FlowTune Media

ノートアプリにMCPサーバーが内蔵されている — OpenKnowledgeという実験

Claude Codeで作業中に「あの仕様書どこだっけ」と思ったとき、手動でファイルを探してコンテキストに貼り付ける。Cursorで開発しながら、別ウィンドウのNotionから要件をコピペする。こういう作業を1日に何十回もやっている人は少なくないだろう。

OpenKnowledge

OpenKnowledgeは、この「コンテキストの断絶」に真正面から取り組んだノートアプリだ。Y Combinator出身のInkeepが6月27日にオープンソースとして公開し、Hacker Newsで250ポイント以上を獲得。初日に1,400人がサインアップした。

特徴を一言で言えば、ノートアプリそのものがMCPサーバーになる

ok init だけでAIツールとつながる

セットアップは驚くほど簡単だ。ターミナルで ok init を実行すると、OpenKnowledgeはマシン上にインストールされているAIツールを自動検出する。Claude Code、OpenAI Codex、Cursorのいずれかがあれば、それぞれに対応するMCP設定ファイルとスキル定義を自動生成する。

その瞬間から、AIエージェントはOpenKnowledge内のすべてのドキュメントをファーストクラスのファイルシステムとして扱える。ベクトル検索、全文検索、Wiki リンクのナビゲーション、ドキュメント編集 — すべてがMCP経由で公開される。

つまりClaude Codeのセッション中に「プロジェクトの設計ドキュメントを参照して」と言えば、MCPサーバー経由でOpenKnowledgeのナレッジベースから関連ドキュメントが引き出される。手動でファイルを貼り付ける作業が消える。

見た目はNotion、中身はObsidian

エディタとしての体験は、Obsidianよりも明らかにNotionに近い。真のWYSIWYGで、マークダウンのソースとプレビューを切り替える必要がない。コールアウト、アコーディオン、タブ、Mermaidフローチャート、インラインビデオ埋め込みといったリッチブロックにも対応する。

だがデータの扱いはObsidian寄りだ。ファイルはローカルのマークダウン(MDX対応)として保存される。クラウドは一切不要。既存のObsidian Vaultをそのまま開くこともできる。

チーム共有にはGitを使う。専用のSyncサービスに課金する必要はなく、GitHubのプライベートリポジトリにpushするだけでバージョン管理、コンフリクト解消、監査証跡がすべて揃う。

CRDTの二重監視 — 技術的に面白い設計

個人的に最も興味深かったのはCRDTアーキテクチャだ。yjs(YATA アルゴリズム)上に構築された「Dual-observer CRDT」を使っている。

ProseMirrorのリッチテキストドキュメントと、その生マークダウン表現を2つの独立したオブザーバーが同時に監視する。一方が変更されると、もう一方にデルタ変換が適用され、バイト単位の忠実性を保ちながら双方向で同期される。

これが何を意味するかというと、AIエージェントがマークダウンファイルに直接書き込んだ瞬間に、WYSIWYG画面がリアルタイムで更新される。逆も同じ。サーバーへのデータ送信はゼロ。yjs自体が18KBしかないため、動作も軽い。

Obsidian・Notionとの比較

正直に言おう。OpenKnowledgeがObsidianの2,500以上のプラグインエコシステムや、Notionのチームコラボレーション機能に今すぐ勝てるとは思えない。まだ1.8kスターの新参者だ。

だが「AIエージェントとの連携」という一点においては、設計段階から組み込まれている分、プラグインで後付けするObsidianより筋がいい。Notion AIはクラウドに閉じており、MCPのようなオープンプロトコルには対応していない。

項目 OpenKnowledge Obsidian Notion
WYSIWYG ネイティブ ソース/プレビュー切替 ネイティブ
AI連携 MCP内蔵 コミュニティプラグイン クラウドAI
ローカル動作 完全ローカル 完全ローカル クラウド必須
オープンソース GPL-3.0 プロプライエタリ プロプライエタリ
料金 無料 無料(Sync $4-8/月) フリーミアム

「エージェントの第二の脳」という構想

OpenKnowledgeが「LLM Wiki」を名乗っているのは伊達ではない。このツールは人間が読むためだけでなく、AIエージェントが参照・更新する「第二の脳」として設計されている。

ここから見える可能性がいくつかある。たとえばプロジェクトの設計判断をOpenKnowledgeに蓄積していけば、Claude Codeが新機能を実装する際に過去の決定根拠を自動で参照できる。「なぜこのアーキテクチャにしたのか」をいちいちプロンプトに書く必要がなくなる。

もう一つ。チームの複数メンバーがそれぞれCursorやClaude Codeで開発し、共有のOpenKnowledgeリポジトリに知識を書き戻す。エージェント同士がGit経由で非同期に知識を共有する状態 — ある種の「分散AIメモリ」が実現する。

気になる点

GPL-3.0ライセンスは企業での採用にハードルが高い。コードを組み込む場合はGPL汚染のリスクがある。スタンドアロンのノートアプリとして使う分には問題ないが、自社プロダクトに組み込みたい企業はライセンスの確認が必要だ。

プラットフォーム対応も現時点ではmacOSネイティブアプリ(Apple Silicon)が最も安定しており、Linux/WindowsはCLI経由のWeb UI。モバイル対応は未発表。Node.js 24以上が必要な点も、非エンジニアには敷居が高い。

そして最大の不確定要素は、Inkeepがこのプロジェクトをどこまで本気で維持するか。$13Mのシード資金(Khosla Ventures、YC出資)を得ている企業だが、本業はドキュメントAIスタートアップ。OpenKnowledgeがどのように収益化されるのか — あるいはされないのか — はまだ見えていない。

試す価値はあるか

Claude CodeやCursorを日常的に使っていて、ドキュメントとコーディングの間のコンテキスト切り替えに不満を感じているなら、試す価値はある。ok init の一撃で環境が整う体験は、確かに未来を感じさせる。

ただし、Obsidianの豊富なプラグインに満足している人や、チームでNotionを使い込んでいる人が乗り換える理由は、まだ弱い。「AIエージェントとシームレスにつながる」という一点にどれだけ価値を感じるかが分かれ目になる。

関連記事