パラメータ5分の1でDeepSeek V4 Proに勝った — テンセントHy3、Apache 2.0で公開
4月のプレビュー公開から2ヶ月半。OpenRouterでのトークン消費量で全プロバイダー中1位、コーディングとツール呼び出しでも1位。市場シェア15.4%。DeepSeek V4 ProでもQwen 3.7 Maxでもなく、テンセントのモデルがトップに立っていた。
7月6日、テンセントはHunyuan Hy3を正式リリースした。プレビュー版ではEU・英国・韓国を除外する制限的なライセンスだったが、正式版ではApache 2.0に切り替わり、地理的制限なしで誰でも商用利用できるようになった。
この1点だけでも、中国AIのオープンソース競争における大きな転換点だ。
21Bで295Bの仕事をする
Hy3のアーキテクチャは、効率で殴るタイプだ。
総パラメータ295Bの中に192個のエキスパートと1個の共有エキスパートを持ち、各トークンの処理時にはルーターが8個のエキスパートだけを選択する。結果として、実際に動くパラメータ数は21B。コンテキスト長は256Kトークン。
比較対象のDeepSeek V4 Proは総パラメータ1.6T、アクティブ49B、コンテキスト1M。Hy3はこのV4 Proの約5分の1のサイズでありながら、共有ベンチマーク18項目中12項目で上回った。出力速度は2.6倍速い。
具体的な数字をいくつか挙げる。
- GPQA Diamond(大学院レベル科学推論): Hy3 90.4 vs V4 Pro ~90.1
- HLE(ツール使用): Hy3 53.2 vs V4 Pro 48.2(5ポイント差)
- SWE-bench Verified(コード修正): Hy3 78
- ClawEval pass^3: Hy3 68.5 vs V4 Pro 62.4 vs Qwen 3.7 Max 65.2
一方で、MathArena Apex(高度な数学)では38.7と、GPT-5.5やQwen 3.7 Max(44.5)に及ばない。純粋な数学推論では上位モデルとの差がまだある。
正式版ではプレビュー版から大幅な改善が施された。ハルシネーション率は12.5%から5.4%に半減。常識エラー率は25.4%から12.7%に。マルチターン問題率は17.4%から7.9%に下がった。
「エージェント解決率90%」の中身
テンセントが強調する「90%のエージェントタスク解決率」は、社内のWorkBuddyプラットフォームで計測された数値だ。プレビュー版の72%から正式版で90%に跳ね上がった。タスク完了時間も平均34%短縮されている。
実例として、石油会社の3リージョン・6鉱区にまたがる連結キャッシュフローモデルを、5,220のリンクされたセルでハードコードなしに自律構築したケースが報告されている。
これはスライド1枚を要約するレベルの「エージェント」ではない。設定可能な推論レベル(high/low/no_think)、ツール呼び出しの安定性、長文脈処理、マルチターンの意図追跡 — プロダクション向けのエージェント機能が一通り揃っている。
WeChat 14億ユーザーという配信力
テンセントのAI戦略は、他の中国AI企業と根本的に異なる。DeepSeekやQwenがモデルの性能で競うのに対し、テンセントは既存プラットフォームへの組み込みで勝負する。
Hy3はWeChat(微信)、QQ、WeCom、QQブラウザ、そして消費者向けAIアシスタント「元宝(Yuanbao)」に統合されている。Yuanbaoは月間アクティブユーザー1億人を突破。WeChatの14億ユーザー基盤がバックにある。
Yuanbaoは最近、テキスト対話を超えてエージェント機能を実装した。ユーザーが会話でニーズを伝えると、PowerPoint・Word・Excelなどの完成したファイルを生成して返す。WeChatのミニプログラム「成長プラン」もHy3にアップグレード済みだ。
モデル性能だけ見ればDeepSeek V4 Proに及ばない場面もある。だがテンセントには「14億人にワンタッチで届ける」チャネルがある。この配信力は、どの中国AI企業も持っていない。
価格は破壊的
APIの料金は入力100万トークンあたり$0.15、出力$0.59。同等クラスのモデルの中央値(入力$0.59、出力$2.20)と比べて入力は約4分の1、出力は約4分の1。キャッシュされた入力はさらに安く$0.037/Mトークン。
OpenRouter、Hugging Face、ModelScopeなどグローバルプラットフォームで利用可能。デプロイにはH20-3eクラスのGPU 8枚が必要で、vLLMとSGLangをサポートする。
率直な評価
Hy3の立ち位置は「最強のモデル」ではない。GPT-5.5やClaude Opusには数学や一部の推論で及ばないし、コーディングではGLM-5.2が先行する場面もある。
だが「21Bアクティブパラメータでここまで出せる」という効率性、Apache 2.0での商用フリー、そして入力$0.15/Mという価格。この3つの組み合わせは、特にコストに敏感なスタートアップや中小企業にとって強力だ。
7月15日には中国の「擬人化AIインタラクション暫定措置」が施行され、ByteDanceのDoubaoやAlibabaのQwenはエージェント作成機能を停止する。この規制がテンセントのエージェント機能にどう影響するかは不透明だが、Hy3のオープンソース版は規制の外にある。Apache 2.0で公開された以上、中国国内の規制変更がグローバルでの利用に影響することはない。
OpenRouterで静かに1位を獲っていた事実が、このモデルの実力を何より雄弁に語っている。
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