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Vercelのデプロイ、30%はもうAIがやっている — 「Agentic Infrastructure」が意味すること

数字を見たとき、正直驚いた。

Vercelが2026年4月9日に公開したブログ記事「Agentic Infrastructure」によると、Vercel上のデプロイの30%以上が、すでにAIエージェント経由で実行されている。半年前と比べて1,000%増。週次デプロイ数はわずか3ヶ月で2倍になり、その成長の大半をエージェントが牽引している。

開発者がコードを書いてデプロイする——その当たり前のフローに、静かに割り込んできた存在がある。

誰がデプロイしているのか

内訳が興味深い。エージェント経由デプロイのうち、**Claude Codeが約70%**を占める。Lovableとv0が合わせて6%、Cursorが1.5%。つまり、Vercelのエージェントデプロイはほぼ「Claude Code一強」の状態だ。

さらに注目すべきデータがある。Claude Codeを使っているVercelユーザーは全体のわずか1%強。しかし、そのわずか1%が全デプロイの約15%を生み出している。エージェントを使う開発者は、使わない開発者の10倍以上のペースでデプロイしている計算になる。

この非対称性は重要だ。「エージェントが人間の仕事を奪う」という話ではなく、エージェントを使う少数の開発者が、圧倒的な出力量で市場を動かし始めているということだから。

「Agentic Infrastructure」とは何か

Vercel CEOのGuillermo Rauch氏は、この現象を「ソフトウェアの新世代がインフラの新世代を要求する」と表現した。

考えてみれば、これまでもインフラの世代交代はあった。物理サーバーからクラウドへ、クラウドからサーバーレスへ。そのたびにデプロイの手順、スケーリングの考え方、料金体系が根本から変わった。

Vercelが言う「Agentic Infrastructure」は、その次の世代だ。ポイントは2つある。

1. エージェントがデプロイする先としてのインフラ

Claude CodeやCursorが書いたコードを本番に載せるには、テスト環境、プレビューURL、CI/CDパイプラインが必要だ。しかし従来のクラウドインフラは人間がコンソールを操作する前提で設計されている。Terraformのstate管理やGUIでのクリック操作が挟まるたびに、エージェントの自律ループは途切れる。

Vercelは、CLI・API・MCPサーバー・Git連携を通じて、エージェントがコード生成からPR作成、プレビュー確認、本番デプロイまでを一気通貫で実行できる「プログラマブルなデプロイ面」を提供している。

2. エージェントを動かすためのインフラ

もうひとつは、エージェントそのものを構築・実行する基盤だ。ここで登場するのが、同日発表されたAI SDK 6と、それを取り巻くVercelのAIプラットフォーム群になる。

AI SDK 6 — エージェントが「一級市民」になった

AI SDKは、Vercelが開発するTypeScript向けのAIアプリケーションフレームワークだ。Next.jsの開発元が作っているだけあり、Reactとの統合が深い。GitHubスター数も6万を超えている。

バージョン6の最大の変更は、エージェントがフレームワークの一級抽象化になったことだ。

agent()の導入

これまでAI SDKでエージェントを作るには、ツール呼び出しのループを自分で組む必要があった。SDK 6ではagent()という抽象化が導入され、モデル・指示・ツールを1回定義すれば、アプリ全体で再利用できる。

内部実装としてはToolLoopAgentクラスがツール実行ループを処理する。ただしAgentはインターフェースとして設計されているので、独自のエージェント実装に差し替えることも可能だ。

定義したエージェントのツール型がそのままUIコンポーネントの型にも反映されるため、エンドツーエンドの型安全性が保たれる。TypeScriptで開発している人なら、この設計の気持ちよさは想像がつくだろう。

ツール承認システム

地味だが実用的な機能として、ツールの承認フローが追加された。needsApproval: trueを設定すると、エージェントがそのツールを呼び出す前に一時停止し、人間の確認を待つ。

データベースへの書き込みや外部APIへのリクエストなど、「自動で実行されると困る」操作に対してガードレールを設けられる。完全自律と人間監督のバランスを、ツール単位で細かく制御できる仕組みだ。

