自動運転トラックは、もう実験じゃない——Walmartの荷物を運ぶGatikが約300億円を調達
日本の物流業界には「2024年問題」がある。ドライバーの時間外労働に上限が課され、運べる荷物の量が構造的に足りなくなる——という話だ。人手不足に、規制が追い打ちをかけている。
その解決策として長年語られてきたのが自動運転トラックだが、正直なところ「実用化はまだ先」という空気が続いていた。ところがアメリカでは、すでに毎日ドライバーなしのトラックが走り、大手スーパーの荷物を運んでいる。それを象徴するニュースが8月25日に届いた。自動運転トラックの Gatik が、2億ドル(約300億円)のシリーズDを調達したのだ。
Gatikが賢いのは「狙う場所」
Gatikという名前は日本ではほぼ無名だろう。だが、この会社のアプローチは知っておく価値がある。
自動運転というと、街中を走る無人タクシーや、高速を延々と走る長距離トラックを思い浮かべる人が多い。Gatikが狙ったのはそのどちらでもない。「ミドルマイル」——物流倉庫(配送センター)と店舗のあいだを、決まったルートで何度も往復する区間だ。
ここがうまい。街中は歩行者も自転車も飛び出してきて難易度が跳ね上がる。長距離は距離が長いぶんリスクも積み上がる。一方でミドルマイルは、走る道が毎回ほぼ同じで、区間も短い。自動運転にとって「解きやすい問題」を選んでいるわけだ。技術の完成を待つのではなく、いま完成している技術で回る場所を切り取った——この割り切りが、他社が実証実験で足踏みするなか、Gatikを商用化まで押し上げた。
数字がそれを裏づける。契約ベースの売上は6億ドル超、これまでに完了した完全無人配送は8万5000件、定時到着率は99%。WalmartやKroger、PepsiCoといった名前が顧客に並ぶ。ダラス・フォートワース、フェニックス、トロントなどで、26〜30フィートのトラックがほぼ24時間走り続けている。年内には無人トラックを100台以上に増やす計画だという。
これが日本に来たら何が変わるか
ここからは日本の話として考えたい。
もしGatik型のモデルが日本で成立したら、効くのはまさに2024年問題のど真ん中だ。配送センターから各店舗への定期便は、日本の小売・物流でも膨大に発生している。決まったルートを毎日往復するこの区間こそ、ミドルマイル自動運転がもっともハマる領域だ。ドライバーを長距離の花形区間に回し、退屈な往復を無人に任せる——そういう役割分担が現実になれば、限られた人手の使い方が根本から変わる。
さらに、24時間走れるという点も大きい。人間のドライバーには労働時間の上限があるが、無人トラックにはそれがない。夜間に在庫を補充し、朝には棚が埋まっている、という運用が当たり前になれば、「深夜の配送は人がいなくて回らない」という制約そのものが消える。
もっとも、これはそのまま日本に持ち込めるものではない。日本の道路事情は米国の郊外とは違うし、法規制や保険、社会的な受容の壁も高い。「決まったルートの往復」といっても、日本の入り組んだ市街地でどこまで通用するかは未知数だ。Gatikの成功は「自動運転が解ける形に問題を切り分ければ商用化できる」ことの証明であって、日本での成立を保証するものではない。ここは冷静に見ておきたい。
資金の出し手が語っていること
個人的に注目したのは、出資者の顔ぶれだ。今回のラウンドを主導したのはカタール投資庁(QIA)とKoch Disruptive Technologies。国家系ファンドや大企業系の投資家が、実証実験段階ではなく「すでに売上が立っている自動運転」に大きく張っている。
これは、自動運転トラックがベンチャーの夢物語から「投資対象として計算できる事業」へ移りつつあることの表れだと思う。派手な無人タクシーの話題の裏で、地味なミドルマイルが先に黒字化への道を進んでいる——この順番は、AIの社会実装がどこから始まるかを考えるうえで示唆に富む。
自動運転の本命はロボタクシーだと長く言われてきた。だが実際に生活を変えるのは、スーパーの裏口に毎晩やってくる無人の配送トラックのほうかもしれない。日本でこの光景が見られるまでには時間がかかるだろうが、「もう海の向こうでは動いている」という事実だけは、頭の片隅に置いておいて損はない。
関連記事
NVIDIAがHugging Faceを約1.9兆円で買収か——OSSの総本山を握る意味
NVIDIAがHugging Faceを約129億ドルで買収するとの報道。OSSモデルハブの総本山を半導体最大手が握ると開発者に何が起きるのか、中立性の懸念まで整理する。
日本のスマホで静かに広がる「AIキャラとの物語」— 運営元Wrtnが韓国初のAIユニコーンに
日本でキャラチャットが伸びる裏で、運営元の韓国WrtnがSeries Cで約$72Mを調達し評価額1兆ウォン超に。AIキャラチャットが日本で伸びる理由と、収益の持続性・懸念まで解説する。
2年前に訴えていた音楽大手3社が、Stable Diffusion開発元に出資した
Stability AIがSeries Bで$76M調達。訴える側だったUniversal・Sony・Warnerの音楽メジャー3社が揃って出資した意味と、「アーティストには還元されない」という批判まで解説する。