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机や太ももに指で書いた文字が、そのままメッセージになる — Metaの「Neural Band」がやっていること

キーボードもなく、画面に触れてもいないのに、机の上で人差し指をすっと動かすだけで文字が入力される。手のひらでも、膝の上でも、太ももでもいい。指を「書く」ように動かすと、その軌跡がアルファベットとして認識され、WhatsAppやInstagramのDMにそのまま流れていく。

SFのガジェットの説明のようだが、これは Meta が実際に出荷している機能の話だ。Meta Ray-Ban Display に付属する Neural Band という手首のバンドが、これを可能にしている。

何もない机が、なぜ入力面になるのか

仕掛けは手首にある。Neural Band は sEMG(表面筋電位)センサーを備えていて、指や手首を動かすときに筋肉が発する微弱な電気信号を読み取る。

ポイントは、カメラでもタッチセンサーでもないところだ。実際に机や紙に触れている必要すらない。筋肉が「この指をこう動かそうとしている」という信号そのものを拾うので、机の上でも、膝でも、空中に近い状態でも、指を動かせば入力になる。Meta は数十種類の新しい神経信号を認識できるようにし、アルファベットの全文字を安定して判別できるところまで持ってきたとしている。

考えてみると、これは入力デバイスの前提をひっくり返している。マウスもタッチパネルも「物理的な面に触れる」ことを起点にしてきた。Neural Band はその面を要らなくした。入力面が体のどこでもよくなった、というのが本質だ。

何に使えるのか

現状の対応先は、メッセージング周りが中心だ。WhatsApp、Messenger、Instagram のDM、そしてスマホ標準のメッセージアプリで、手書き入力からテキストを送れる。iOS と Android の両方のコンパニオンアプリに対応している。

地味に見えるかもしれないが、使いどころははっきりしている。両手がふさがっている、あるいは声を出せない場面だ。

満員電車で音声入力は使えない。会議中に机の下で短い返信を打ちたい。料理や作業で手が汚れているが、スマホは触りたくない。歩きながらスマホを見下ろしたくない——こうした「スマホを取り出して画面を見て打つ」が成立しない状況で、机や自分の脚を撫でるだけでメッセージが返せる。スマートグラス側のディスプレイに通知や下書きが出るので、視線を大きく動かさずに完結する。

ここから先は想像になるが、この入力方式が文字数の多い用途に耐えるようになれば、話は一段広がる。たとえば音声認識と組み合わせて「静かな場所では手書き、雑音の中では音声」と切り替えられれば、環境を選ばない入力手段になる。AR的なUIと繋がれば、空中に並んだメニューを指先でなぞって選ぶ、といった操作も地続きだ。実現には認識精度と対応アプリの拡充が要るが、「面に触れずに操作する」という土台ができている点は大きい。

正直な壁 — 高いし、日本では買えない

ここまで魅力的に書いてきたが、手放しでは勧められない事情がある。

まず価格だ。Neural Band は単体売りではなく、Meta Ray-Ban Display($799、日本円でおよそ12万円)に付属するものとして提供される。カスタムフィットのバンドが含まれるとはいえ、完全にアーリーアダプター向けの値付けだ。

そして日本の読者にとって決定的なのは、そもそも買えないという点。Meta は Ray-Ban Display の国際展開について、当初予定していた英国・フランス・イタリア・カナダでの販売を延期し、米国市場を優先する方針に切り替えた。国際展開は事実上、無期限の先送り状態にある。日本での正式販売は、まだ地平線の先だ。

つまり現時点でこれは、「未来の入力方式を垣間見せてくれるが、日本からは指をくわえて眺めるしかない」プロダクトということになる。そこは正直、もどかしい。

それでも見ておく価値がある理由

では日本のユーザーには関係ない話かというと、そうは思わない。

Neural Band が示しているのは、単一製品の面白さ以上に、「触れずに操作する」入力が実験段階を抜けて製品に載ったという事実だ。キーボード、マウス、タッチパネル、音声——入力の歴史はおよそ十数年おきに主役が入れ替わってきた。sEMGによる神経入力は、その次の候補として最も具体的な形を今とっている。

AppleやGoogleが同種のリストバンド型入力を本気で追い始めれば、数年内に「腕のバンドで操作する」が珍しくなくなる可能性は十分ある。そのとき最初の実物を出したのがMetaだった、という話になる。だから今の $799・米国限定という制約は、製品としての弱点であると同時に、次の入力パラダイムの最前線を先に覗ける切符でもある。買えなくても、ここで何が起きているかは知っておいて損はない。

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