「AIを研究するAI」を掲げる元Anthropic組が、半年で評価額5倍に — Mirendilという賭け
まだ一般に使える製品はない。会社ができてから1年も経っていない。それでも評価額はおよそ50億ドル(約7,500億円)で交渉が進んでいる。
9月22日、Bloombergが報じた**Mirendil(ミレンディル)**の話は、いまのAI資金調達の温度をそのまま映している。Kleiner Perkinsが主導し、最大10億ドルを新たに調達、評価額50億ドルという条件で協議中。a16zも参加を検討しているという。半年前の3月、同社がステルスを抜けたときの評価額は約10億ドルだった。半年で5倍である。
何をやろうとしている会社なのか
Mirendilを率いるのは、CEOのBehnam NeyshaburとCTOのHarsh Mehta。二人はGoogleとAnthropicで同僚だった研究者で、2025年12月にAnthropicを離れて起業した。創業チームには、Anthropic・OpenAI・Google DeepMind・xAI出身の約20名が集まっているとされる。フロンティアラボの中核にいた人材が、まとまって外に出た形だ。
掲げているテーマは、ひとことで言えば「AIの研究を、AI自身にやらせる」こと。公式サイト(mirendil.com)の説明によれば、彼らが作ろうとしているのは、機械学習の実験を計画・実行し、自らの計算資源をコントロールし、人間の介入を減らしながら反復していくAIシステムだ。要は「モデルを改良する作業そのものを回す自己改善型のAI」を狙っている。
そしてその出口として据えているのが、生物学と材料科学だ。
「創薬ラボが、同時にフロンティアAIラボにならざるを得ない」問題
ここがこの会社の着眼点で、個人的にいちばん腑に落ちた部分だ。
Mirendilの問題意識はこうだ。いま、創薬・化学・生物学・ロボティクスの現場でAIを本気で使おうとすると、その研究室は同時にフロンティアAIラボにもならなければならない。最先端モデルを訓練し運用する専門知識は一握りのラボに集中していて、しかも高くつく。本来は薬や材料を研究したい人たちが、AIインフラの構築に体力を奪われている——という構図だ。
Mirendilは、この「AI研究の部分」を肩代わりするシステムを作ろうとしている。フロンティアモデルの訓練とラボのプロセス再設計を組み合わせ、科学の各分野で使える自己改善AIを提供する。うまくいけば、生物学者は生物学に集中したまま、AIの力を借りられる。フロンティアAI開発の民主化、という言い方をしている。
何が実現しうるか、そして何を疑うべきか
構想が成立したときのインパクトは大きい。「AIを使うために、まず自分がAIラボになる」という参入障壁が消えれば、創薬や新素材の探索で、これまでリソース面で手が出せなかったチームが最前線に立てる。AI自身が実験の計画と実行を回すなら、試行錯誤のサイクルは人間の労働時間から切り離されて速く回る。科学の進歩そのものが加速する——という絵は、確かに投資家が大金を張りたくなる物語だ。
ただ、正直に書くと、ここは相当に割り引いて見るべきだと思う。
まず、製品はまだ公開されていない。今回の50億ドルは、実績ではなく「人材の顔ぶれ」と「構想」に対する賭けだ。元Anthropicのトップ研究者が20人集まっている、という一点で評価額が跳ねている面は否めない。いまのAI業界は人材の奪い合いで過熱していて、半年で5倍という速度は、中身の進捗というより市場の熱を映している部分が大きいだろう。
そして「自己改善AI」「AIがAIを研究する」という言葉は、響きが強いぶん警戒もいる。計算資源を自分で制御し、人間の介入を減らしながら反復する——という設計は、安全性の観点では慎重な検証が必要な領域だ。皮肉なことに、Anthropicはまさに「フロンティアのペーシング」を掲げてきた会社で、そこを出た研究者たちが自己改善AIの加速に振り切る、という構図には考えさせられるものがある。
現時点でユーザーが触れるものは何もない。だから今回のニュースは「便利な新ツールが出た」話ではなく、「AIを作るAI」という次の主戦場に、フロンティアラボ級の人材と桁違いの資金が流れ込み始めた、という地図の変化として読むのが正しい。この賭けが実を結ぶかどうかは、最初のプロダクトが出てから判断すればいい。投資家の評価額は、まだ何も証明していない。
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