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電気ではなく「光」で動くAIチップに475億円 — NVIDIAの牙城に挑む英国のOLIX

AIの推論コストが下がらない理由の多くは、実はモデルそのものではなく、その下で動く「半導体」にある。GPUは電気信号で計算し、その過程で膨大な熱を出す。データをチップ内で運ぶだけで電力を食い、メモリ(HBM)との間で渋滞が起きる。今のAIインフラのボトルネックは、頭脳ではなく配線と発熱のほうにある、と言ってもいい。

ここに「そもそも電気で計算するのをやめたら?」という角度から殴り込もうとしているスタートアップがある。英国のOLIX Computingだ。8月3日、同社は3億1200万ドル(約475億円)のSeries Bを調達し、評価額は33億ドル(約5000億円)に達したと発表した。欧州の半導体スタートアップとしては過去最大級のVCラウンドで、設立からわずか2年での到達だ。

「光で計算する」とはどういうことか

OLIXが作っているのは、同社が Optical Tensor Processing Unit(OTPU)と呼ぶチップだ。名前のとおり、電気ではなく光(フォトン)を使ってAIの計算——大量の行列演算——をこなす。

光を使う利点はシンプルで、電気信号より速く伝わり、発熱が圧倒的に少ない。GPUが苦しんでいる「熱」と「データ移動の遅さ」という2つの壁を、原理からずらしにいく発想だ。さらに同社は、AI半導体のコスト高の元凶とも言われる高帯域メモリ(HBM)を使わない設計を掲げている。NVIDIAのGPUが軒並みHBMの確保に苦労している現状を考えると、この「HBMを捨てる」という一点だけでも狙いは尖っている。

もっとも、光コンピューティング自体は何十年も「次世代」と言われ続けてきた分野でもある。研究室では動いても、量産できる形に落とし込むのが難しく、多くの挑戦者が消えていった。OLIXの主張が本物かどうかは、結局のところ実チップが出てから、という留保は付けておきたい。

主力チップ「DX-1」の主張

同社の主力製品は、DX-1という推論特化のアクセラレータだ。AIモデルが答えを組み立てて出力する「デコード」の段階に狙いを絞っている。

数字はなかなか強気で、1000億パラメータ級のモデルにおいて、ユーザーあたり毎秒1万トークン超の生成を主張している。もし本当なら、体感としては「返答を待つ」という感覚がほぼ消えるレベルだ。

ただしスケジュールは慎重に見たほうがいい。チップ設計の最終段階であるテープアウトは2026年後半、最初の出荷は2027年後半が目標とされている。つまり、今日明日に手に入る製品ではなく、実性能が検証されるのはまだ1年以上先ということになる。

誰が金を出しているのか

このラウンドで目を引くのは、投資家の顔ぶれだ。半導体設計の中核であるArm、大手アルゴリズム取引のHudson River Trading、そしてNetflix共同創業者のリード・ヘイスティングス氏らが参加。リードはFundomoが務めた。

さらに象徴的なのが、英国政府のSovereign AI(主権AI)ベンチャーファンドが出資している点だ。AI半導体を海外——事実上NVIDIA一強——に依存する構造から抜け出したい、という国家レベルの思惑が透けて見える。ちなみにOLIXは2026年2月にも10億ドル評価で2.2億ドルを調達したばかりで、わずか半年で評価額が3倍に膨らんだ計算になる。創業者が25歳という点も含め、期待の大きさは尋常ではない。

これが実現したら何が変わるか

仮にOLIXの主張どおりのチップが量産に乗ったら、という前提で考えてみると、インパクトは小さくない。

まず、推論コストの構造そのものが変わる可能性がある。今、AIサービスの多くは「動かすほど赤字」に近い状態で走っている。発熱と電力とHBM調達がコストの大半を占めるなら、そこを光で置き換えたチップは、料金体系を根本から書き換えうる。私たちが毎月払っているAIツールの月額が、数年後にもう一段下がるとしたら、その裏側にはこういう半導体側の変化があるかもしれない。

次に、電力制約からの解放だ。データセンターの新設が各地で電力不足に突き当たっている今、「同じ電力でより多く推論できる」チップは、そのまま提供できるAIの総量を増やす。発熱が少なければ冷却設備も簡素になり、置ける場所の自由度も上がる。

そしてもうひとつ、地政学的な意味合い。AI半導体がNVIDIAとその周辺に集中している現状は、多くの国にとって安全保障上の弱点になっている。光チップのような「別路線」が一つでも実用化されれば、その独占に風穴が開く。英国政府が資金を入れているのは、まさにこの絵を描いているからだろう。

正直な評価

技術的な野心という点では、素直にわくわくする話だ。「電気をやめて光で計算する」というのは、GPUの延長線上でスペックを競う各社とは戦っている土俵が違う。HBMを使わないという設計思想も、今のボトルネックを正面から突いている。

一方で、冷静になるべき点も多い。光コンピューティングは「有望だが実用化が難しい」の代名詞のような分野で、華々しい主張が製品にならなかった例は数えきれない。DX-1の出荷は2027年後半で、性能の数字はすべて現時点では「主張」の段階だ。評価額5000億円という数字は、実績ではなく期待に対して付いている。

だから今の段階でのスタンスとしては、「NVIDIAの代替が来た」と飛びつくのではなく、「光チップという別ルートに、国家と大手が本気で賭け始めた」というシグナルとして受け止めるのが妥当だと思う。AIの進化を語るとき、モデルの話ばかりが注目されがちだが、その足元でこういう競争が始まっていることは知っておいて損はない。ラウンドの詳細はData Center Dynamicsの報道にまとまっている。

なお同社は、25歳の創業者ジェームズ・ダコム氏が2024年に Flux Corp として登記し、2026年1月に OLIX Computing へ改称した経緯がある。過去の情報を追う際は旧名も覚えておくといい。

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