Midjourneyが作ったのはAI画像ではなく全身スキャナーだった — 放射線なし・60秒・数ドルの野望
Midjourneyの新製品が発表された。画像生成AIの新バージョンではない。
全身超音波スキャナーだ。
6月17日のライブストリームで、CEO David Holzが披露したのはMidjourney Medicalと名付けられた新部門の第一弾製品。浅いプールに体を沈め、周囲のセンサーリングが超音波を全方位から照射し、筋肉・脂肪・骨・臓器の3D画像を生成する。放射線なし。磁気もなし。CTでもMRIでもない、「過去50年で初の新しい全身イメージング手法」だとHolzは主張している。
仕組み: 8,960個のトランスデューサーが体を「見る」
スキャナーの核になっているのは、Butterfly Networkが開発した超音波オンチップ(CMUT)技術だ。プロトタイプには40個のButterflyチップが搭載されており、1チップあたり約8,960個のトランスデューサーが毎秒1,000回の超音波パルスを発射する。
体をプラットフォームに載せ、秒速5cmでゆっくりと水中に降ろす。水が超音波の伝達媒体になり、センサーリングが全身を多角的にスキャンする。生成される生データは毎秒約17GB。これを約2ペタフロップスの処理クラスターが3Dイメージに再構成する。
興味深いのは、Holz自身が「まだAIは使っていない。純粋にハードウェアとソフトウェアの力だ」と述べている点だ。AI画像生成で名を馳せた会社が、AI抜きで医療画像を作っている。皮肉だが、逆に言えばAIを組み込む余地がまだ残っているということでもある。
60秒は「目標」であって「現実」ではない
ここで正直に書いておくべきことがある。
報道では「60秒でフルボディスキャン」が見出しになっているが、現在のプロトタイプが実際にかかる時間は約20分だ。これまでスキャンしたのはわずか12人程度。60秒は将来の量産版で目指す数値であり、今日実現しているものではない。
この落差は小さくない。「MRIの100倍速い」というHolzの主張も、量産版の目標値に基づいている。現時点では、通常のMRI(60〜90分)の3〜4倍速い程度だ。十分に速いが、見出しほどの衝撃ではない。
臨床的な検証もこれからだ。合成ファントム(テスト用の模型)と1件のMRI比較を行った段階で、査読付き論文は出ていない。米国放射線学会(ACR)は、無症状の人に全身スキャンを行うことの臨床的根拠は不十分だと警告している。
FDA未承認の「スパ」という巧みな回避
Midjourneyはこのスキャナーをどう市場に出すのか。答えは「医療機器としてではなく、ウェルネス施設として」だ。
計画では、サンフランシスコのユニオンスクエアに約2,300平方メートルの「Midjourney Spa」を2027年末にオープンする。スキャナー10台に加え、温水プール、サウナ、コールドプランジ、ジムを併設。スキャン結果は「体組成マップ」として提供され、疾患の診断や治療の助言は行わない。
これはFDAの「一般的ウェルネス」ポリシーの枠内に収まる設計だ。「あなたの体脂肪率はこうです」は言えるが、「この影は腫瘍かもしれません」は言えない。賢い規制回避であると同時に、ユーザーの期待値と実際にできることのギャップが生まれやすい構造でもある。
長期的な野望はさらに大きい。2031年までに世界5,000か所のスパ、5万台のスキャナー、月10億件のスキャンを目指すという。1回のスキャン費用は「数ドル」。MRIの1,000〜5,000ドルと比べれば桁違いに安い。
Butterfly Networkの株が31%跳ねた理由
この発表で最も具体的に動いたのは、株式市場だった。
Midjourneyにチップを供給するButterfly Network(BFLY)の株価は発表翌日に31%急騰し、4年ぶりの高値をつけた。契約内容は5年間で最大7,400万ドル(約111億円)。初期の1,500万ドルに加え、年1,000万ドルのライセンス料、マイルストーンボーナス、チップ購入費、収益分配が含まれる。
Butterfly側にとっては、自社の超音波チップ技術が医療用ハンドヘルドデバイスを超えた大規模用途に採用された初の事例であり、株価の反応は妥当だろう。
これが面白い理由と、心配な理由
率直に言えば、筆者はこのプロジェクトに好奇心と警戒心の両方を感じている。
面白いのは、MRIやCTの代替になりうる低コスト・低リスクの全身イメージング技術が現実に近づいていることだ。放射線を使わず、磁場も必要なく、数ドルで全身を可視化できるなら、健康診断の概念が変わる。年に一度の健康診断が「月に一度の体組成チェック」になる可能性がある。
一方で心配なのは、スキャン12件・査読論文ゼロ・FDA未承認という現状で、「MRIより優れている」と主張するHolzのコミュニケーションだ。医療画像は人命に関わる。インシデンタローマ(偶発的に見つかる異常所見)の問題——健康な人のスキャンであいまいな所見が出たときの不安や不要な追加検査——も、この分野では古くから指摘されている。
AI画像生成の会社が医療ハードウェアに参入すること自体は、異業種のイノベーションとして歓迎すべきだと思う。ただし、ユーザーの体内データという極めてセンシティブな情報を扱う以上、画像生成AIのときとは比較にならない慎重さが求められる。
2027年末のスパ開設まで、まだ1年半ある。その間にプロトタイプが60秒に近づくのか、臨床データが出てくるのか。注目すべきはそこだ。
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