AIの記憶が月1.5万円の有料機能になった48時間後、無料で同じものが生まれた — OpenChronicle
4月20日、OpenAIがCodex向けの新機能「Chronicle」を発表した。画面をAIに見せて、作業内容を記憶させる。いわばAIの「長期記憶」だ。
ただし使えるのはChatGPT Proの$100/月プラン限定。
その48時間後、Gen Z世代の開発者チーム「Vida」がオープンソースで同等機能を公開した。名前はOpenChronicle。Hacker Newsでは9時間で2,000件以上のインタラクションを集め、GitHubスターは1,900を超えている。

なぜOpenAI Chronicleが炎上したのか
OpenAI Chronicleの仕組みはこうだ。Macの画面をバックグラウンドでキャプチャし、サンドボックス内のCodexセッションが画像を分析して「構造化メモリ」を生成する。このメモリがMarkdownファイルとしてローカルに保存され、以降のAIセッションで文脈として使われる。
問題は2つあった。
ひとつはプライバシー。画面キャプチャがOpenAIのサーバーに送られて処理される。メモリファイルは端末にあるが、暗号化されていない。The Registerは「プライバシーの足元を撃ち抜く機能」と評した。
もうひとつは価格。月$100(約1.5万円)のChatGPT Proでしか使えない。AIの記憶という、本来すべてのAIエージェントが持つべきインフラ機能を、ひとつのサブスクに閉じ込めたことへの反発は大きかった。
OpenChronicleが48時間で作ったもの
OpenChronicleのアプローチは真逆だ。
すべてがローカルで完結する。 画面の情報はmacOSのアクセシビリティAPI(AXツリー)から取得する。スクリーンショットではなく、アプリのUI構造を直接読むため、データ量が少なく処理も速い。
取得したコンテキストは5段階のパイプライン(capture → parse → normalize → reduce → write)を経て、MarkdownファイルとSQLiteのFTS5インデックスに変換される。セッション管理も自動で、5分のアイドルや3分以上のアプリ切り替えで区切りが入る。
モデルに依存しない。 Ollama、LM Studio、OpenAI、Anthropic、その他LiteLLM互換のプロバイダーなら何でも使える。ローカルのLLMでメモリの要約を回せば、データが一切外に出ない。
エージェント間で共有できる。 MCP(Model Context Protocol)経由でhttp://127.0.0.1:8742/mcpにアクセスすれば、Claude Code、Claude Desktop、Codex CLI、カスタムエージェント、どこからでも同じメモリを参照できる。これが地味に大きい。
技術的に面白いポイント
個人的に注目したのは、AXツリー優先のアプローチだ。
Microsoft Recallやnoreのようなスクリーン記録系ツールは画像ベースで動く。画面全体をキャプチャするので情報は豊富だが、処理コストが高く、OCRの精度にも左右される。
OpenChronicleはmacOSのアクセシビリティAPIを使ってUIの構造データを直接取る。ブラウザのDOM、エディタの開いているファイル、Slackのチャンネル名。画像より構造化されたデータが得られるから、後段のLLM処理も効率的だ。
ただし、AXツリーだけでは拾えない情報もある。画像コンテンツ、ビデオ会議の共有画面、描画系アプリの中身。このあたりはv0.1.0の限界で、今後スクリーンショットとのハイブリッド化が進むかもしれない。
「プロダクト」から「システム」へ
Epsilla Blogのある記事が、OpenChronicleの意義を端的にまとめていた。
「これは単なるOSSプロジェクトではない。AIを『プロダクト』から『システム』へ押し出すステップだ」
従来、AIの記憶はChatGPTならChatGPTの中、ClaudeならClaudeの中にしか存在しなかった。ツールを切り替えるたびに文脈はリセットされる。OpenChronicleが提案するのは、メモリをどのプロバイダーにも依存しない独立したレイヤーとして切り出すことだ。
これが実現すると、たとえばClaude Codeで書いたコードの文脈をCursorで引き継ぐ、Codex CLIの作業履歴をChatGPTの会話に反映させる、といったことがシームレスにできる。「記憶の移植性」がAIエージェント時代のインフラになる可能性がある。
使い方
macOS 13以上、Xcode Command Line Toolsが必要。インストールは簡単だ。
git clone https://github.com/Einsia/OpenChronicle.git
cd OpenChronicle
bash install.sh
openchronicle start で記録開始、status で状態確認、pause / resume で一時停止、stop で終了。Claude Codeなど対応クライアントからはMCP経由で自動接続される。
ブラウザ、ターミナル、エディタ、Slack、Notion、Cursor、Linear、Figmaなど主要アプリにはアプリ固有のパーサーが用意されている。
正直な評価
良い点:
- 48時間で$100/月の機能をOSS化した開発速度と信念
- AXツリー優先のアプローチは合理的
- MCP対応でエージェント間のメモリ共有が実用レベル
- MIT Licenseで商用利用も可能
微妙な点:
- macOS限定(Linux/Windowsは未対応)
- v0.1.0のアルファ版。安定性は未知数
- AXツリーだけでは拾えない情報がある(画像、ビデオ通話など)
- メモリが増えたときの検索精度やストレージ管理は今後の課題
mem0やMemPalaceとの違い
AIメモリの分野ではmem0やMemPalaceも注目されている。mem0はクラウドベースのメモリAPI、MemPalaceはローカルのナレッジグラフ型。OpenChronicleはスクリーンコンテキストからの自動記録に特化している点で、方向性が異なる。
手動でメモリを管理したい人にはmem0、構造化された知識ベースを作りたい人にはMemPalace、「何もしなくても作業内容が記録される」ことを重視するならOpenChronicle。使い分けられる関係だ。
まとめると
OpenChronicleは完成品ではない。Mac限定のアルファ版で、荒削りな部分も多い。
だが「AIの記憶は特定のプロダクトに閉じ込めるべきではない」というメッセージは、多くの開発者の共感を集めた。月$100の壁を48時間で壊したスピード感も含めて、OSSコミュニティの底力を見た気がする。
AIエージェントを日常的に使っている人なら、一度触ってみる価値はある。
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