Cursor 3.2 — 「同時に5つやって」が本当に通じるIDEになった
AIコーディングツールの競争が「並列実行」に集中している。
Claude Codeがサブエージェントで並列タスクを先行し、Codexがパラレルコンテナで追いかけ、そしてCursorが4月24日のバージョン3.2で自分なりの回答を出した。/multitaskコマンド、改良版Worktrees、マルチルートワークスペースの3本立てだ。
正直に言えば、Cursor 3の並列エージェントはUIこそ派手だったが実用面では「まだ早い」という空気があった。3.1でタイルレイアウトが整い、今回の3.2で仕組みそのものに手が入った格好になる。
/multitask — キューに並べるのではなく、同時に走らせる
これまでのCursorでは、複数のタスクを投げると順番待ちのキューに入った。1つ目が終わってから2つ目が始まる。当たり前だが、待ち時間がもったいない。
/multitask はこの制約を外す。タスクを受け取ると非同期のサブエージェントを複数立ち上げ、並列に処理する。大きなタスクを渡せば自動的に細分化し、複数のサブエージェントに振り分ける仕組みもある。
すでにキューに溜まったタスクがある場合でも、途中から /multitask に切り替えられるのがいい。「やっぱり全部同時にやって」が通じる。
Claude Codeのサブエージェント(Agent ツール)と思想は似ている。ただしClaude Codeがターミナル上のテキストベースで動くのに対し、Cursorはエディタ内にサブエージェントのタブが並ぶ。視覚的に進捗を追えるのはIDEならではの強みだろう。
Worktrees — ブランチごとの「隔離部屋」がワンクリックに
Worktrees自体はCursor 3から存在していたが、正直なところ不安定だった。コミュニティフォーラムでは「エージェントがworktreeの初期化に迷う」「ブランチの切り替えでファイルが壊れる」といった報告が散見された。
3.2のWorktreesはAgents Windowに統合され、バックグラウンドで別ブランチに隔離したタスクを走らせられるようになった。ポイントは「ワンクリックでローカルのフォアグラウンドに持ってこれる」こと。エージェントが裏で作業した結果をローカルで確認し、問題なければそのままマージする。駄目ならブランチごと捨てる。
この「作業→確認→マージ or 破棄」のサイクルが軽くなったのは大きい。1つの機能追加に3つのアプローチを試させて、一番良いものだけ採用するという使い方が現実的になる。
マルチルートワークスペース — モノレポ開発者が待っていた機能
3つ目の柱はマルチルートワークスペースだ。1つのエージェントセッションに複数のフォルダを束ねたワークスペースを指定でき、フロントエンド・バックエンド・共有ライブラリをまたいだ変更を一度に任せられる。
これまではリポジトリをまたぐたびにエージェントを再ターゲットする必要があった。モノレポや複数サービスの横断的なリファクタリングをやらせると、そのたびに文脈が切れて精度が落ちる。マルチルートワークスペースはこの問題を構造的に解決しようとしている。
フッターにワーキングディレクトリ・worktree・カレントブランチが常時表示されるようになったのも地味に助かる。今エージェントが「どこで」作業しているのか、一目でわかる。
気になる点 — コストと信頼性
3.2で大きく前進した一方で、開発者コミュニティからは懸念も出ている。
まずコスト。Cursor 3の並列エージェントを積極的に使った初期テスターの中には、2日で2,000ドルの請求が来たという報告がある。/multitaskで5つのサブエージェントを同時に走らせれば、当然トークン消費は5倍になる。Cursorの料金ページにはこのあたりの説明がまだ薄い。
信頼性の面でも課題は残っている。サブエージェントが指示を正確に守らないケースや、Worktreeの初期化に手間取るケースが報告されている。3.1まではUIレイヤーの改善が中心だったが、3.2は仕組みそのものに踏み込んだぶん、初期の不具合は覚悟が必要だ。
Cursorの「並列戦略」が見えてきた
Cursor 3 → 3.1 → 3.2の流れを並べると、戦略の輪郭がはっきりする。
3.0でAgents Windowという「複数エージェントを視覚的に管理するUI」を出し、3.1でそのUIを実用レベルに磨き、3.2で「バックエンドの並列化」に本格的に踏み込んだ。表面を作ってから中身を入れる、という順番だ。
Claude Codeは逆のアプローチを取っている。ターミナルベースでサブエージェントの並列実行を先に安定させ、UIはシンプルなままにしている。Codexはサンドボックスコンテナでの並列実行を選んだ。
どのアプローチが正解かはまだわからない。ただ、3社とも「AIエージェントの並列実行」が次の差別化ポイントだと見ている点では一致している。2026年後半のAIコーディングツールは「何人のエージェントを同時に動かせるか」が選択基準の1つになるだろう。
Cursorを使っているなら、まずは小さなタスクで/multitaskを試してみるのがいい。UIの完成度はCursor側に分があるが、コスト管理だけは注意が必要だ。
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