Granola レビュー -- 会議メモの「あの地獄」を終わらせるAIノートパッド

会議中にメモを取りながら発言する。相手の話を聞きながらキーワードを走り書きし、終わった瞬間に「あれ、あの話どこに書いたっけ」と自分のノートを遡る。誰もが経験したことのあるマルチタスク地獄だ。
ここ数年でAI会議ツールが大量に登場したが、その多くは「ボットが会議に入ってきて全部録音・文字起こしする」タイプだった。便利ではあるものの、クライアントとの初回ミーティングにOtter.aiのボットがニュッと参加してきたときの微妙な空気、あれを経験した人は少なくないはず。
Granolaは、そこに対する明確なアンチテーゼとして登場した。
ボットなし。ノートパッドがある。
Granolaの基本的な仕組みはシンプルだ。デバイスのシステムオーディオを直接拾って文字起こしする。Zoom、Google Meet、Teams、Webex、Slack Huddlesなど、プラットフォームを問わない。会議に参加者としてボットが入ってくることは一切ない。相手からは、ただ普通に会議をしている人にしか見えない。
会議が始まると画面にノートパッドが表示される。ここに自分のメモを自由に書く。箇条書きでもいいし、キーワードの羅列でもいい。会議が終わると、AIがその手書きメモとバックグラウンドの文字起こしを突き合わせて、構造化されたサマリーを生成する。決定事項、アクションアイテム、議論のポイントが整理されて出てくる。
ここが他の会議AIと根本的に違うところだ。OtterやFirefliesは「全自動の書記」として振る舞う。Granolaは「自分のメモを補強するAI」として振る舞う。主語が自分のままなのだ。
「LLMのハンドル」という思想
創業者のChris Pedregaliは面白いアナロジーを使っている。自動車の黎明期、ドライバーはレバーを左右に押して操舵していた。低速なら問題ないが、スピードが上がると破綻する。ステアリングホイールが発明されるまでに何年もかかった。今のAIインターフェースは、まだ「レバーの時代」にいる、と。
Granolaが目指しているのは、AIに対する「ステアリングホイール」を提供することだ。全自動で走らせるのではなく、人間が意味のあるコントロールを保ちながらAIの力を引き出す。この思想は、ノートパッドに手書きメモを残すという設計に色濃く反映されている。自分が何をメモしたかによって、AIが生成するサマリーの内容と粒度が変わる。つまり、メモの取り方がAIへの指示になっている。
正直なところ、この考え方には共感する。ChatGPTの長い出力をスクロールしながら「これじゃないんだけどな」と思う場面は多い。AIが勝手にすべてを処理するより、人間の意図を起点にAIが動くほうが、結果の精度は高くなる。
Recipesとカスタマイズ
2025年後半に導入されたRecipesは、会議の種類に応じてAIの出力形式を切り替える機能だ。1on1ミーティング用、営業ヒアリング用、プロジェクト進捗確認用など、テンプレートを選ぶとAIがその文脈に合った構造でサマリーを生成する。
地味だが実用的で、これがあるとないとで業務フローへの組み込みやすさが大きく変わる。議事録のフォーマットを毎回整え直す手間がなくなるのは、週に10回以上会議がある人間にとっては確実に効いてくる。
カスタムボキャブラリの登録もできるので、社内用語や製品名の誤認識を減らせる。10以上の言語に対応しており、日本語の文字起こしも動作する。ただし、英語以外の言語での精度は英語に比べると落ちる印象がある。
Spacesでチーム運用へ
2026年のSeries Cと同時に発表されたSpacesは、チーム向けワークスペース機能だ。フォルダ構成、きめ細かいアクセス制御、チーム内での会議ノート共有ができる。個人ツールから組織ツールへの転換点と言っていい。
これまでGranolaは「個人の生産性ツール」としての色が強かった。Spacesの導入で、チーム全体の会議ナレッジを蓄積・検索できるようになる。Vanta、Gusto、Asana、Cursorといった企業が既に導入しており、エンタープライズ展開の本気度が見える。
さらにMCPサーバーも2026年2月に公開されており、外部のAIエージェントから会議コンテキストを参照できる。Zapier連携で8,000以上のアプリと接続可能、Claude、ChatGPT、Figma Make、Replitとの統合も進んでいる。会議の内容がサイロ化せず、ワークフロー全体に流れる仕組みが整いつつある。
