データベースの6割をAIが作っている — Supabaseが8ヶ月で評価額1.5兆円に倍増した構造
Supabaseで新しく作られるデータベースの60%以上が、人間ではなくAIツールによって生成されている。

2026年6月4日、PostgresベースのBaaS(Backend as a Service)を提供するSupabaseが$500M(約730億円)のSeries Fラウンドを発表した。評価額は$10.5B(約1.5兆円)。2025年10月のSeries Eから8ヶ月で、評価額はほぼ倍になった。
この異常なペースの背景にあるのは、バイブコーディングの爆発的な普及だ。
Claude Codeがデータベースを一番多く「建てている」
Supabaseの成長を語るうえで避けて通れない数字がある。過去1年でデータベースのローンチ数が600%以上増加し、そのうち60%以上がAIツール経由で作られたという事実だ。なかでも最大の生成元はAnthropicのClaude Codeだと、CEOのPaul Copplestoneが明かしている。
ここで起きていることの本質は単純だ。Lovableで「ECサイトを作って」と言えばSupabaseのDBが自動的に立ち上がる。Claude Codeで「ユーザー認証付きのダッシュボードを」と頼めば、SupabaseのAuth・Database・Storageが一括で設定される。開発者がインフラを「選ぶ」のではなく、AIが「勝手に選んでくれる」時代になった。
つまりSupabaseは、バイブコーディングツールのデフォルト・バックエンドの座を取った。これが成長の正体だ。
ラウンドの中身と投資家の顔ぶれ
今回のSeries Fはシンガポールの政府系ファンドGICがリードし、既存投資家のAccel、Y Combinator、Craft、Felicis、Peak XV、Coatueが追随。Stripeが追加出資し、Salesforce Venturesが新規参加した。累計調達額は10億ドルを超えた。
注目すべきはStripeの追加出資だろう。Stripeは決済基盤、Supabaseはデータベース基盤。バイブコーディングで生まれるアプリの多くは「Supabase + Stripe」の構成になっており、両社の関係は事実上の共生関係にある。
ユーザー数は約1000万人。8ヶ月前の倍だ。従業員は350人。この規模で$10.5Bの評価がつくのは、SaaS企業としては異例の資本効率と言っていい。
Multigres — 「次の10倍」への布石
資金調達と同時に発表されたのが、Multigresというオープンソースのスケーリングソリューションだ。
Supabaseの弱点は長らく「単一DBインスタンスのスケーリング限界」だった。個人開発や中小規模のアプリには十分だが、トラフィックが大きくなると別のソリューションに移行する必要があった。Multigresは水平スケーリング、データベースシャーディング、高可用性、ゼロダウンタイムマイグレーションを提供し、この壁を壊そうとしている。
正直に言えば、まだプレビュー段階であり、本番環境での実績はこれからだ。だがCopplestoneが「OpenAI規模の企業でも使えるようにする」と語っている以上、野心の大きさは伝わる。
バイブコーディング経済の二次効果
この話の面白さは、Supabase自体がAIツールではないという点にある。
バイブコーディングの一次効果は明らかだ。Cursor、Claude Code、Lovable、Bolt — これらのツールがコードを書く速度を10倍にした。だが二次効果として、それらのツールが「選ぶ」インフラに需要が集中するという現象が起きている。
Supabaseがその最大の受益者になった理由はいくつかある。無料枠が寛容で、AIが気軽にDBを立ち上げやすい。PostgresベースなのでAIのトレーニングデータに多い。公式ドキュメントがよく整備されており、LLMが正確なコードを生成しやすい。APIがシンプルで、認証・ストレージ・リアルタイム通信が1つのSDKにまとまっている。
逆に言えば、ここにリスクもある。AIツールのデフォルト設定が変われば、トラフィックが一夜で別のサービスに流れる可能性がある。Claude CodeやLovableのプロンプトテンプレートに「Firebase」や「Neon」が組み込まれた瞬間、状況は一変しうる。
開発者が「選んでいない」インフラの時代
Supabaseの$10.5Bという数字が示しているのは、バイブコーディング時代のインフラ選択が、開発者の意思決定からAIの推薦へとシフトしているという構造変化だ。
これまでは「どのデータベースを使うか」は技術選定の重要な意思決定だった。チームが要件を整理し、PostgresかMySQLかMongoDBかを比較し、ホスティング先を選ぶ。だがバイブコーディングでは、開発者が「アプリを作って」と言った瞬間にAIが全部決める。
この構造が続く限り、AIツールのデフォルト・スタックに入れるかどうかが、インフラ企業の生死を分けることになる。Supabaseはその勝者になった。少なくとも今は。
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