メール・Slack・カレンダーを全部覚えるAIエージェントが無料で動く — OpenHumanの「記憶ファースト」設計

「パーソナルAI」と呼ばれるカテゴリの製品が増えてきた。Perplexityの Personal Computer、OpenClawの「デジタルロブスター」、Manus——どれも「自分のことを全部知っているAIアシスタント」を目指している。
OpenHumanもその一つだが、アプローチが少し違う。OSSで、ローカルファーストで、しかも「デスクトップマスコット」がいる。GitHub 11,000スター超。ベータ版ながら、設計思想がはっきりしているプロジェクトだ。
何をするツールなのか
一言で言えば、「あなたの全データを記憶し続けるAIエージェント」。
Gmail、Slack、Notion、GitHub、Google Calendar、Drive、Linear、Jira——118以上のサービスと連携し、20分ごとに自動でデータを取得する。取得したデータはローカルのSQLiteに保存され、3,000トークン以下のMarkdownチャンクに圧縮・スコアリングされた上で「メモリツリー」と呼ばれる階層構造に格納される。
ポイントは、これがすべてローカルで動くこと。データはクラウドに送られない。
メモリツリーの仕組み
OpenHumanが他のAIアシスタントと最も差別化される部分がここだ。
通常のAIチャットは「聞いたことを忘れる」。コンテキストウィンドウに収まらない古い情報は消える。OpenHumanはこの問題を、Andrej Karpathy氏が提唱した「AIのObsidian wiki」的なアプローチで解決しようとしている。
動作の流れ:
- 接続したサービスから20分ごとにデータを自動取得(Auto-Fetch)
- 取得したデータを3,000トークン以下に圧縮(TokenJuice)
- 圧縮されたチャンクをスコアリングし、階層的なサマリーツリーに格納
- ツリーはObsidian互換のMarkdown形式でローカルに保存
結果として、最大10億トークン分の「記憶」を保持できるという。実際の精度は使ってみないとわからないが、構造自体は理にかなっている。
デスクトップマスコットという割り切り
「The Tet」と呼ばれるマスコット(映画『オブリビオン』のAI参照だろうか)がデスクトップに常駐する。話しかけると音声で返答し、バックグラウンドで「考え続ける」。Google Meetに参加して会議内容を記録する機能まである。
正直、マスコットUIは好みが分かれる。だが「AIエージェントの存在感をどう表現するか」という問題に対する一つの回答ではある。テキストチャットのウィンドウは閉じてしまえば忘れるが、マスコットはそこにいつづける。
TokenJuice——コスト80%削減の仕組み
OpenHumanは複数のLLMをルーティングして使う。推論用、高速応答用、ビジョン用と使い分ける。その際、独自のトークン圧縮技術「TokenJuice」でコンテキストを圧縮し、APIコストを最大80%削減するとしている。
また、Ollamaを使ったローカルモデルにも対応しているため、完全にオフラインで動かすことも可能だ(ただし性能は落ちる)。
技術スタック
Rust + Tauri製のデスクトップアプリ。Node.js 24+、pnpm、Rustの環境が必要になる。GNU GPL-3.0ライセンスでオープンソース。
セットアップはリポジトリのクローン後にpnpm install→pnpm devで起動する。ただしRustのビルド環境が必要なので、プログラミング経験のない人には敷居が高い。
気になる点
ベータ版であること自体は仕方ないとして、いくつか懸念がある。
まず、118のサービス連携に必要な権限の広さ。メール、カレンダー、メッセージアプリのデータをすべてローカルに引っ張ってくる設計は、便利だが裏を返せばそのマシンが侵害されたときのリスクが大きい。KnightLiのレビューでも、この点が指摘されている。
次に、メモリの精度。10億トークンを「覚えている」と言っても、必要な情報が必要なタイミングで引き出されなければ意味がない。圧縮とスコアリングのアルゴリズムがどこまで賢いかは、長期使用しないと判断できない。
最後に、料金モデルが若干不透明だ。OSS+サブスクリプションという形式で、TokenJuiceの利用にはサブスクが必要になる。具体的な価格はまだ公表されていない。
OpenClaw・Manus・Perplexity PCとの立ち位置の違い
同じ「パーソナルAI」でも設計思想が違う:
- OpenClaw — 60,000スター超の大本命。50+連携。軽量で、iMessage/Telegram等メッセージングアプリ経由で操作する
- Manus — クラウドベースの万能エージェント。自律性が高いがブラックボックス
- Perplexity Personal Computer — macOS常駐。検索エンジンの延長としてのデスクトップAI
- OpenHuman — 「記憶」に全振り。118連携のデータを丸ごとローカルに溜め込み、長期記憶で差別化
OpenClawが「軽量で何でも屋」なら、OpenHumanは「重厚で記憶力がいい」タイプ。使い分けの軸がはっきりしている。
どういう人に向いているか
「いろんなSaaSに散らばった自分のデータを、一つのAIが全部把握してくれたら」と思ったことがある人。特にSlack・Gmail・Notion・GitHubを日常的に行き来するナレッジワーカーには刺さるはず。
ただしベータ版であること、Rust環境が必要なこと、権限管理に自信が持てること——この3つの条件をクリアできる人に限られる。
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