「その判断、AIに任せていい?」— Dify v1.13が出した答え
AIワークフローを組んでいると、ある瞬間に手が止まる。「この先、本当にAIだけで進めていいのか?」という瞬間だ。
請求書の金額確認、顧客への返信文面、社内申請の承認——自動化できるのはわかっている。でも一度間違えたときのダメージが大きすぎて、最後のボタンだけは人間が押したい。これまでのDifyでは、その「最後のボタン」を挟む方法がなかった。ワークフローは全自動か、さもなくば全手動。間がなかった。
5月13日にリリースされたDify v1.13.0の「Human-in-the-Loop」機能は、その間を埋める。
Human Inputノードの仕組み
v1.13で追加されたHuman Inputノードは、ワークフローの任意のポイントに「一時停止」を差し込むノードだ。
たとえば、こんなフローを考えてほしい。
- メールを受信する(トリガー)
- AIが内容を要約し、返信案を生成する
- ここでHuman Inputノードが実行を止める
- 人間がWebアプリまたはメール経由で返信案を確認する
- 「承認」「修正して送信」「却下」のいずれかを選ぶ
- 選択に応じてワークフローが分岐し、続行する
ポイントは3つある。
カスタムボタンで分岐を制御できる。 「Approve」「Reject」だけでなく、「エスカレーション」「条件付き承認」など自由にボタンを設計でき、それぞれ異なるワークフローパスに接続できる。
入力手段がWebアプリとメールの2種類。 Dify CloudのWebアプリ上でフォームに入力する方法と、メール通知からそのまま返信する方法がある。外出先でもスマホのメールから承認を飛ばせる。
変数を編集してから再開できる。 単に「承認/却下」を選ぶだけでなく、AIが生成したテキストや数値を人間が書き換えてからワークフローを再開させることが可能だ。AIの出力を「たたき台」として使い、微調整してから次に流す運用ができる。
実行エンジンの裏側
この機能を実現するため、Difyの実行エンジンはかなり手が入っている。ワークフローのストリーミング実行がCeleryワーカーに移行し、一時停止と再開のパスはRedis Pub/Subでイベントを中継する構造になった。
実用上の注意点として、セルフホスト環境では新しいCeleryキュー workflow_based_app_execution の設定が必要だ。大規模環境ではPub/Sub専用のRedisインスタンスを立てることが推奨されている。Docker Composeでサクッと動かしている人には関係ないが、本番環境で運用している場合はアップグレード前にリリースノートを確認しておきたい。
8割AI、2割人間の分業が回り始める
正直、この機能の応用範囲は広い。
契約書のAIレビュー後に法務担当が最終確認するフロー。ECサイトの返品リクエストをAIが分類し、高額案件だけ人間が判断するフロー。採用候補者のスクリーニングをAIが行い、面接に進めるかをマネージャーが決めるフロー。
共通するのは「AIが8割の作業を片付け、残り2割の判断を人間がやる」という構造だ。この8:2の分業こそ、現時点でのAIワークフロー自動化の現実解だと思う。全自動は理想だが、まだ組織の信頼が追いついていない領域は多い。Human-in-the-Loopはその橋渡しになる。
無料で使えるか、いくらかかるか
Dify Cloudの料金は、Sandbox(無料、200クレジット)、Professional(月額59ドル、約8,900円)、Team(月額159ドル、約24,000円)の3プラン。Human-in-the-Loop機能がどのプランで使えるかは公式には明記されていないが、ワークフロー機能自体はProfessional以上で本格的に使える。
セルフホストなら完全無料だ。GitHubでオープンソースとして公開されており、Docker Composeで git checkout 1.13.0 してデプロイすればHuman-in-the-Loopもそのまま使える。
もう一つの可能性
この機能で面白いのは、n8nやMake.comのような汎用ワークフロー自動化ツールに対するDifyの差別化が明確になった点だ。n8nにも人間の承認ステップはあるが、DifyのHuman Inputノードは「AIが生成した出力を人間が編集して戻す」という双方向のやりとりを前提に設計されている。
将来的には、この仕組みがSlackやTeamsの承認ボットと統合されれば、チャット上で「AIドラフトを確認 → 修正 → 承認」が完結する世界も見えてくる。メール通知だけでなく、普段使っているコミュニケーションツール上で承認フローが回れば、人間の負担はさらに減る。
運用前に知っておきたい制約
タイムアウトがデフォルト7日間に設定されている。つまりHuman Inputノードで一時停止したまま7日間放置すると、ワークフローがタイムアウトで失敗する。本番運用では、承認依頼の通知が埋もれないようにリマインダーの仕組みを別途用意しておく必要がある。
また、メール経由の入力はDify Cloud限定の可能性がある。セルフホスト環境ではWebアプリ経由のみになるケースがあり、メール承認フローを組みたい場合は事前に確認しておきたい。
それでも、「AIワークフローに人間の判断を差し込む」という本質的な課題に正面から答えた機能であることは間違いない。Difyを使っているなら、v1.13へのアップグレードは検討する価値がある。
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