数字で見るGranola
2023年にChris PedregaliとSam Stephensonが創業。PedregaliはスタンフォードCS出身、元GoogleのPM(Gmail、Search、Maps担当)で、教育系スタートアップSocIntelligenceをGoogleに売却した経験を持つ。
資金調達の推移を見ると、成長の加速度がわかりやすい。
- 2024年10月: Series A、2,000万ドル
- 2025年5月: Series B、4,300万ドル(評価額2.5億ドル)
- 2026年3月: Series C、1.25億ドル(評価額15億ドル)
累計調達額は1.92億ドル。Series Cの直前四半期で売上が250%成長し、週次ユーザーリテンション70%超という数字を叩き出している。消費者向けAIで70%のリテンションはかなり異例だ。
料金
無料プランがあり、文字起こし回数は無制限だが14日間の履歴制限がつく。Businessプランは月額14ドルで、チームフォルダや統合請求が使える。Enterpriseは月額35ドルで、AIトレーニングへのデータ利用をオプトアウトできる管理者向け機能が加わる。
競合のOtter.aiがPro月額16.99ドル、Fireflies.aiがPro月額18ドルであることを考えると、価格競争力は十分ある。
Otter.ai・Firefliesとの違い
最大の差別化ポイントは前述のとおり「ボットなし」だが、それ以外にもいくつか実質的な違いがある。
文字起こし精度は、独立テストで90-92%とOtter.ai(85-88%)を上回り、Fireflies.aiと同等。ただし、Granolaの真価は精度だけではなく、文脈理解にある。生のトランスクリプトをそのまま出すのではなく、メモとの突き合わせによって「何が重要だったのか」を判断する。ユーザー調査では、会議後の処理時間がOtterと比べて30-40%短縮され、アクションアイテムの完了率が60%高いという報告もある。
一方でOtterには、完全なトランスクリプトとしての信頼性がある。法務や監査で「一字一句の記録」が必要な場面では、Granolaのサマリー型アウトプットでは不十分だ。用途によって使い分けが必要になる。
気になる点
率直に言って、いくつか懸念がある。
まず、音声・動画の録音機能がない。テキストのトランスクリプトとサマリーしか残らないので、「あのとき相手がどんなトーンで言ったか」を確認したい場面では困る。
話者識別の精度にも課題が残る。複数人が同時に話す場面で、誰の発言かが曖昧になることがある。
デフォルトでユーザーの会議データがAIモデルのトレーニングに使われる点も、セキュリティ意識の高い組織では引っかかるだろう。オプトアウトにはEnterpriseプラン(月額35ドル)が必要で、ここはもう少し柔軟であってほしい。
モバイル対応はiOSアプリがリリースされたが、対面会議のキャプチャに特化しており、オンライン会議との体験差がまだ大きい。Androidは未対応だ。
それから、サードパーティレビューの母数が少ない。G2で11件、ProductHuntで37件と、ユーザー数に対してレビューが少なすぎる。プロダクトの実力に対して認知がまだ追いついていない印象がある。
筆者の所感
Granolaが面白いのは、「AIにすべてを任せる」のではなく「AIと一緒にメモを取る」という体験を設計している点だ。この微妙なポジショニングが、高いリテンションと250%の売上成長につながっている。
「ステアリングホイール」の比喩は的を射ている。今のAIツールの多くは、入力したら出力が返ってくるだけの一方通行だ。Granolaは、人間のメモという入力がAIの出力を方向づけるという双方向性を持っている。これは地味に見えて、体験としてはまったく違う。
ただ、15億ドルという評価額は、会議メモツールとしては相当に強気だ。Spacesによるチーム展開とMCPによるエージェント連携が、「会議メモ」の枠を超えて「企業の会議コンテキスト基盤」になれるかどうか。ここが今後の分水嶺になるだろう。
週に何本も会議があって、メモの取り方に不満を抱えている人には試す価値がある。無料プランで十分に体験できるので、まず1週間使ってみて、自分のメモとAIの補強がどう噛み合うかを確かめてみるのがいい。
参考リンク
Granola Series C発表 - TechCrunch
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