MCPフルサポート

Model Context Protocol(MCP)への完全対応も入った。GitHub、Slack、データベースなどのMCPサーバーをエージェントのツールとして接続できる。MCPはAnthropicが提唱し、業界標準になりつつあるプロトコルだが、Vercelがフレームワークレベルで組み込んだことで、TypeScript開発者にとってのMCP導入ハードルが一段下がった。

マイグレーション

SDK 5からの移行はnpx @ai-sdk/codemod v6で自動化できる。破壊的変更はあるが、codemodツールが大部分をカバーしてくれる。

AI Gateway — トークンのインフラ層

AI SDK 6と並んで重要なのが、AI Gatewayの位置づけだ。

AI Gatewayは、数百のAIモデルに単一エンドポイントからアクセスできるプロキシサービス。予算設定、モニタリング、ルーティング、リトライ、フォールバックを一元管理する。

料金体系はPay-as-you-go。トークンへのマークアップはゼロで、各プロバイダーの原価でモデルを利用できる。全アカウントに30日ごとに5ドルの無料クレジットが付与される。自前のAPIキーを持ち込む場合もマークアップなし。

Vercelの収益モデルとして見ると、AI Gatewayはトークン単価では儲けず、付加価値(モニタリング、ルーティング、キャッシュ)で課金する構造だ。AWSがコンピュートで儲けるのと同じように、Vercelは「AIトークンが流れるパイプライン」のインフラ層を押さえにきている。

開発者にとって何が変わるのか

ここまでの話を整理すると、Vercelが構築しているのは以下のような世界だ。

  • AIエージェントがコードを書き(Claude Code、Cursor)
  • AIエージェントがデプロイし(Vercel CLI/API/MCP経由)
  • AIエージェントがアプリ内で動く(AI SDK 6のagent())
  • AIトークンの流量をVercelが管理する(AI Gateway)

開発者は、この「エージェント中心のループ」のどこにいるのか。

正直なところ、Vercelのビジョンは「開発者がやることを減らす」方向に一貫している。コードもデプロイもモニタリングもエージェントに任せ、人間は意思決定とレビューに集中する。それが良いことなのかどうかは、立場によって見方が分かれるだろう。

ただ、数字は嘘をつかない。エージェントを使う1%のユーザーが15%のデプロイを生み出しているという事実は、生産性格差がすでに現実のものであることを示している。

気になる点

楽観的な話ばかりではない。

Claude Code依存のリスク。 エージェントデプロイの70%がClaude Code経由ということは、Anthropicの料金改定やAPI制限の変更が、Vercelのインフラ利用パターンに直接影響するということだ。プラットフォーム事業者として、特定のAIプロバイダーへの依存度がここまで高いのは健全とは言いにくい。

エージェントが生んだコードの品質管理。 デプロイ速度が10倍になっても、バグが10倍になっては意味がない。Vercelのプレビューデプロイ機能でビジュアルチェックはできるが、ロジックのバグやセキュリティ脆弱性はエージェント任せで大丈夫なのか。ツール承認システムはあるが、何を承認すべきかの判断は依然として人間の責任だ。

SDK 6の学習コスト。 AI SDK 5から6への移行でcodemodeツールが提供されているとはいえ、エージェント抽象化の概念理解や新しいAPI体系への適応には時間がかかる。特にAI SDK自体が初めてのチームにとっては、「フレームワークのフレームワーク」感が強まったかもしれない。

「インフラの世代交代」は始まっている

Vercelの主張を一文でまとめるなら、「AIエージェントの台頭は、サーバーレスに匹敵するインフラの世代交代を引き起こす」ということだ。

これは大げさに聞こえるかもしれない。しかし、3ヶ月でデプロイ数が2倍になり、その成長の大半がエージェント起因であるという事実は、少なくとも「何かが変わり始めている」ことの証拠にはなる。

Next.jsとVercelのエコシステムにいる開発者にとって、AI SDK 6は「いつか触るかもしれない」ものから「今理解しておくべきもの」に変わった。エージェントが開発のメインストリームに入るのがいつになるかはわからない。ただ、30%という数字は、もうニッチではない

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