FlowTune Media

AIコーディングエージェントは毎朝、記憶を失う — それをSQLite1個で解決するPMB

新しいチャットを開くたびに、AIに同じ説明を繰り返している気がする。

「このプロジェクトは認証にJWTを使っていて、DBはPostgreSQLで、前に一度Redisを検討したけど却下して……」。Claude CodeもCursorも、セッションが切り替わるとこの手の前提をきれいさっぱり忘れる。人間の同僚なら一度言えば覚えているのに、AIエージェントは毎朝、初出社の新人に戻る。

PMB

その「記憶喪失」を、クラウドに頼らずローカルのSQLiteファイル1個で解決しようというのが PMB(Local-first memory for AI)だ。6月末にProduct Huntで「Launch of the Day」を獲得し、214票・61コメントを集めた。名前だけ見ても何のツールか分からないが、やっていることは一言で言える。AIコーディングエージェントに、セッションをまたいで消えない記憶を持たせる。

PMBが実際に覚えるもの

PMBは、MCP(Model Context Protocol)経由でClaude Code・Cursor・Codex・Zedに接続する。エージェントが会話の中で下した決定、学んだ教訓、プロジェクトの事実、直近の作業、ゴール、ドキュメントを、ディスク上の1つのSQLiteワークスペースに書き溜めていく。

肝心なのは、これがクラウドサービスではないこと。APIキーもサブスクリプションも要らないし、記憶を「読み出す」経路ではLLM呼び出しが一切発生しない。ローカルのファイルにインデックスを引くだけだから速いし、プロジェクトの内部情報が外に出ない。会社のコードベースを扱う人にとって、この「外に出ない」は地味だが重い。

導入は pip install pmb-ai の後に pmb connect claude のようなコマンドを叩くだけ。あとはエージェントがMCPツールとしてPMBを呼び、必要なときに記憶を読み書きする。オフラインファーストで、中身はいつでも人間が覗けるし、エクスポートもできる。ローカルダッシュボードで「今どれだけ効いているか」を確認する仕組みまで付いている。

「なんちゃって記憶」ではない証拠

この手の「AIにメモリを」というツールは山ほどあって、正直、多くは単に会話ログを貼り直しているだけだったりする。PMBが少し違うのは、検索の作り込みだ。

内部ではBM25(キーワード検索)と密ベクトル(意味検索)、そしてエンティティグラフの3つをReciprocal-Rank-Fusionで融合して関連情報を引く。作者が公開している数字では、記憶検索のベンチマークLoCoMoで recall@10 が94.5%、レイテンシは p50 で70ミリ秒。クラウド型のメモリサービスに並ぶか、上回る水準だという。埋め込みモデルは英語・ロシア語・ウクライナ語・スペイン語・ドイツ語など50言語以上を、言語ごとの分岐なしでカバーする。日本語がどこまで実用になるかは触ってみないと分からないが、多言語前提の設計なのは好材料だ。

要するに、「それっぽく覚えている風」ではなく、検索精度を数字で殴りに来ているタイプのツールである。ここは素直に感心した。

これがあると何が変わるか

一番効くのは、複数のエージェントを乗り換える人だろう。今日はClaude Code、明日はCursor、コードレビューはCodex——という使い分けをしていると、ツールごとに文脈がぶつ切りになる。PMBはMCPという共通の口を持つので、同じSQLiteワークスペースを全部のエージェントから共有できる。「どのAIに聞いても、プロジェクトの前提を分かっている」状態が作れるわけだ。モデルをアップグレードしても、エージェントを乗り換えても記憶が生き残る、という設計思想はここに効いてくる。

もう一歩踏み込むと、チーム開発での使い道も見えてくる。SQLiteファイルは1個のファイルだから、リポジトリのルールとして「設計上の決定はPMBに書く」を徹底すれば、そのファイル自体が"AIも人も読める意思決定ログ"になる。新しくジョインした人のエージェントにそのワークスペースを渡せば、過去の「なぜこうしたか」を最初から共有した状態で作業を始められる。ADR(Architecture Decision Record)をAIに食わせる運用の、もっと軽量な現実解になりうる。実現するにはチームで書き込みの規律を保つ必要があるが、仕組みとしては十分射程内だ。

気になる点

手放しで褒められるわけでもない。

まず、記憶の「質」はエージェントが何を書き込むか次第だ。エージェントが的外れなメモを溜めれば、検索が速くても引いてくる情報がノイズになる。何を覚えさせ、何を捨てるかの運用ルールは、結局こちら側で設計する必要がある。ローカルダッシュボードで中身を点検できるのは、裏を返せば「点検しないと太る」ということでもある。

次に、これはオープンソースの個人開発プロジェクトだ(GitHubは oleksiijko/pmb、公式サイトは pmbai.dev)。Product Huntで跳ねたとはいえ、長期のメンテナンスや大規模プロジェクトでの安定性はこれからの話。ミッションクリティカルな環境にいきなり組み込むより、まずは個人のサイドプロジェクトで「本当に説明の手間が減るか」を体感してから広げるのが現実的だろう。

とはいえ、クラウドに何も送らず、無料で、MCP対応エージェントならどれにでも刺さる——という三拍子は、試すハードルを相当低くしている。AIに毎回プロジェクトを説明し直す作業に少しでもうんざりしているなら、pip install 1行分の価値はある。

関連記事