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社員が数分でAIアプリを量産する時代の"落とし穴" — Tinesの新基盤「3B」が統治する

いまや誰でも、数分でアプリを作れる。プロンプトを書けば、業務用のちょっとしたツールが即座に立ち上がる。便利だ。便利すぎて、少し怖い。

その"怖さ"に真正面から取り組む製品が出てきた。セキュリティ自動化の分野で知られるTinesが7月28日にローンチした 3B は、社内に溢れかえるAI生成アプリやエージェントを、一箇所で見える化して統治するためのプラットフォームだ。CoinbaseやReddit、SAPといった名前が、早くも導入企業として並んでいる。

「Wild Code」という新しい厄介ごと

Tinesがこの製品で名指ししているのは、彼らが Wild Code(野良コード) と呼ぶ問題だ。

生成AIによって、これまでエンジニアの領分だった「ソフトを作る」という行為が、あらゆる社員の手に渡った。営業がスプレッドシートを自動集計するエージェントを作る。人事が問い合わせ対応ボットを立てる。マーケがデータ連携のワークフローを組む。どれも数分でできて、しかも動く。

問題は、その大半が従来のIT部門のプロセスの外側で生まれていることだ。誰が何を作ったのか、どのデータにアクセスしているのか、止めるべきときに止められるのか——可視性も、説明責任も、統制も欠けたまま、"動くソフト"だけが社内に積み上がっていく。

いわゆるシャドーIT(IT部門が把握していないツール利用)のAI版、と言えばイメージしやすい。しかも従来のシャドーITより厄介なのは、これらが単なるSaaS契約ではなく、自律的に動くエージェントを含む点だ。放置されたエージェントが権限を持ったまま動き続ける、というのは考えるだけでヒヤッとする。

3Bは何をするのか

3Bのコンセプトはシンプルで、「作る・動かす・統治する」を1つの場所に集約する。

自然言語で「こういうワークフローが欲しい」「このアプリを作りたい」と記述すると、認可されたツールやシステム、データに接続してそれを構築する。ここまでは他のAIアプリビルダーと似ている。3Bが違うのは、作られたものすべてを組織として一望できる点だ。社内のどこで、どんなアプリやエージェント、連携、自動化が走っているのかを俯瞰し、オーケストレーションする。

つまり、「社員の自作を禁止して生産性を殺す」のでも、「野放しにしてカオスを招く」のでもない。第三の道——作らせつつ、統べる——を提示しているわけだ。ここがこの製品のいちばん賢いところだと思う。

これが効くと何が変わるか

統治レイヤーが一段入るだけで、企業のAI活用の景色はかなり変わりうる。

まず、「怖いから禁止」からの脱却。多くの企業でいま起きているのは、リスクを恐れて生成AIツールの利用を厳しく縛り、その結果として現場が抜け道を探す、という悪循環だ。可視化と統制の土台があれば、「使わせない」ではなく「安全に使わせる」に舵を切れる。現場のスピードと情シスの安心が、初めて両立する。

さらに踏み込めば、監査やコンプライアンスの負荷も下げられる可能性がある。どのエージェントがどのデータに触れたかが記録として残るなら、金融や医療のように「説明責任」が重い業界ほど恩恵は大きい。Coinbaseのような規制の厳しい企業が早期に採用しているのは、おそらくこの点への期待だろう。

理想を言えば、いずれは「社内で稼働する全AIエージェントの権限とふるまいを、ダッシュボードから一括で棚卸しできる」状態にたどり着けるかもしれない。そこまで行けば、AIガバナンスは"事故が起きてから慌てる"ものから、"設計で防ぐ"ものへと変わる。

冷静に見ておきたい点

とはいえ、期待だけで語るのは公平ではない。

この手の「統治レイヤー」は、組織が本気で運用に乗せて初めて機能する。ツールを導入しただけで野良コードが自動的に消えるわけではない。結局は、社員が作ったものを3Bに集約させる運用ルールと、それを回す担当者が要る。導入のハードルは技術よりむしろ組織側にある、というのが正直なところだ。

もう一つ、料金体系は現時点で公開情報が乏しい。エンタープライズ向けの個別見積もりが基本とみられ、中小企業がすぐ手を出せる価格帯かどうかは読めない。Tines自体がもともと大企業のセキュリティチーム向けに強い製品なので、当面のターゲットもそこだろう。

それでも、「AIで誰もがソフトを作れる」という変化の裏側で必ず生じる統治の空白を、正面から埋めにいった着眼点は鋭い。生成AIの導入が一巡した企業が次にぶつかる壁は、まさにここだ。詳細はTines公式サイトで確認できる。日本企業でも、社内のAI活用が広がるほどこの課題は他人事ではなくなるはずだ。

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