を4チャネルに同時展開できる点だ。「電話とチャットで整合性が取れない応答が出てくる」のはカスタマーサポートチームの地味にキツい悩みで、ここを1ストアで解決しに来た。

開発者目線で気が利いているのは、いわゆるノーコードのドラッグ&ドロップのフローエディタと、プログラマブルなAPI/Webhookの両方を提供していること。営業部門はGUIで組み、開発部門はコードで拡張する、という混在運用が自然にできる。既存のCRM(Salesforce、HubSpot等)やテレフォニー(Twilio、Plivo、VICIdial等)との統合もプリビルトが揃っている。

料金の実態

Retell AIの公式料金は「$0.07/分から」と謳われている。ただ、ここは読み方に注意が必要だ。

$0.07/分は最安のLLMと最安のTTSを選んだ場合の下限で、いざ本番投入のために「GPT-4oと高品質音声と知識ベースとセーフティフィルタ」を全部入れていくと、$0.13〜$0.20/分あたりに落ち着くのが実勢だ。月10,000分(約170時間)の運用なら約$1,300〜$2,000といったレンジ感になる。

追加で、同時通話数のキャパシティも買う必要がある。全アカウントに20 concurrent callsが無料で付いてくるが、それを超える分は1つあたり月$8。中堅コールセンターだと100〜200の同時通話キャパが必要になり、ここだけで月$640〜$1,440。

比較対象としてKlariqo(インドのBPO向け強い競合)を並べると:

項目 Retell AI Klariqo
料金体系 従量課金($0.07〜/分) サブスク($99〜$179/月)+ 大量利用は$0.08〜$0.12/分
セットアップ 開発者向け、カスタマイズ自由度高 ノーコード3分、非開発者向け
強み LLM/音声プロバイダの選択自由度、APIの深さ VICIdial/SIP統合、既存ダイヤラー連携
向いている会社 カスタマイズに時間を投じられるテック企業 すぐ動かしたいBPO、エージェンシー

個人的な評価を書くと、小さなチームで素早く立ち上げたいならKlariqo中〜大規模でロジックをガッツリ作り込むならRetell AIという棲み分けが健全だと思う。どちらも良い製品で、単純な上位互換関係ではない。

何が実現できそうか

Retell AIの機能セットを眺めていて、「これ、やろうと思えばできるのか」と思わせる応用がいくつかある。

深夜・休日の第1応対をAIに全部任せる。 日本のBtoC企業は営業時間外の電話応対がコスト面でも満足度面でもずっと問題だった。「とりあえず出て、内容を聞いて、翌朝人間に引き継ぐ」だけでもRetell AIで十分組める。録音と要約が自動で残るので、翌朝のオペレーターは前夜の全件を3行サマリーでレビューするだけで済む。ここが機能するだけで、深夜シフトの必要性が激減する会社は山ほどあるはずだ。

多言語サポートを即日開設する。 31言語対応は、日本企業にとっては地味にインパクトがある。英語・中国語・韓国語の3言語を人間で揃えるのは難しいが、Retell AIなら同じエージェント定義を別言語にコピーしてTTSだけ切り替えれば、1日でインバウンド対応を立ち上げられる。観光業やECの越境担当が真っ先に食いつく話だろう。

営業のアウトバウンドを自動化する。 インバウンドだけでなくアウトバウンドも組める。リストに対して電話をかけて、興味がある人だけを人間にエスカレーションするフローは、SaaSのSDRチームが常時欲しがっている機能。Retell AIはこれをAPIで組めるので、既存のCRM + シーケンシングツールと統合すれば「1日1,000件の一次コール」を24時間体制で回せる。ただし日本では特商法・電話勧誘販売法の制約があるので、導入するならこの部分は法務と相談が必須。

内部ヘルプデスクのAI化。 外部顧客向けだけでなく、社員向けのヘルプデスク(IT・総務・人事)にも転用できる。「パスワードを忘れました」「有給の残日数を教えて」レベルの問い合わせは全部AIで捌ける。ここは既存のZendesk/ServiceNowのAI機能と競合するが、電話窓口があるなら電話チャネルを持ち込めるRetell AIのほうが幅広い。

正直気になるところ

良い面だけ書いても嘘になるので、触る前に知っておくべき懸念も並べておく。

日本語の品質は英語比で一段落ちる。31言語対応を謳っているが、LLMの品質は英語が最も高く、日本語は現状「実用的ではあるが英語ネイティブ音声の自然さには届かない」レベル。ElevenLabsの日本語音声を外部接続して使う運用も可能だが、そうするとトータル料金が跳ね上がる。日本市場で本番投入するなら、プロダクト担当者が数十件分の実機テストで聞き比べてから決めるべきだ。

コスト試算が意外とブレる。$0.07/分という表示は「呼び水」であり、実際には構成次第で3倍程度まで振れる。月間通話時間の予測と、使うLLM・TTSの組み合わせを決めたうえで、必ず公式の料金ページで詳細試算を行うことを強く勧めたい。Retell AIの公式Pricingページには計算ツールがある。

電話越しのAI応対に対する法的グレーゾーン。特定商取引法、消費者保護法、個人情報保護法——電話の自動応対は国ごとにまったく違う規制が走っている。Retell AI自体はグローバルに提供されているが、日本で運用するなら事業者側がコンプライアンス責任を持つのが前提。AI応対であることを適切に告知しないと後で揉める。

エージェントの運用監視は自分で作る部分が多い。Retell Assureという自動QAツールは最近追加されたが、「どのコールでAIが迷子になったか」「エスカレーションすべきだったのに続けてしまった件」の検知は、まだ人間の目視が必要な場面が残る。運用チームを1人は確保しておかないと、品質がじわじわ劣化する可能性がある。

まとめ

Retell AIは「音声AIのおもちゃ」から「コールセンターの本物のプロダクトプラットフォーム」に脱皮しつつある会社だ。$50M ARRという数字は、toB領域でPMFしている証拠でもある。月5,000万コールという実績値が、事後の売り文句ではなく先に立っているところに信頼感がある。

日本市場への具体的なアタックはまだ限定的なので、先行者利益を狙うなら今が動きどきだろう。カスタマーサポート責任者、BPO運営、SDRチームリーダーあたりが、まずはデモ環境を試す価値はある。

公式サイトはretellai.com。トライアルは登録後すぐに利用できる。料金計算と同時通話数の試算は最初に触るべきポイントなので、Pricingページから数字を詰めてから本番検討に進むのが良い。

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