FlowTune Media

値段そのまま、性能だけ跳ね上がった — DeepSeekの格安モデルV4-Flashが再学習でフラッグシップ超え

モデルを強くする方法として、いちばん分かりやすいのは「パラメータを増やす」ことだ。だからこそ今回のDeepSeekの発表は、少し毛色が違って見えた。

2026年7月31日、DeepSeekは格安モデル「DeepSeek-V4-Flash」の更新版、通称「0731」ビルドを公開した。ポイントは、モデルのサイズもアーキテクチャも一切変えていないこと。284Bの総パラメータ・13BアクティブのMoE、1Mトークンのコンテキスト、MITライセンスの重み——ここは4月に正式ローンチされたV4シリーズのFlashとまったく同じだ。変えたのはポストトレーニング(事後学習)だけ。それだけで、性能が別物になった。

何がそんなに変わったのか

いちばん象徴的なのが、エージェント系のコーディングベンチマークだ。

  • DeepSWE: 4月プレビューの7.3 → 54.4(同じモデルサイズで645%改善)
  • Terminal-Bench 2.1: 82.7
  • Artificial Analysis Intelligence Index: 50

DeepSWEの伸びは、正直ちょっと異常だ。7点台といえば「エージェントとしてはほぼ使い物にならない」水準で、そこから50点台まで来たということは、実質的に「別のモデルに置き換わった」に近い。しかも中身のニューロンの数は増えていない。学習のやり方を練り直しただけで、ここまで引き出せるという話になる。

さらに注目すべきは、この格安モデルが自社の最上位モデルV4-Pro-Preview を9つのエージェントベンチすべてで上回った点。普通は「安いモデル=性能で妥協」だが、今回はその前提が崩れている。

価格は据え置きの激安

これで価格が上がっていたら「性能相応」で片付くのだが、そうはなっていない。入力$0.14 / 出力$0.28(100万トークンあたり)という、V4-Flashの元の激安価格のまま。日本円にすると、100万トークンの入力が20円ほどという感覚だ。

加えて、ネイティブのResponses API対応と、OpenAIのCodex向けの明示的な最適化が入った。エージェント用途で「投げっぱなしにできる」実務性が上がっている。ただし、今回の更新はFlash APIのみが対象で、V4-ProのAPIやアプリ・Web版のモデルは変わっていない点は押さえておきたい。

正直な評価

素直にすごい、と思う一方で、割り引いて見るべき点もある。

まず、比較対象が「V4-Pro-Preview」であること。プレビュー版を正式版が上回るのは、条件としてはやや有利だ。「最上位を超えた」の一言をそのまま鵜呑みにするより、「格安モデルが、少し前の上位プレビューに追いついた」くらいの温度感で読むのが健全だろう。

もう一つは、伸びているのが主にエージェント・コーディング系のベンチだという点。DeepSeekが事後学習でそこに狙いを定めた結果であり、一般的な対話や文章生成が同じ比率で強くなったわけではない可能性がある。用途が「コードを書かせる/ツールを操作させる」に寄っている人向けの朗報、と捉えるのが正確だ。

とはいえ、MITライセンスの重みが公開されていて、価格が据え置きで、Codex連携まで用意されている——この三点が揃うと、実務での採用ハードルはかなり低い。「とりあえずエージェントの裏側をこれに差し替えて様子を見る」がノーリスクで試せる。

これが意味すること

今回の一件が示すのは、モデルの実力がもう「サイズ」だけでは測れないということだ。同じ284Bが、学習の作り込み次第で7.3にも54.4にもなる。ということは、既存のオープンモデルにもまだ「事後学習で引き出せる余地」が眠っている可能性が高い。

これは使う側にとっても効いてくる。高価な最上位モデルにコーディングエージェントを丸投げしていた処理を、100万トークン20円の格安モデルに載せ替えても成立するなら、エージェントを常時走らせる運用のコストが一桁変わる。「AIエージェントは高いから要所だけ」という制約が外れれば、コードレビューを全PRに常駐させる、テスト生成を自動で回し続ける、といった「常時オン」の使い方が現実的になる。

DeepSeekが価格競争で先手を打つたびに、業界全体の値付けが引きずられてきた。今回は「価格を下げる」のではなく「同じ価格で中身を強くする」という別方向の一撃で、それはそれで効きそうだ。

関連記事