スクショなしでWebを操作するAIが2万スターを集めた — Alibaba page-agentの設計思想
マルチモーダルAIの時代に、あえてスクリーンショットを使わない。
AIにWebブラウザを操作させるアプローチは、ここ1年で急速に進化した。Anthropic Computer UseやOpenAI CUAは画面のスクリーンショットを撮り、視覚的に「見て」操作する。Browser UseはPlaywrightでブラウザを外部から制御する。どちらも「AIが人間のようにブラウザを見て使う」という発想に立っている。
Alibabaが公開したpage-agentは、まったく違うアプローチを取った。スクリーンショットを撮らない。ヘッドレスブラウザも起動しない。Webページの内部に直接JavaScriptとして住み着き、DOMを読んで、DOMを操作する。
GitHub 22,700スター超。7月5日にはTrending 3位に入った。
DOMを「脱水」するという発想
現代のWebページには数千のDOM要素がある。生のHTMLをそのままLLMに送れば、トークン数が爆発してコストもレイテンシも跳ね上がる。
page-agentはここで「DOM脱水(Dehydration)」という手法を使う。ページのDOMをスキャンし、インタラクティブな要素——ボタン、リンク、入力フィールド——だけを抽出して「FlatDomTree」と呼ばれるコンパクトなテキストマップに変換する。装飾用のdiv、CSSスタイル、非表示要素はすべて除去される。
LLMが受け取るのは、ページの「骨格」だけだ。スクリーンショットではなくテキストなので、マルチモーダルモデルは不要。GPT-4oやClaude Sonnet、Qwen 3.5、あるいはOllamaでローカルに動かすLlamaでも動作する。テキストモデルで十分という設計は、コストの面で大きな優位になる。
scriptタグ1行で動く
導入の手軽さは特筆に値する。
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/page-agent@1.11.0/dist/iife/page-agent.demo.js"></script>
この1行をHTMLに追加するだけで、そのページにAIコパイロットが付く。npmからインストールしてプログラマティックに使うこともできる。
import { PageAgent } from 'page-agent'
const agent = new PageAgent({
model: 'gpt-4o',
baseURL: 'https://api.openai.com/v1',
apiKey: 'YOUR_KEY',
})
await agent.execute('ログインボタンをクリックして')
重要なのは、page-agentがブラウザ内で動くため、ユーザーのクッキーやセッション、認証情報をそのまま引き継ぐことだ。外部ツールのように「まずログインさせる」手順が要らない。すでにログイン済みの状態でAIが操作を代行する。
3分の作業が35秒になった実例
物流企業の管理画面を対象にした4週間の実地テストでは、30フィールドある注文作成フォームの入力が3分から35秒に短縮されたという報告がある。チームはテスト後、正式にワークフローに組み込むことを決めた。
想定される用途は幅広い。SaaSアプリへのAIコパイロット埋め込み、ERPやCRMの複雑な操作の自動化、データ抽出、Webアクセシビリティの向上。Chrome拡張版を使えばタブをまたいだ複数ページの操作も可能だ。MCPサーバー(ベータ版)を通じた外部エージェントからの制御にも対応している。
Browser Useとは何が違うのか
page-agentはBrowser Useのオマージュを公式に認めている。DOM処理のパターンはBrowser Useから派生したものだ。ただし設計思想は大きく異なる。
| page-agent | Browser Use | Playwright | |
|---|---|---|---|
| 実行場所 | ブラウザ内(クライアントJS) | 外部Pythonプロセス | 外部プロセス |
| スクショ | 不要 | ハイブリッド | 不要 |
| LLM要件 | テキストモデルで可 | マルチモーダル推奨 | 不要 |
| 認証 | ユーザーセッション継承 | 別途設定 | 別途設定 |
| サーバーサイド実行 | 不可 | 可 | 可 |
| 複数ページ | Chrome拡張が必要 | ネイティブ対応 | ネイティブ対応 |
Firecrawlのブラウザエージェント比較レポートでは、DOM駆動型のアプローチはスクリーンショット駆動型に対して一般的なタスクで12〜17ポイント高い成功率を示すとされている。
正直な限界
page-agentは万能ではない。
ブラウザ内でしか動作しないため、サーバーサイドの定期実行やヘッドレスでのスクレイピングには使えない。そういう用途にはBrowser UseやPlaywrightが適している。
LLMが操作を計画する以上、実行は確率的だ。決済処理や規制対象のワークフローなど、100%の正確性が求められる場面には向かない。Reactの深いコンポーネントツリーやShadow DOMを多用したUIでは、DOM脱水がうまくいかないケースも報告されている。
そして根本的に、「ユーザーがブラウザを開いている」ことが前提だ。無人で夜間に動かすようなバッチ処理には使えない。
「ページの中に住むAI」という可能性
page-agentの最大の貢献は、GUIエージェントの設計空間に新しい軸を加えたことだろう。外からブラウザを操るのではなく、ページの中に入り込む。このアプローチが特にフィットするのは、自社のWebアプリにAIコパイロットを埋め込みたいSaaS事業者だ。バックエンドのインフラ構築なしで、scriptタグ1行でAI操作機能を足せる。
MITライセンス、無料、テキストモデルで動作。ブラウザ自動化の「第三の選択肢」として、試す価値はある。
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