FlowTune Media

自分の10倍大きいモデルに勝つ、オープンウェイトのコーディングAI「Laguna S 2.1」

コーディング特化のAIモデルは、いつのまにか「大きいほど強い」という前提が崩れ始めている。その象徴が、7月21日にPoolsideが公開した Laguna S 2.1 だ。

このモデル、パラメータ数は118B(うち実際に動くのは8B)。数字だけ見れば中堅サイズだが、Poolsideが公開したベンチマークでは、1.6兆パラメータのDeepSeek-V4-Pro-Maxや、975BのThinking Machines製Inklingを上回った。ざっくり言えば、自分の10倍以上の重さのモデルに勝っている。

そもそもPoolsideとは

Poolsideは、ソフトウェア開発に全振りしたAIモデルを作っているスタートアップだ。汎用チャットモデルの延長ではなく、最初から「コードを書く・直す・ターミナルで動かす」ことに最適化して訓練している点が他社と違う。Laguna はそのモデルシリーズの名前で、今回の 2.1 は中規模の「S」サイズにあたる。

7月2日には軽量版の Laguna XS 2.1 を Hugging Face と OpenRouter で無料公開しており、今回の S 2.1 はその上位版という位置づけになる。

ベンチマークの中身

数字を並べておく。

  • Terminal-Bench 2.1: 70.2%(ターミナル上でタスクを完遂できるか)
  • SWE-Bench Multilingual: 78.5%(多言語のGitHub Issue解決)

Terminal-Bench 2.1 の 70.2% は、Poolside自身がまとめたリーダーボードで11位。この上にはクローズドの巨大モデルが並ぶが、注目すべきは順位そのものより「開示されているサイズのモデルの中では先頭」という点だ。1.6兆パラメータのDeepSeek-V4-Pro-Max(64.0%)や、NVIDIAの550B Nemotron 3 Ultra(56.4%)を、はっきり上回っている。

パラメータあたりの効率という意味では、かなり異質な立ち位置にいる。

thinkingモードは効くが、タダではない

Laguna S 2.1 には「じっくり考える」thinkingモードがある。これをオンにすると Terminal-Bench 2.1 は 60.4% → 70.2% まで上がる。DeepSWE というベンチに至っては 16.5% → 40.4% と、倍以上に跳ねる。

ただし、これは無料ではない。thinkingモードを使うと、DeepSWEのタスク1件あたりの生成トークンが約99kから約249kへと2.5倍に膨らむ。つまり「賢くする代償はトークン量」であって、常時オンが正解とは限らない。簡単な修正まで熟考させると、精度は大して変わらないのにコストと待ち時間だけ増える。ここは使い分けが必要な部分だ。

正直に言えば、この「thinkingをどこで使うか」の判断を自動化できないと、実運用ではコストが読みにくい。そこは今後の課題だと思う。

料金と、1Mコンテキストという武器

料金は入力100万トークンあたり$0.10、出力$0.20(約15円 / 30円)。50万トークンを読ませても5セント、日本円で8円ほどだ。コーディング用途は文脈を大量に食うので、この安さは効いてくる。

そしてコンテキストは最大1Mトークン。A4用紙にしておよそ1,500ページ分を一度に渡せる計算になる。しかもthinking / 非thinkingの両モードで1M使える。

この「安い×長い」の組み合わせが、実は一番の意味を持つと思う。大規模なコードベース全体をまるごと読ませて、横断的にリファクタリングや不具合調査をさせる——これを高頻度で回してもコストが破綻しない。従来はコンテキスト長かAPI単価のどちらかがボトルネックになりがちだったが、Laguna S 2.1 はそこを両方詰めてきた。

オープンウェイトであることの意味

Laguna S 2.1 は OpenMDW-1.1 というライセンスでウェイトが公開されている。これが効いてくるのは、コードを外部APIに出したくない企業だ。

自社のインフラ上でモデルを動かせるなら、ソースコードを一切社外に出さずにエージェント的なコーディング支援を回せる。ここに1Mコンテキストが加わると、「社内の巨大なモノレポを丸ごと理解した上で、外に情報を漏らさず動くコーディングAI」が現実的な選択肢になる。セキュリティ要件の厳しい現場ほど、クローズドな最強モデルよりこちらを選ぶ理由がある。

中国発のオープンモデル(DeepSeek、Qwen、GLM系)がコスパで市場をかき回してきたが、Poolsideは「コーディング特化 × 効率」という別の軸で殴りに来た。オープンウェイトのコーディングモデル競争は、ここへ来て一段面白くなっている。

使い所

  • セルフホストしたい開発チーム — コードを外に出さずにエージェント支援を組みたいなら第一候補
  • 大規模コードベースを扱う現場 — 1Mコンテキストと低単価の相性が抜群
  • コスト重視でAPIを叩き続ける用途 — 100万トークン10セントは常用に耐える

逆に、とにかく最高精度が欲しくてコストを気にしないなら、クローズドのトップモデルの方がまだ上だ。Laguna S 2.1 の価値は「サイズと単価に対して不釣り合いに強い」ところにある。派手さではなく、費用対効果で選ぶモデルだと考えておくとよい。

まずは無料の OpenRouter 経由や軽量版の XS 2.1 で挙動を確かめて、手応えがあれば S 2.1 に移る、という試し方が手堅い。

関連記事