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プロダクトゼロで評価額465億円 — 元DeepMind研究者が始めた「ビジュアルAI」Elorian

普通、スタートアップはプロダクトを世に出し、ユーザーの反応を見せてから評価額がつく。Elorianはその順序を丸ごとひっくり返した。

まだ何一つ製品を出していない。デモすらない。それでも、5,500万ドル(約85億円)のシードラウンドを、3億ドル(約465億円)の評価額で締めた。TechCrunchが7月16日にこの舞台裏を報じ、AI界隈で静かに話題になっている。

何者が、何を作ろうとしているのか

創業者のAndrew Daiは、元Google DeepMindの研究者だ。10年以上にわたってAIシステムの構築に関わり、その研究は後のChatGPTの土台になった技術にもつながっているとされる。いわば、今の生成AIブームの「地層」を作った側の人物の一人だ。

そのDaiがDeepMindを離れて次のフロンティアに選んだのが、Elorianが掲げる「ビジュアルAI」。画像や映像をこれまで以上に深く理解するモデルを作り、最終的には「visual AGI(視覚的な汎用人工知能)」を目指すという。応用先として名前が挙がっているのは、建築、自動車、そしてロボティクス。テキストや音声ではなく、機械が世界を「見る」能力を底上げする方向だ。

共同創業者には、元Appleのマルチモーダル研究者Yinfei Yangも名を連ねる。研究者としての「地力」で押し切る布陣になっている。

出資者の顔ぶれが、この調達の本質を語っている

正直に言えば、プロダクトのないシードに465億円の評価がつくこと自体は、AIバブルの過熱ぶりとして眉をひそめる人もいるだろう。だが、出資者リストを見ると単純な過熱では片付けられない。

ラウンドを共同リードしたのはStriker Ventures、Menlo Ventures、Altimeter Capital。さらに戦略出資としてNvidiaが入り、エンジェルとしてGoogleのSVP Jeff Deanが名を連ねている。Jeff Deanといえば、Googleの検索やAI基盤を長年率いてきた、業界でも屈指の技術者だ。その人物が個人で張っているという事実は、「Daiという研究者への賭け」の重みを物語る。

TechCrunchは、この調達が資本に対する評価額の比率で、米史上有数の巨額調達だったThinking Machinesすら上回る「攻めた」水準だと指摘している。

この賭けが当たったら、何が変わるのか

ここからは筆者の見立てになるが、Elorianの狙いが実を結んだときのインパクトは、応用先を考えると大きい。

一つは、ロボティクスの学習コストが下がる可能性だ。ロボットが物理世界で振る舞うには、カメラ映像から「今、何がどこにあるか」を正確に読み取る必要がある。この視覚理解が汎用モデルとして手に入れば、ロボットごとに一から視覚を作り込む必要が減る。Nvidiaが戦略出資に入っている理由も、ここに重なって見える。

もう一つは、建築や自動車のような「図面と現実のすり合わせ」が絡む産業だ。設計図と施工現場、あるいは3Dモデルと実車の間には、常に人間の目視によるチェックが挟まる。視覚AIがこの照合を肩代わりできるなら、これまで熟練者しかできなかった検査工程が自動化に近づく。

ただし、これらはすべて「モデルが実際に高性能だったら」という前提の上の話だ。現時点でElorianが持っているのは、豪華な経歴と資金と野心であって、動くものではない。visual AGIという言葉の大きさに対して、プロダクトがゼロという落差は率直に言って怖さもある。ここまでの評価額を正当化できるかどうかは、最初に出てくる実物を見るまで判断を保留するのがフェアだろう。

それでも、テキスト中心だった生成AIの主戦場が「視覚」に移りつつあることを、この調達は象徴している。名前を出す前から465億円が動いた——その事実だけでも、次に何が出てくるのかを追いかける価値はある。

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