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AIが映像を無限に作り続ける配信が現れた——視聴者のコメントで筋書きが変わる「インタラクティブ生成テレビ」の正体

9月初め、X(旧Twitter)とYouTubeで「Infinite Slop(インフィニット・スロップ)」という奇妙な配信が急速に広まった。画面には脈絡のない映像が延々と流れ続ける。宇宙を漂う猫、会議室で踊るビジネスマン、突然サメに変わる料理人。あらかじめ撮影された動画ではない。視聴者がチャット欄に打ち込んだ言葉を、AIがその場で映像に変換し、途切れることなく流し続けているのだ。

誰かの脚本ではなく、視聴者全員が次の一手を決める

仕組みはシンプルだ。視聴者がチャットに「恐竜が電車に乗る」と書くと、それが次の数秒〜十数秒のクリップとして生成される。しかもAIは、直前に流れていた映像となんとかつなげようと試みる。だから完全にバラバラではなく、ゆるく連続した「物語のようなもの」が立ち上がる。誰かが用意した脚本はなく、たまたま同じ時間に集まった数百人の思いつきが、そのまま番組の筋書きになっていく。

作ったのは、インディー開発者として知られるオランダ在住のピーター・レベルズ(Pieter Levels、通称levelsio)。一人で複数のサービスを運営し、その収益や開発過程をすべて公開するスタイルで知られる人物だ。今回も彼は、この配信をスマホ一台から立ち上げたと述べている。公開初日には累計3万7千人ほどが視聴し、同時接続は数百人から千人超に達したという。

名前の「slop(スロップ)」は、英語で「安っぽい生成コンテンツ」を揶揄する言葉だ。つまり作者自身が「これはくだらない生成物の垂れ流しですよ」と、あえて自嘲を込めて名付けている。この自己認識のある皮肉こそが、この企画の面白さの核心だと私は思う。

なぜ「今」これが可能になったのか

技術的な鍵は、映像を「再生されるより速く生成できる」ようになったことだ。従来の動画生成AIは、数秒のクリップを作るのに数十秒から数分かかっていた。生成待ちがある限り、映像を「垂れ流す」ことはできない。

この配信を支えているのは、動画生成基盤を手がけるfalが公開した「H3 Max」というモデルだ。これはオープンウェイトのMiniMax H3を土台に、falが追加学習と専用の推論エンジンで高速化したもので、768pの5秒動画をおよそ2.8秒で生成する。元のMiniMax H3が同じ映像に50秒以上かかっていたことを考えると、桁違いの速さだ。生成が再生に追いつく——この一線を越えた瞬間に、「終わらない番組」が現実になった。Infinite SlopはH3 Maxの公開からわずか数日で登場しており、事実上このモデルの実力を世に示すデモンストレーションになっている(falによるH3 Maxの解説)。

もっとも、速さはタダではない。falの料金は導入キャンペーンで1秒あたり約0.04ドル、9月1日からは0.08ドルに上がった。パイプを止めずに24時間流し続ければ、単純計算で1日およそ288ドル。個人が道楽で回すには軽くない金額で、falがこの企画を後援しているのも、自社モデルの宣伝として理にかなっている。

考察:これは「ノイズ」なのか、それとも入り口なのか

正直に言えば、Infinite Slopそのものは、数分見れば飽きる類のものだ。文脈の浅い映像が流れ続けるだけで、作者が名付けた通り「スロップ」以上の何かではない。ここに深い作品性を見出そうとするのは無理がある。

だが、私が注目したいのは中身ではなく構造のほうだ。「視聴者の入力で映像がその場で変わり、しかも止まらない」という体験の型は、まだ誰も本気で使いこなしていない新しい器だからだ。

たとえば、条件が整えばこうなり得る。ひとつは、個人に最適化された24時間チャンネルだ。あなたの気分や過去の反応を踏まえて、寝る前には静かな風景を、朝には元気の出る映像を、AIが延々と生成し続ける——テレビの編成表という概念そのものが消える可能性がある。もうひとつは、視聴と操作の境界が溶けたライブ配信だ。視聴者のコメントが物語の分岐や登場人物の行動を左右する、ゲーム実況と生放送の中間のような形式は、映像生成の遅延がここまで縮んだからこそ成立する。

ただし、これらはいずれも「生成の質と一貫性が今より上がれば」という条件つきの話だ。現状のように文脈がすぐ崩れる段階では、目新しさが消えた瞬間に飽きられて終わる。Infinite Slopの本当の価値は、完成された娯楽であることではなく、リアルタイム生成という新しい表現の器を最初に世間に見せつけた「概念実証」である点にある。器がここまで安く速くなったという事実だけは、後から効いてくるはずだ。

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