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Alibabaが「非公開」をやめた — 2.4兆パラメータのQwen3.8-Max、重みごと公開の狙い

中国のAI企業が最上位モデルの重みを公開する、というニュースは、この1年ほとんど聞かなくなっていた。DeepSeekが火をつけたオープンウェイトの波は、皮肉なことに各社が「一番いいモデルは隠す」方向へ揺り戻していたからだ。Alibaba自身、2026年前半のフラグシップ級はずっとクローズドで出していた。

その流れを、Alibabaが自分から折った。

2026年8月3日、Alibabaは最上位モデル Qwen3.8-Max をグローバルに一般公開した。そして翌週、フラグシップ級のオープンウェイト路線への「回帰」を宣言する。2.4兆パラメータという桁のモデルを、少なくとも一部は重みごと配る。中国AIの競争がまた一段、妙な角度に折れ曲がった瞬間だった。

何がすごくて、何が普通なのか

まずスペックを冷静に見る。Qwen3.8-MaxはMixture-of-Experts(MoE)構成で、総パラメータ2.4兆、1クエリあたりのアクティブは95B。文脈長は最大100万トークン、1レスポンスの最大出力は131Kトークン。テキストだけでなく画像・動画も入力として受け取れるネイティブマルチモーダルだ。

2.4兆という数字は、公開されているモデルの中では最大級の部類に入る。Moonshotのフラグシップに規模で肉薄する、という報じられ方をしている。ただ、パラメータ数そのものは今や自慢にならない。MoEなので実際に毎回動くのは95Bぶんで、推論コストはその規模なりに抑えられている。「2.4兆」は看板であって、体感速度の話ではない。

ベンチマークで見ると、立ち位置はもう少し現実的になる。Alibaba自身の報告では、エージェント的なコーディング能力を測る SWE-bench Pro で67.7。これは高い数字だが、同じ指標でAnthropicのFable 5が示す80.0には届いていない。一番難しい自律コーディングの領域では、まだ半歩後ろにいる。

つまり「Fable 5に匹敵」という見出しは、半分本当で半分は割り引いて読むべきだ。総合的なベンチでは肩を並べる項目もあるが、最難関のエージェント系ではトップの背中を見ている。正直、そこは素直にそう書いておいた方がいい。

料金 — 中国モデルにしては、意外と強気

APIの料金は、Alibaba Cloudの Model Studio 経由で以下の通り。

項目 価格(100万トークンあたり) 日本円換算(約150円/ドル)
入力 $2 約300円
出力 $6 約900円
キャッシュ入力 $0.25 約38円

この価格が100万トークンの文脈全域で一律というのがポイントで、5,000トークン投げても90万トークン投げても、1トークンあたりの単価は変わらない。長文脈で急に高くなる、という罠がない。

数字だけ見ると、DeepSeekのような「破壊的に安い」路線とは違う。むしろフラグシップとして正当な値付けに寄せてきた。入力$2・出力$6は、性能上位帯としては中庸だ。中国モデル=激安、という先入観で見ると肩透かしを食う。ここはAlibabaがQwenを「安さで殴るモデル」ではなく「一線級の選択肢」として売りたがっている表れだと思う。

なお Model Studio では、Qwen3.8-Maxに対して90日間有効な100万トークンの無料枠が用意されている。まず触ってみる、くらいなら財布を出さずに試せる。APIはOpenAI仕様・Anthropic仕様の両方に互換があり、既存のコードのエンドポイントとキーを差し替えるだけで動く設計になっている。この「乗り換えコストの低さ」は地味だが効く。

本題は「オープンウェイト回帰」の方

Qwen3.8-Maxの性能そのものより、筆者が面白いと思うのはリリースの仕方だ。

Alibabaは8月中旬、モデルの重みを段階的に公開した。Qwen3.8-27B は Apache 2.0 ライセンスで8月13〜14日にHugging Faceへ。さらにMax級の2.4Tチェックポイント Qwen3.8-2.4T-A95B も8月12〜13日頃にカスタムライセンスで公開されている。フラグシップを完全にクローズドにしていた前半戦からの明確な方針転換だ。発表を受けてAlibaba株は上昇した。市場もこの動きをポジティブに読んだということだ。

なぜ最上位を配るのか。理由は一つではないだろうが、構図としてはわかりやすい。クローズドで囲い込む戦略はOpenAIやAnthropicの土俵で、Alibabaがそこで真正面から殴り合っても分が悪い。一方、オープンウェイトはDeepSeekが証明した通り、世界中の開発者を一気に自陣のエコシステムへ引き込む。Qwenをローカルで動かし、ファインチューニングし、プロダクトに組み込む開発者が増えれば、それ自体がAlibaba Cloudへの導線になる。

Apache 2.0の27Bと、カスタムライセンスの2.4T級を「同時に」出しているのが巧い。手軽に自由に使える中型モデルで裾野を広げつつ、最上位は条件付きで見せることでフラグシップの存在感も残す。全部を無償開放するわけでも、全部を隠すわけでもない。中間を取ってきた。

これで何ができるようになるか

100万トークンの文脈とオープンウェイトの組み合わせは、実は相性がいい。

APIの100万トークン文脈は便利だが、機密性の高いデータを外部APIに毎回投げるのは業種によっては難しい。そこで、27B版を社内インフラで動かし、社内文書やコードベースを丸ごと文脈に入れて回すという使い方が現実的になる。クラウドに出せない契約書や設計資料を、自前のGPUで完結させながら長文脈で処理する——これは日本の企業にとって刺さる可能性がある。データ主権の議論とオープンウェイトは、ここで噛み合う。

もう一つは、ネイティブマルチモーダルを活かした「動画を読ませるエージェント」だ。動画入力を受け取れるモデルをオープンウェイトで動かせるなら、たとえば監視カメラ映像や製造ラインの記録を、外部に送らずローカルで要約・異常検知させるパイプラインが組める。ここまで来ると要求されるGPUは相当なものになるので、誰でもすぐ、とはいかない。ただ「クラウドに出せない映像を自前のAIに読ませる」という需要は確実にあり、その選択肢が一つ増えた意味は大きい。

逆に、過度な期待は禁物だ。SWE-bench Proの数字が示す通り、最難関の自律コーディングでは依然としてFable 5やトップ勢が一枚上手。「Qwenに全部任せれば安く済む」という話ではない。用途を見極めて、得意なところ——長文脈処理、マルチモーダル、ローカル運用——に当てるのが賢い。

総評

Qwen3.8-Maxは、単体のモデルとしては「トップに肉薄する強力な一角」だ。飛び抜けて世界一、ではない。だが料金・文脈長・マルチモーダル・API互換のバランスは実務的で、選択肢として無視できない。

そして何より、Alibabaが最上位のオープンウェイト路線に戻ってきたこと自体が、2026年後半のAI競争の温度を上げる。クローズドで囲う陣営と、オープンで裾野を広げる陣営。その綱引きに、Alibabaがはっきりと後者の重りを足した。日本の開発者にとっては、手元で動かせる一線級モデルの選択肢が一つ増えた、という素直に嬉しいニュースだ。

モデルの詳細と利用は Qwen 公式サイト から確認できる。

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