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TikTokの「AI Kiss」が660億円を集めた — PixVerseが動画の次に狙う"世界モデル"

写真を2枚アップロードすると、AIが自然なハグやキスの動画を作ってくれる——TikTokやInstagramでバイラルした「AI Hug」「AI Kiss」の中身が、PixVerseだった。この「おもちゃ」的なバイラルツールが、いつの間にか評価額3000億円超のスタートアップになっている。

7月13日、シンガポール拠点のPixVerseがシリーズC拡張を完了し、ラウンド総額は4.39億ドル(約660億円)に。評価額は20億ドル、日本円でおよそ3000億円を超えた。3月にCDH Investmentsがリードした約3億ドルの初期ラウンドに、今回アリババ、Mirae Asset、BlueFocusなどが加わった拡張分だ。以前「おもちゃで終わらない理由」として取り上げたときの読みは、どうやら当たっていたらしい。

「バイラルツール」から「3階建ての動画プラットフォーム」へ

今回の発表で個人的に一番面白かったのは、資金の額よりもモデル構成の整理だった。PixVerseは製品を3つのラインに分けてきた。

モデル系統 用途
V-Series 一般ユーザー・API向けの動画生成
C-Series 映画・CM制作などプロ向けワークフロー
R-Series ゲーム開発・世界構築向けの「世界モデル」

V-Seriesは、あのAI Hug/Kissを支える消費者向けの本体。ここは最大4K解像度、しかも音声込みで動画を生成できるようになった。従来の動画生成AIは「映像はできるが音は別途」というものが多く、そこにナレーションやBGMを後から乗せる手間があった。音声が最初から焼き込まれるのは、SNS用の短尺動画を量産する層には地味に効く進化だ。

「世界モデル」という次の賭け

注目すべきはR-Seriesだ。PixVerseはこれを「world model(世界モデル)」と呼び、ゲーム開発やインタラクティブエンターテインメントへの拡張を明言している。

ここは説明が要る。従来の動画生成AIは「決まった尺の映像を1本吐き出す」ものだった。だが世界モデルは、ユーザーの入力に応じてリアルタイムで映像世界が変化する——つまり「操作できる動画」に近い。ゲームの背景やNPCの挙動、あるいはインタラクティブな体験そのものをAIが生成する方向だ。

これが本当に実用水準に達したら、インパクトは大きい。個人開発者が、アセットを一から作らずにプレイ可能な世界の試作をAIに吐かせる、といった使い方が視野に入る。動画生成が「見るコンテンツ」だったのに対し、世界モデルは「入り込めるコンテンツ」を狙っている。もっとも、リアルタイム生成は計算コストも品質の安定性もまだ課題だらけで、ここは「揃えばすごい」の段階だと正直思う。派手な構想ほど、実物が出るまでは割り引いて見ておきたい。

競合ひしめく動画AIで、なぜPixVerseに金が集まるのか

動画生成AIは今もっとも激戦の分野だ。Kling 3Seedance 2.5、Runway、Veoと、名だたる顔ぶれが4K・音声・長尺を競っている。技術スペックだけ見れば、PixVerseが突出しているわけではない。

それでも資金が集まったのは、1.5億の登録ユーザーと1500万のMAUという「実際に使われている」証拠があるからだろう。バイラルテンプレートで一般層を掴み、そこからプロ向け・ゲーム向けへ裾野を広げる——「入口はおもちゃ、出口は本格ツール」という設計がはっきりしている。アリババとの展開契約もあり、中国・アジア圏の配信網を握っているのも強みだ。

日本のユーザーにとっては、まず「音声込み4Kが手軽に作れる動画AI」として試す価値がある。凝った映像制作というより、SNS用の短尺やプロトタイプ作りに向く。世界モデルの方は面白い構想だが、実物が公開されてから騒いでも遅くない。バイラルで終わらせず、ここまで事業を積み上げてきた手腕は、素直に評価していいと思う。

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