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Notion Custom Agents — メモアプリが「部下」を雇い始めた件について

Notionはメモアプリだ——そう思っていた時期が、私にもありました。

2026年2月24日、Notion 3.3のリリースノートを開いたとき、最初に目に飛び込んできたのは「Custom Agents」の文字だった。メモとタスク管理のツールが、自律型AIエージェントの実行環境になった。しかも自然言語で「こういう仕事をして」と伝えるだけで、エージェントが自動生成される。パブリックベータ開始から数週間で、すでに21,000体以上のエージェントが作られたという。Notion社内でも2,800体が24時間稼働しているらしい。

数字だけ聞くと冗談みたいだが、触ってみると冗談ではなかった。

作るのは簡単すぎるほど簡単

Custom Agentsの設計思想は「プログラミング不要」を通り越して、「考えなくていい」に近い。やることは3つだけ。自然言語で仕事を説明する。トリガー(スケジュールまたはイベント)を決める。データソースと連携先を選ぶ。これでエージェントが動き出す。テンプレートも用意されているから、最初の1体は5分もかからない。

連携先はSlack、Notion Mail、Notion Calendar、Figma、Linear、HubSpotと幅広い。MCPサーバー経由でカスタム接続も可能だ。AIモデルはAutoモードでNotion側が最適なものを選んでくれるが、Claude Sonnet、Claude Opus、GPT-5.2から手動で指定することもできる。GPT-4.1やClaude 3.7も選択肢に含まれている。

Custom Skills機能もある。よく使うAIタスクをコマンド化して、テキスト選択メニューやエージェントチャットから呼び出せる仕組みだ。スキルはNotionのページとして保存されるから、チーム全体で共有・改善できる。地味だが、実務ではこの「再利用性」がじわじわ効いてくる。

実用性は「指示の精度」次第

Remote社のIT部門がCustom Agentsでチケットトリアージを自動化した事例では、95%以上の精度で分類、25%以上のチケットを自律的に解決し、週20時間の工数削減を実現したと報告されている。数字だけ見れば文句のつけようがない。

ただし、この手の成功事例には但し書きが要る。

Custom Agentsは「賢い解釈者」ではなく「精密な実行者」だ。「良い学校の近く」と指示すれば、Googleレビュー4.2の学校の近くを返してくる。「通勤が楽な場所」と言えば、火曜午後2時の公共交通機関で45分以内という条件を勝手に設定する。技術的には正しい。しかし人間が期待する「良い」とはズレている。

つまりCustom Agentsの性能は、指示を書く人間の能力に強く依存する。プロンプトエンジニアリングの素養があるチームなら即戦力になるだろう。曖昧な指示で「察してくれる」ことを期待すると、的外れな結果に振り回されることになる。

料金設計の巧妙さ

現在(2026年4月8日時点)、Custom AgentsはBusinessプランとEnterpriseプランのユーザーなら無料で試せる。このトライアル期間は5月3日まで。

5月4日以降はNotion Credits制に移行する。1,000クレジットあたり10ドル。Custom Agentsは1,000クレジットで約45〜90回実行可能と公式は案内しているが、タスクの複雑さやデータ量によって変動する。未使用クレジットは月末で失効し、翌月への繰り越しはない。クレジットが不足するとエージェントは自動で一時停止する。

ここで引っかかるのが「Business以上限定」という制約だ。Businessプランは月額20ドル/ユーザー。個人やフリーランスがPlusプラン(月額12ドル)で使っているケースは多いはずだが、Custom Agentsはその層には提供されない。Notionは明確に「チーム向けの機能」と位置づけている。

個人的には、この判断は理にかなっていると思う。自律型エージェントを野放しにすると、権限管理やプロンプトインジェクション対策が不可欠になる。チームの管理者がいない環境でそれを担保するのは現実的ではない。ただ、個人ユーザーとしては素直に悔しい。

セキュリティは「発展途上」

プロンプトインジェクション——エージェントが読み取るコンテンツに悪意ある指示を仕込み、動作を操作する攻撃手法——への対策として、Notionは自動検出のガードレールを実装している。不審なコンテンツが検出されるとユーザーの承認を求め、管理者はエージェントがアクセスできる外部コンテンツを制限できる。

Notion自身がこの領域を「active area of investment(積極的に投資している分野)」と表現しているのは正直だと思う。裏を返せば、まだ完成していないということでもある。機密情報を扱うワークスペースでCustom Agentsを導入する場合、アクセス権限の設計は慎重にやるべきだ。

もう一つ気になるのは、5,000レコード超のデータベースでのパフォーマンス劣化だ。ページ読み込みに3〜5秒、フィルタリングやソートが遅延するとの報告がある。エージェントが大量データを処理する場面では、この制約が実用上のボトルネックになりうる。

NotionがNotionである必然性

Custom Agentsの最大の強みは、Notionのエコシステムの中に存在していることそのものだ。

ドキュメント、データベース、タスク管理、カレンダー、メール——Notionはこれらを一つのワークスペースに統合してきた。Custom Agentsはその統合基盤の上で動くから、外部ツール連携のためにZapierやMakeを噛ませる必要がない。エージェントが参照するデータも、指示を出す人間が日常的に触っているデータと同じ場所にある。このコンテキストの一致は、他のスタンドアロン型AIエージェントには真似しにくい構造的優位だ。

一方で、Notionの外の世界との接続はMCPサーバー頼みになる。MCPの対応範囲が広がらないと、「Notionの中では万能だが外では無力」という壁にぶつかる。現時点ではSlack、Figma、Linear、HubSpotあたりをカバーしているが、SalesforceやJIRA、Google Workspaceとの深い連携を求めるチームにはまだ物足りないだろう。

筆者の所感

正直に言えば、Custom Agentsは「すごい」というより「ずるい」機能だと感じた。

他社がAIエージェントの汎用プラットフォームを作ろうとして「何にでも使えるが、何にも深くない」問題と格闘しているのに対し、Notionは自社のワークスペースに閉じることで、セットアップの手軽さとコンテキストの深さを同時に確保した。メモアプリからの進化という文脈が、逆に強みになっている。

懸念は2つ。まず、5月4日以降のクレジット消費が読みにくいこと。「45〜90回/1,000クレジット」という幅は大きすぎる。月の途中でエージェントが止まる事態は、チームの業務フローを直撃する。もう一つは、指示精度への依存度の高さだ。「AIに仕事を任せる」と言えば聞こえはいいが、その前提として「AIに正確な仕事を伝える」というスキルが必要になる。これは組織によっては新たな学習コストになる。

それでも、NotionがAIエージェントの主戦場になりうることを示した一手であることは間違いない。メモアプリだと思っていたものが、気づけば部署に一人いる有能なアシスタントになっていた——そういう未来が、もう始まっている。

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