売上ゼロで時価総額15兆円を目指す — ソフトバンクの「Roze」はAIロボティクスの本命か、幻か
149億ドル(約2.2兆円)分の買収資産を束ね、まだ売上がない会社を1,000億ドル(約15兆円)で上場させる。
これがソフトバンクグループの最新の計画だ。

会社の名前は「Roze」(ロゼ)。データセンター建設を自律型ロボットで自動化するAIロボティクス企業で、2026年後半の米国IPOを目指している。TechCrunchとCNBCが4月29〜30日に報じ、日経新聞も追随した。
何を束ねるのか — 149億ドルの中身
Rozeは新しい技術を開発する会社ではない。ソフトバンクがここ数年で買い集めた資産を、ひとつの箱に入れ直す構想だ。
中核はABB Robotics。2025年10月に54億ドル(約8,200億円)で買収した、スイスの産業用ロボット大手だ。従業員約7,000人、2024年の売上23億ドル。溶接用ロボットアームを中心に、自動車や半導体工場で数十年の実績がある。
これにAmpere Computing(ARM系サーバーチップメーカー、65億ドル)とDigitalBridge傘下のデータセンター資産(約40億ドル)を統合する。さらにSB Energyのエネルギー・土地インフラを加え、「ロボット+チップ+箱物+電力」を垂直統合するのがRozeの骨格になる。
データセンター建設の何が問題なのか
この構想が出てきた背景には、AIインフラの物理的なボトルネックがある。
OpenAI・Google・Metaが数百億ドル規模のデータセンター投資を計画しているが、建てるのは人間だ。溶接、構造組立、サーバーラックの設置、ケーブル配線。いずれも人手と時間がかかる作業で、熟練工の不足が世界的な問題になっている。
ソフトバンクが主導するStargate Project(OpenAI・Oracleとの合弁)だけでも、2029年までに最大5,000億ドルを米国AIインフラに投資する計画がある。データセンターを「建てる側」のキャパシティが追いつかないのは明らかだ。
Rozeが狙うのはこの隙間。ABBのロボットアームで溶接と重量物搬送を自動化し、24時間稼働でメガワットあたりの建設時間を大幅に短縮する。ビッグテックがソフトウェアのレイヤーで競争している間に、物理的な建設をロボットで押さえてしまおうという発想だ。
正直、戦略としては筋が通っている。AIの需要が増えれば増えるほど、データセンターが必要になる。データセンターが必要になればなるほど、建設を自動化するロボットの需要も増える。プラットフォーム依存がない、物理レイヤーのインフラビジネスだ。
$100B評価 — 懐疑論も根強い
ただし、1,000億ドルという数字は異次元だ。
歴史上、この規模のIPOを達成した企業はSaudi Aramco、Alibaba、Visa、Facebookなど、いずれも巨額の既存売上があった。Rozeには売上がない。ABB Roboticsの23億ドルを引き継ぐとしても、それで15兆円の評価は説明できない。
ソフトバンク社内でも異論はある。複数の幹部が匿名で「nonsense(馬鹿げている)」と発言したと報じられている。監査済み財務諸表もなく、大口アンカー顧客の名前も出ていない状態で、年内IPOは非現実的だという声が漏れている。
HumAIのブログは「テック企業を装った財務マニューバー」と辛辣に評した。OpenAIへの300億ドル超の出資で生じた資金負担を、IPOによる資金調達で相殺するのが真の目的ではないかという見方だ。
一方で、孫正義の過去を振り返ると、ArmのIPOも「評価額が高すぎる」と言われながら成功させている。Armには30年の実績とライセンス収入があったが、Rozeは「将来のデータセンター需要」というストーリーだけで勝負する。WeWorkの記憶がまだ新しい中で、投資家がどう反応するかは未知数だ。
Figure AIやTesla Optimusとは何が違うか
AIロボティクス分野では、Figure AI(汎用ヒューマノイド)やTesla Optimus(同)が注目を集めている。Rozeのアプローチはこれらとは根本的に異なる。
Figure AIは「あらゆる仕事をこなせる人型ロボット」を目指している。BMW工場に展開し、BotQ工場で年12,000台の生産体制を構築中だ。Tesla Optimusも同様に汎用性を追求している。
Rozeは汎用を捨てた。データセンター建設という特定用途に絞り、ABBの成熟した産業ロボット技術を転用する。「何でもできるロボット」ではなく「溶接と組立だけ確実にやるロボット」。技術的なリスクはFigureやTeslaより低い。ただしその分、市場規模の天井も見えやすい。
孫正義の「Izanagi戦略」の中の一手
Rozeを単体で見ると「売上ゼロの会社に15兆円」という話になるが、ソフトバンクの全体像で見ると別の絵が浮かぶ。
2026年2月に発表された「Izanagi戦略」では、ArmをアーキテクチャライセンサーからAIチップの直接供給者に転換し、OpenAIとの提携でAIモデルの顧客を押さえ、Stargateでインフラを構築する。Rozeはその最後のピース — 物理的な建設を自動化するレイヤーだ。
つまり、孫正義はAIのバリューチェーン全体を縦に貫こうとしている。チップ(Arm)→ モデル(OpenAI)→ インフラ(Stargate)→ 建設(Roze)。これが実現すれば、AIに必要なものをすべて内製できる垂直統合体になる。
壮大だが、それぞれの要素が計画通りに進む必要がある。Armのカスタムチップ戦略がうまくいくか。OpenAIとの関係が維持できるか。Stargateの建設スケジュールが遅れないか。そしてRozeのロボットが、粉塵と高温の建設現場で本当に動くか。
ひとつでも崩れれば、15兆円のストーリーは書き換わる。だが、すべてが噛み合えば、ソフトバンクはAI時代の産業コングロマリットとして不動の地位を築くだろう。その賭けの大きさこそが、孫正義の孫正義たる所以だ。
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