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「AIがAIを訓練する」時代が来た — Adaption AutoScientistが変えるモデル学習の常識

モデルのファインチューニングで、人間のAI研究者が選んだ設定に対する勝率48%。それがAutoScientistを導入した途端、64%に跳ね上がった。自社のMLエンジニアが「自分たちが作ったAIに負けた」と認める結果だ。

2026年5月13日、AdaptionがこのAutoScientistを一般公開した。一言で言えば、モデルの学習プロセスそのものをAIに任せるツールだ。

AutoScientistは何をするのか

従来のファインチューニングでは、人間が「どのデータを使うか」と「どう学習させるか」を別々に決めていた。データチームがデータセットを整備し、MLエンジニアがハイパーパラメータを調整する。この2つの工程は分離されており、互いの影響を考慮した最適化は困難だった。

AutoScientistはこの2つを同時に最適化する。データの選定・重み付けとトレーニングレシピ(学習率やバッチサイズなどの設定)をひとつのループの中で共同最適化し、目標とする振る舞いにモデルが収束するまで自動的に繰り返す。

開発者がやることは「このモデルにこの能力を持たせたい」と指示するだけ。あとはAutoScientistが「何から学ぶか」と「どう学ぶか」の両方を同時に試行錯誤し、最適な組み合わせを発見する。数週間かかっていた作業が、数時間で完了するとAdaptionは主張している。

対応モデルとインフラ

AutoScientistはTogether AIのファインチューニング基盤上で動作する。現時点で対応しているオープンモデルには、Kimi K2.5、GLM 5.1、Qwen 3.5-397Bなどがある。

重要なのは、これがオープンモデル向けのツールだという点だ。GPT-6やClaude Opusをファインチューニングしたい場合は対象外。自分でモデルを所有し、特定のタスクに特化させたい開発者がターゲットになる。

創業者の経歴が説得力を持つ

CEOのSara Hookerは、Cohereで AI研究担当VPを務め、その前はGoogle DeepMindに5年間在籍していた。2020年の論文「The Hardware Lottery」はAI研究コミュニティで広く引用されている。

Adaptionはシードラウンドで5,000万ドル(約78億円)を調達。出資元はEmergence Capital、Mozilla Ventures、Fifty Years。「より大きなモデル」ではなく「より賢い訓練」に賭けるという方向性は、創業者の研究バックグラウンドと一致している。

料金と試用

現在、AutoScientistは30日間無料で利用できる。無料期間終了後の料金体系はまだ公開されていない。

正直な所感

面白い点:

「AIがAIを訓練する」という発想自体は新しくないが、それを実用的なプロダクトとして出してきた点は評価できる。特にデータとレシピの共同最適化は、人間が手動で行うと組み合わせ爆発に直面する領域だ。ここにAIを投入するのは理にかなっている。

勝率48%→64%という数字も、自社のAI研究者との比較という条件付きだが具体的で分かりやすい。

気になる点:

まず、評価指標が自社設計のベンチマークに基づいている。SWE-BenchやARC-AGIのような外部ベンチマークは「タスク特化モデルの評価には適さない」という理由で使われていない。その主張自体は妥当だが、第三者検証がない状態で35%改善という数字をそのまま受け取るのは早い。

また、Together AI依存という点も気になる。インフラの選択肢が限定されることで、すでにAWSやGCPでファインチューニング環境を構築している組織にとっては導入障壁になる。

30日後の料金が不明なのも判断材料としては不足している。ファインチューニングは継続的に行う作業なので、ランニングコストが見えないと本格導入の検討は難しい。

それでも、「フロンティアラボ以外でもフロンティアレベルのモデル訓練を」というビジョンは魅力的だ。オープンモデルのエコシステムが成熟するほど、こうした訓練自動化ツールの価値は高まる。30日間無料のうちに、まずは触ってみる価値はある。

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